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 確かに仮にバイエルン・ミュンヘンがブンデスリーガで連覇を果たしたして、そしてドイツ杯やチャンピオンズリーグで早期敗退を喫しても、それは昨シーズンと変わらぬ状況ではあるのだが、しかしながらそれでも決して普段通りのオフを過ごすことにはならないだろう。確実に事態は激変を迎えることとなり、問題はむしろそれがどのレベルにまで及ぶものであるのか。批判の矢面にたつのはオリヴァー・カーン代表とハサン・サリハミジッチ競技部門取締役だが、その追求される責任はそれぞれ異なるものとなっている。

 3年前にウリ・へーネス会長が退任しその後に名誉会長へと就任、そして2年前にはカール=ハインツ・ルメニゲ氏に代わりオリヴァー・カーン氏が、1年半のアシスタント期間を経て代表取締役へと就任。だがこれまでの間でバイエルンは様々な理由から本来の姿を見失っており、クラブが掲げるスローガン『ミア・ザン・ミア』の喪失も叫ばれているところ。とりわけそこには国際化、戦略、コミュニケーション、スタッフのマネジメントを行うカーン代表の、特にチーフアドバイザーを務めるモーリッツ・マテス氏が非常に批判的な目で見られていることがその要因の1つだ。この危機的状況から危うさを感じたカーン代表が、ここにきて期待されていた闘争心を押し出しているものの、本来よりコミュニケーションをはかり競技面でも影響力が与えられるよう期待されていたが、今頃はじめるようでは遅すぎた感が否めないだろう。

 ここで明確に線引きをしなくてはならないが、あくまでもしもクラブ全体の発展や、ビジネス面における批判をする矛先が向かうべき存在が、カーン代表であるということ。サッカー面に焦点をあてるのであれば必然的に、それは競技部門取締役であるハサン・サリハミジッチ氏に向けられるべきだ。その職務はチームに関するあらゆる人事面の決定であり、クラブ内でもあまり評判のよくないチームづくり、そして経営陣との間における風土という点でも責任をもつ。だがそれらはこの15・16ヶ月間であまりにも崩れてしまったとの声も少なくない。ミロスラフ・クローゼ氏やヘルマン・ガーランド氏らといったクラブの象徴的存在が後にしたことは、のちに後者が「ハサンとはいろいろ問題があった」とTV番組で明かしている点からも明らか。一部の選手はもはやデリケートな内容について思い切って心開き話せる環境にないとさえ感じているようだ。

 3冠達成のハンジ・フリック監督と仲違いまで起こり、その結果で高額な移籍金を投じてナーゲルスマン招聘に動いたサリハミジッチ氏だが、自身がそもそも対外的なコミュニケーション能力に乏しいため、青年指揮官が必要とするパブリックイメージやサッカーイメージ面でのサポートをするどころか、しばしば放置しただ悪化の一途をたどることになる。そのほかにもアレクサンダー・ニューベルとは偽りの約束がなされて不和が報じられており、セルゲ・ニャブリがパリに行った件やマヌエル・ノイアーのスキー事故における対応、トニ・タパロヴィッチGKコーチを巡る退団騒動、そしてこれまでの経緯から続投にこだわりすぎた結果、ナーゲルスマン監督のタイミングも見誤った。「これほどのクオリティがあるのだからタイトルを得られなければ驚き」という、自身の言葉にあったサプライズをいまや現実のものにしようとしている。

  ロベルト・レヴァンドフスキの移籍の際して、獲得したのはサディオ・マネだった。リュカ・エルナンデスには2000万ユーロという高学年俸を支払いながら、ダヴィド・アラバの年俸交渉には応じなかった。そこにはクラブ史上最高額で迎え入れた選手にプレーする機会を与えなくてはという思惑が存在し、実際にエルナンデスも今季は期待には応えていたが、ワールドカップ参加中の負傷で年明け以降は全休。それだけではなくアラバの存在は、フランク・リベリと長年コンビを組んでいたことで、アルフォンソ・デイヴィースへの助言、飛躍へと導く相乗効果ももたらしていたのだ。特にバイエルンというチームでいかに若手選手としてプレーしていくか、その難しさを身をもって知るリーダーシップは必要不可欠であり、その穴の大きさは今もなお指摘されるほどに意識されている問題だ。

 その結果ブンデスリーガ最終節を前にして、バイエルンは首位ドルトムントと勝ち点差2。11連覇ではなく11年ぶり無冠が現実味を帯びてきた。、就任まもないトーマス・トゥヘル監督は除き、前述のようにクラブ首脳陣の責任問題への波及も十分に予想されるもので、また選手という点でもほぼ全員が移籍候補ということになるだろう。残留が見込まれるのはマタイス・デ・リフトとヌゼア・マズラウイあたりで、若手マティス・テルとライアン・グラフェンベルフはレンタルに出される可能性もある。ヤン・ゾマーとサディオ・マネはまだ買い手がみつからないが、そもそもこれまでサリハミジッチ氏は移籍金収入という点で、バランスシートのプラスに転じるような契約をほとんど結べていない。移籍金800万ユーロを投じたブナ・サールは受け手さえなく、アラバやズーレ、トリッソらは無償で手放した(この2年でバイエルンは2億7100万ユーロを費やし、1億5150万ユーロほどの収入を得ている状況)。いま何がバイエルンにとって正しい判断であるのか。それがハイナー会長とカーン代表、そしてサリハミジッチを自ら指名したへーネス現名誉会長らによってくだされることになるだろう。