日本の自動車メーカーを代表するトヨタ、ホンダ、日産各社が2023年5月上旬、相次いで決算発表を実施。収支報告をするとともに、それぞれが将来に向けたEVシフトへの姿勢を示しました。

国際自動車メーカー「トヨタ」「ホンダ」「日産」が決算報告を実施

 2023年5月上旬、日系ビック3であるトヨタ、ホンダ、日産が相次いで通期の決算報告をしました。
 
 これら3社の決算報告会見で、3社それぞれがおおむね同じような内容のことを説明していた印象があります。どういうことでしょうか。

 トップのトヨタは、売上げが37兆1542億円。これは、前期比で18.4%と大きく伸びています。ただし、最終的な利益は、2兆4513億円で前期比14%減少です。

 第2位のホンダは、売上げが16兆9077億円で前期比16.2%増。最終的な利益は前期比1.7%減の6952億円でした。

 そして第3位の日産は、売上高が10兆5967億円で前期比25.8%と大きく伸び、また最終的な利益も前期比3%増の2219億円になりました。

 まず、グローバル市場全体としては、コロナ禍からの回復が確実となったため、ユーザーの購買意欲が高まり、また製造や販売の現場でのコロナ禍による直接的な影響がなくなってきたため、販売台数とした増加傾向がはっきりしてきた、という点です。

 3社それぞれが販売で強い国や地域は多少異なりますが、主力であるアメリカ市場では商品力がアップしたことで、ディーラー向けのインセンティブ(販売奨励金)を抑えたことでメーカーとしての収益性が上がったといいます。

 特に、日産はこの傾向がはっきりしています。

 また、世界第一位の自動車消費国である中国については、大都市圏である上海でのロックダウンの影響があったこと。

 それに加えて、中国が国策として強く打ち出しているNEV(新エネルギー車)の中でEVシフトが加速している点についても、3社それぞれが十分に認識しており、今後の中国市場への準備は整いつつあるという解釈です。

 気になる半導体不足については、例えばトヨタは半導体需給体制を「見える化」することで、代替品の準備をサプライヤーと進めることなどで、以前よりも半導体の調達が安定してきたと指摘しています。

 そして、販売台数が伸びているにもかかわらず収益が減少、または微増に留まっている主な原因は、やはり世界的な原材料費高を挙げています。

 その背景には、ロシアのウクライナ侵攻に関連するエネルギー需給問題や、世界的なEVシフトによる電池材料の価格上昇、さらに船舶などでの輸送コストの上昇など、様々な要因があります。

 一方で、為替変動については円安によるメリットがあり、原材料費高でのマイナス分を為替変動分で補うような形になっています。

 また、3社ともに、製品企画や商品企画、調達、製造、卸売り販売におけるさらなる効率化など、様々な技術・営業の努力によってコスト削減した効果もあると説明しています。

キモはやはり本格的な「EVシフト」

 今後の事業計画については、3社ともにグローバルにおける電動化の加速を示唆しています。

 なかでもEVについては、主要市場の各国がEV転換を求めていることに対応するものです。

 欧州では、一部は合成燃料を認めることになるとしても、おおむねEVまたは燃料電池車へと大きく転換するであろう2035年規制(エンジン車販売を禁止するゼロエミッション法案)があります。

 またアメリカは、IRA(インフレ抑制法)に対応するアメリカ国内での部品調達が求められています。

 そして中国では、ベンチャー企業を含めてEVへの技術革新が急激に進んでいるところで、3社ともにこれらの対応が大きな課題となることは明らかです。

 そのため、例えばトヨタは2026年から、これまでとは製品企画、設計、そして製造工程を大幅に見直す次世代EVを量産することを、改めて示しました。

 決算会見にタイミングを合わせて、少数精鋭の「BEVファクトリー」をトヨタ社内に立ち上げ、ITを活用した知能化を含めた、トヨタとしてこれまでに経験のないような新しい事業モデルにも挑戦する意向を改めて示しています。

 日系ビッグ3以外にも、マツダやスバルなどを含めて、EVを主体とする電動化については、今(2023年)から2020年代半ば頃までが「移行期・第一段階」として捉えています。

 この期間に、ハイブリッド車や各種ガソリン車・ディーゼル車など「稼ぐ力」をもとに、近未来への投資資金を着実に蓄えることで、機動的に次世代電動化や知能化の技術開発、そして量産化に向けた投資を行うという姿勢です。

 そして2020年代後半から2030年代前半には、次世代電動化と次世代知能化についての「移行期・第二段階」に入る計画でおおむね一致しています。

 一方ユーザー目線では、ガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車が今後いつまで量産され続けるのか、またはEVへの買い替え時期はいつがいいのか、といった期待と不安が重なるような時期が当面続くことになりそうです。

 日系ビック3を含めた日系メーカー各社としては、「世の中が大きく変わってきている時期であり、我々としても近未来の予想が極めて難しい」ということで一致しています。

 ユーザー自身が常に市場変化を敏感に捉えていくしか、対処法がないのかもしれません。

 まさに、自動車産業は「100年に一度の大変革期」の真っ只中にいるという事実を、今回の日系ビッグ3の決算発表を受け改めて実感しました。