イランがイスラエルを弾道ミサイルや無人機で大規模攻撃した。昨年10月に始まったパレスチナ自治区ガザ地域での戦闘が続く中、戦火がさらに拡大する事態を防ぐため、国際社会は一致して両国に自制を求めねばならない。

 直接の発端は、4月1日にシリアのイラン大使館が空爆され、司令官らが殺害されたことだ。イスラエル北部への軍事拠点として同大使館が狙われたとみられる。イランはイスラエル軍による仕業とみて、報復した形である。

 主権が及ぶ外交施設への攻撃には、国連安保理でも「外交施設への不可侵は尊重されなければならない」との懸念が示されていた。

 1979年のイラン革命以来、イランとイスラエルは敵対し、レバノンなどの親イラン民兵組織とイスラエルの間で紛争が繰り返されてきた。だが、両国とも相手への直接攻撃は行わなかった。

 今回のイランの大規模攻撃は、保守派指導部が、国内での不満の高まりもあり、強い対抗措置を内外に示す必要に迫られた結果とされるが、留意すべき点もある。

 イスラエル軍によると、米英軍の支援を受けて約300の無人機やミサイルの99%を迎撃し、死者は確認されていないという。イスラエルや米国に反撃の口実を与えないため、イランは米国側に事前通告した上、市街地を避けた限定的な攻撃にとどめたようだ。

 今後の焦点はイスラエルの出方である。ネタニヤフ首相は極右勢力に支えられており、反撃する構えを見せている。踏みとどまらせる影響力を持つ米国の責任は重大だ。

 バイデン米大統領はイランを厳しく非難する一方、ネタニヤフ氏には自制を強く求めた。事態をエスカレートさせる報復攻撃に米軍は参加しない方針も示した。

 イスラエルとイランが衝突すれば、パレスチナを含め中東地域全体を巻き込む危機につながる。

 産油国が集中する中東地域の輸送網の混乱は、原油の高騰など物価高の再燃を招きかねない。

 日本への影響は大きい。岸田首相はイランの攻撃に対し「非難」ではなく「懸念」という抑制的な表現を用いて、欧米諸国との違いを見せた。長年保ってきたイランとの関係を最大限に活用し、全面対決回避の道を探ってほしい。

 そもそも中東の緊迫化は、ガザ侵攻と人道危機の長期化が要因にある。緊張緩和にはガザでの停戦実現が不可欠で、国際社会は一層の外交努力を傾けるべきだ。