この春に就職した新入社員の中には、社会人になって最初の1ヵ月で疲れきってしまい、ゴールデンウィーク休暇明けにはすっかり無気力になってしまう人もいるでしょう。

昔から「五月病」と言われるように、これはよくある現象で、5月のこの時期は精神的に悩む人が多いです。まだ入社したばかりなのに、「もう会社を辞めたい」「すでに転職を考えている」という人さえいるかもしれません。

しかし、一度立ち止まって考えてみてください。
新卒入社してすぐの早期離職には、様々な落とし穴があるからです。

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そう語るのは、転職・キャリアをテーマにX(旧Twitter)、note、書籍で情報を発信するライター、転職デビルこと安斎響市さん。新卒で日系大手メーカーに入社後、4回の転職を経て外資系大手IT企業では部長も経験された安斎さんに、「 社会人3年以内の若手社員の転職 」について伺いました。

新卒入社すぐに「会社を辞めたい」と言う若手社員は多い

私は普段、Xやnoteなどの媒体で、一般読者の方の転職やキャリアに関する悩み相談、質問などに答えています。恐らく、累計で過去に1,000人以上の相談を受けてきたと思います。
その経緯で発見したことの一つが、「 私が想像していたよりもずっと多くの若手社員、特に新卒入社1年目〜3年目の人たちが、早くも転職について真剣に考えている 」という事実でした。

もちろん、入社した会社があまりにも激務過ぎるなどの事情で、体力的・精神的に仕事を続けることが難しい場合は、早期離職を考えるのもある程度は仕方ないと思います。
世の中には、想像を絶するほどブラックな環境の会社や、悪質なパワハラ・セクハラなども実際にありますし、「五月病」の域を超えて本格的に体調を崩してしまうくらいなら、なるべく早く会社を辞めた方がいいケースもあるでしょう。

しかし、新卒入社すぐの若手社員が転職を考える主な背景は、「ブラックな労働環境」「ハラスメントによるストレス」などではないようです。
株式会社学情が2023年8月に公表したアンケート調査結果によれば、社会人経験3年未満の人が転職を考える理由の 第1位は「もっとやりがい・達成感のある仕事がしたい」 で、全体の36.2%を占めています。

実際には、若手社員の早期離職の理由は「激務」「パワハラ」よりも、「成長を感じられない」「やりがいがない」といった 仕事の満足感・充実感 に関わるものなのです。

「石の上にも三年」は、単なる精神論ではない

ただ、個人的には、この傾向はかなり危険だと感じます。
社会人になってすぐの早期離職は、キャリア構築の妨げとなり、長期的な負債となって自分に返ってきます。

よく、SNSなどでは「本気で嫌な職場なら、さっさと辞めればいい」「20代の貴重な数年を棒に振るくらいなら会社を辞めよう」と主張する人を見ます。こういう一見優しい言葉は、迷っている人の背中を押し、転職に踏み切る勇気をくれるので、SNSウケが良いからです。

ただ、当然ですが、「辞めればいい」と背中を押した人は、辞めた後のあなたのキャリアの責任を取ってくれるわけではありません。退職後にどうなったとしても、その責任を取るのは自分自身です。
だからこそ、 「もっとやりがい・達成感のある仕事がしたい」と言って安易に会社を辞める前に、慎重に考えて判断をするべき だと思います。

私が言いたいのは、「石の上にも三年」という単なる精神論ではないということです。

実際に転職活動をしてみるとすぐに分かりますが、中途採用では個々の求人ごとに 「営業経験5年以上」「近しい業界での実務経験3年以上」など、求める人材の条件 が具体的に示されており、それらの条件を満たせない人は面接に応募することさえできません。
「社会人経験1年未満」などの状況では、採用してくれる企業が現実的にほとんど見つからないのです。

いくら「もっとやりがい・達成感のある仕事がしたい」と言っても、採用してくれる会社がなかったら、転職はできません。勢いで会社を辞めてしまうと、そのまま無職になってしまいます。

たまに、 「今の職場ではまったく成長できないし、何のスキルも身に付かないから転職したい」 と言う人がいますが、企業側の視点で冷静に考えてみた方が良いです。新卒入社後、まったく成長できておらず、何のスキルも身に付いていない学生同然の人材を、わざわざ中途で雇う会社がどこにあるのかと。

要するに、 「服屋に着ていく服がない」状態 です。まずは最低限、転職活動の土俵に立てるだけの社会人の基礎を身に付けて、その後で勝負をした方が良いです。「成長」「やりがい」を手に入れるのは、それからの話です。

「未経験歓迎」「第二新卒」の求人は要注意

こういうことを書くと、 「第二新卒枠での転職なら、きっと大丈夫なはず」「未経験歓迎の求人に応募すれば、職歴がなくても転職できるだろう」 という発想をする人もいます。

それは、間違ってはいないです。「転職できるかどうか」という意味では、転職自体はできるでしょう。
ただし、それは 「転職さえできれば、というなら」という条件付き です。「未経験歓迎」「第二新卒」などの、誰でも経験不問で就職できる職場を見つけたとして、その転職先で本当に「やりがい・達成感のある仕事」が手に入るのか、私はかなり疑問です。

売りになる経験値やスキルが何もない人を「未経験歓迎」「第二新卒」などの言葉で釣って採用する企業には、たいていの場合、裏があります。

例えばこのような事例です。

  • 若手社員の離職率が極めて高く、年に一度の新卒一括採用だけではとても追いつかないため、第二新卒で通年採用して無理やり人員を補充している会社
  • まともに経験者を募集しても待遇や環境があまりにも悪く誰も応募してこないので、仕方なく「未経験歓迎」で募集し、入社後に経験者レベルの業務を丸投げする会社
  • 学生にまったく人気がなく、普通に新卒採用で募集しても相手にしてもらえないので、あえて「早期離職した若手」を狙っている、あまり評判の良くない会社

もちろん「未経験歓迎」「第二新卒」という名目で採用活動をしている会社すべてが劣悪な環境というわけではないです。中には、本当に良い会社もあるでしょう。
前提として、「良い会社」「悪い会社」という評価も人それぞれの価値観によるので、必ずしも一概には言えません。最終的には、個人の考え方次第です。

ただ、焦って早期離職する前に慎重に考えてほしいのは、 なぜその会社はわざわざ「新卒」ではなく「第二新卒」で採用をしているのか? 本来、経験者を雇えるならそれに越したことはないはずなのに、なぜ「未経験」を歓迎しているのか? という募集の背景です。

社会人3年以内の転職を、必ずしも否定するわけではありません。
キャリアの選択は人それぞれです。新卒入社した職場の環境があまりに酷くて、どうしても辞めるしかない状況の人もいるでしょう。

この記事の内容を真剣に受け止めて、慎重に判断をしてください。
キャリアの責任を取るのは、自分自身なのですから。

プロフィール

安斎響市@転職デビル

1987年生まれ。日系大手メーカー海外営業部、外資系大手IT企業の事業企画部長などを経て、2023年に独立。「転職とキャリア」をテーマに、X(旧Twitter)、note、書籍などで情報発信を続けている。Xフォロワー4.4万人。転職活動の実践ノウハウを語る週刊連載noteマガジンの有料会員は、累計7,000名を突破。

代表著書
『私にも転職って、できますか? 〜はじめての転職活動のときに知りたかった本音の話〜(ソーテック社)』
『転職の最終兵器 未来を変える転職のための21のヒント(かんき出版)』
『すごい面接の技術 転職活動で「選ばれる人」になる唯一の方法(ソーテック社)』
『正しいキャリアの選び方 会社に縛られず「生き残る人材」になる100のルール(ソーテック社)』
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