「推し活」とは

 すっかり聞き慣れてきた「〜推し」というワード。「AKB48」などのアイドルグループのファンが、自身が一番好んで“人に勧めたい”ほど応援しているメンバーのことを「推しメン」と呼んだりし、一気に広まった言葉です。

 2020年から「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で連載されている赤坂アカさん原作、横槍メンゴさん作画の漫画「【推しの子】」は、生前の記憶を持った主人公が、推していたアイドルの子どもとして生まれ変わるという、いわゆる“転生もの”作品の一つで、2023年4月にアニメ化され、海外でも注目されるほどの人気ぶりです。

 さらに、「推し」の対象はアイドルだけではなく、俳優やYouTuber、アニメやゲームのキャラクター、歴史上の人物、鉄道まで多彩なジャンルがあります。

 「推し活」とは、推しに会いに行ったり、推しのグッズを買ったり、配信を見たり、自分の推しを周囲にも勧めたりする単なる「好き」とは異なる熱狂的な応援活動のことを指します。

推し活とオタ活の違い

 推し活と似た言葉に「オタ活」があります。オタク活動の略語で、推し活と明確な違いはありません。区別するとしたら、推し活は“対象を応援する”活動、オタ活は“対象を趣味として極める”活動といったニュアンスの違いがあるようです。

推し活を楽しむために必要なこと

 「アーバンライク」で働く柴田彩音さん(熊本県荒尾市)は、推し活で健康になったと感じている1人です。

柴田さん「私には、長く、強く推している“推し”がたくさんいます。YouTuber・アーティスト・アニメキャラ・ゆるキャラなど、いろんな分野で推しができています。推しのおかげで日々楽しく過ごせているなと感じます。

推し活のおかげで毎日が楽しく、落ち込んだりしても、推しの言動一つで元気になります。また、活動的になったことも推し活の効果だと実感しています。

推しが関わった土地を訪れる“聖地巡礼”などに積極的に行ったり、普段の生活では出会わないような人とも、同じ趣味でつながって友達になることができました。また、推しに会う時のためにダイエットをする人もいるので、驚くほどキレイになった人もまわりにはいます。

たくさんのメリットがある一方で、少し注意するべきデメリットもあります。推しの言動一つで元気になると前述しましたが、反対に、推しの言動で元気がなくなる場合もあるのです。

SNSで推しの情報集めをするため、スマホを見る時間が長くなってしまったり、ライブ配信などがあれば夜更かしをしてしまう恐れもあります。

また、同じ推しがいる仲間を受け入れない『同担拒否』になると、周囲に対して攻撃的な言動をする人もいます。

デメリットを踏まえて、長年、推し活をしてきた私が考える推し活の効果を最大限に生かす方法に『悪い情報はうのみにしない』『まわりと比較しない』『イベントなどは積極的に参加する』。この3点を守ることを提案します」

 柴田さんのように「推し活」で健康になったと感じる人がいますが、本当に推し活が健康や美容に影響を与えるのでしょうか。

 そこで、こころと美容のクリニック東京(東京都中央区)院長で精神科医の大和行男先生に聞きました。

推し活で健康になったと感じる理由は?

なぜ「推し活」で健康になったと感じるのか

Q なぜ、推し活で健康になったと感じる人が多いのでしょうか。

大和先生「恋人や家族といった大切な人といて幸福感を感じるのは、『オキシトシン』という物質が関係しています。オキシトシンは、『幸せホルモン』、または『愛情ホルモン』といわれ、自分が好ましいと思う相手やモノに触れている時に脳内で放出される物質です。

推し活をしている時も同様な状態が起こると考えられます。実際に推しに会いに行ったり、推しグッズを身近において常に推しのことを考えることで、オキシトシンが放出され、幸せな気持ちになるのです。

さらに、推し活をすることで『楽しさ』『(推しと会えた)達成感』を感じたときに、脳内物質である『ドーパミン』が放出されます。ドーパミンは『快楽ホルモン』ともいわれ、楽しいことをしている時や褒められた時などに分泌され、快感を与えます。

また、脳が、ドーパミンで得た快感を学習するので、継続して推しを応援していこうという『やる気』も起こってくるのです」

Q 推し活を行うことによって、体や心理面に現れる良い影響を教えてください

大和先生「前述のように、推し活を行うと、『オキシトシン』や『ドーパミン』が放出されることで、幸福感を感じたり、やる気を起こさせてくれたりします。

『オキシトシン』による幸せを感じることで、副交感神経の働きが強まり、リラックス効果を得たり、睡眠の質が上がったりするといった良い影響が考えられます。やる気が起こることで、ポジティブ思考になり活動的になったり、仕事などで日々感じているストレスを軽減してくれたりといった影響も考えられるでしょう。

また、不登校で悩んでいる子どもたちにとっては、推し活があることで屋外に出るきっかけになっている点も非常に大切だと思います。思春期とは同世代やさまざまな人と関わることで社会的にも人間的にも成長する大事な時期だからです。

ただし、幸せホルモンには『セロトニン』の存在も欠かせません。このセロトニンが不足すると、不安、緊張、恐怖、強迫観念(何度も確認しないと気が済まないなど)が起こります。一時的に放出される『オキシトシン』『ドーパミン』と違い、いわゆる平常心を保つ上ではセロトニンが十分あることも大切です。推し活でリフレッシュしながら、セロトニンを増やすような食生活をぜひ意識してみてください。

ただし、推し活にも注意が必要です。柴田さんが話してくれたように推しのネガティブな情報に振り回されないことが大事になります。また、推しのためだといって度を超えた出費や睡眠時間が減ることで無理を続けていると、応援することが苦しくなるかもしれません。自分なりのルールを決めて、無理のない推し活をしましょう」

(LASISA編集部)