不安な新学期は保護者の“声かけ”が大事

 新学期を迎え、子どもたちは新たな生活にわくわくする一方で、不安な気持ちを抱いています。親としては、学校での生活、先生との関係、友達のことなど、聞きたいことは山ほどありますよね。ついつい、質問攻めにしてしまいがちではないでしょうか。また、朝起きられない、宿題をやり忘れた、忘れ物が多いなどが子どもに見られた時、どんな言葉をかけますか?

 私たちの言葉がけ一つで子どもたちの心は良くも悪くも変化します。子どもたちの心身が健やかに育つよう、周囲ができる限りサポートできたらいいですね。今回は、新学期を迎える子どもに「かけてはいけない言葉」「かけたい言葉」を心理カウンセラーの佐藤城人さんに解説していただきました。参考にしてみてください。

子どもと向き合うことがスタート

はじめに

 春4月、各地で桜も見ごろになりました。ランドセルの初々しい姿など、この時期ならではの光景です。皆さんが小学生のころはいかがでしたか?私はこの時期になると、思い出す場面があります。ほんの少し、私の昔話にお付き合いください。

「どうして、虹は雨の後に見えるんだろう?」、あの当時の私は、見るもの聞くもの、身の回りのさまざまなことに、「なぜ?」と疑問を持つ子どもでした。ただ、質問をしたくても、父は酒ばかり、母は家事や内職に忙しい毎日。落ち着いて話ができる環境ではありませんでした。そこで、学校に行くのが楽しみだったんですね。先生に色々聞けるだろうと。

 早速その機会は訪れます。連休明けの雨上がりの放課後、教室の窓から、きれいな虹の姿。「先生、なんで雨の後に虹が見えるの?」と私。まだ、日本語もたどたどしかったはずです。「そうだね、きれいだね、じゃあ先生と見ていようか」とおっしゃる先生と、しばらく眺めていました。やがて、虹は消えてしまいましたが、いつしか私は、雲に乗ってみたい話や、もっと遠くの宇宙に行ってみたい夢などを語っていました。先生からは、夢や疑問を持つことの大切さなどを教えていただいたように覚えています。虹への疑問の解決。これは、数年後図書館で調べることになるのですが…。自分のたわいもない疑問や夢に、真剣に耳を傾けてくれる先生の存在が無性にうれしかったんですね。

 子どもは時々、私たち大人でも答えにくい質問をしてきます。「なぜ○○なの?」「どうして?」と。そして、とかく忙しいと、「そんなの後にして」とか、「学校の勉強に関係ないでしょ」などと否定しがちです。確かに、言いたくなる気持ちはわかります。ただ、あの頃、自宅で疎外感を感じていた私にとっては、「聞いてくれることによる安心感」が大きかったようです。
子どもの成長の際、必要なことは「安全な場所の確保」です。安全基地と言ってもいいでしょう。この基地があるからこそ、子どもは安心して、さまざまなことにチャレンジができます。たとえ、失敗しても戻れる場所があるという安心感です。そして、この安全な基地を形成する役割を担うのが、親ではないでしょうか。ぜひ、しっかりとわが子と向きあい、耳を傾けて聞くこと、ここからスタートしてはいかがでしょう。

【図1】目的が変われば手段が変わる

かけたい言葉を考える際のポイント

 図1をご覧ください。子どもには安心感という安全な基地が必要とお伝えしました。これは目的になります。そして、この目的を達成するための手段。これが、「かけたい言葉」です。

 この目的と手段の関係を見落としてしまうと、手段のみが一人歩きしてしまいます。「あの言葉はNG」「この言葉はOK」のように、手段の良し悪しのみの議論となってしまいます。これが目的と手段の混同で、混乱を招きます。手段はあくまでも目的を叶えるための方法です、従って、両方セットで考える必要があり、目的に応じて言葉の使い方も変わります。要はケースバイケースなんですね。

【図2】インプットの言葉、アウトプットの言葉

「かけたい言葉」とは行動を促す言葉

 ここで質問です。次の3つの言葉のうち、実際に効果の出る言葉かけはどれでしょう? 小学校の子どもにテストで良い成績を取って欲しい場面です。

(1)テストで100点取ろうね。
(2)30分ドリルに取り組もう。
(3)なまけるのはダメです。
この3つ以外にも言葉かけはできると思いますが、ここではこの3択でお考えください。

 正解は(2)です。図2をご覧ください。まず選択肢の(1)と(2)の比較です。(1)は図2の右側「アウトプット」を求める言葉です。結果を求める発想と言ってもいいでしょう。この成果主義、大人であればOKです。なぜならば、求められる結果を出すために、何を準備し、どのような手順で進めれば良いのか、などをキチンと考えることができるからです。

 では、小学生に同じことを要求できるでしょうか?いきなり求めるのは、難しいと思うんですね。そこで「インプットの言葉」です。インプットの言葉とは、具体的な行動を促す言葉です。まだ、子どもが小さい場合、「100点を取ろう」と言われても、「じゃあ、何をすれば良いの?」となります。その「何を」に当たるのをインプットする必要があります。このインプットの言葉は、大きく次の2つに分かれます。

A:行動を促す言葉(目的志向の言葉)
B:行動を回避する言葉(問題回避の言葉)

 テストで100点を取ることが目的であるのならば、その目的に沿う言葉をかけたいですよね。選択肢(2)の「30分ドリルに取り組もう」は、Aの行動を促す言葉です。

 これに対して、(3)の「なまけるのはダメです」は、Bの行動を回避する言葉です。どちらが望む行動ですか?答えは(2)ということがわかります。

 目的に応じて手段は変わるとお伝えしました。例えば危険を察知して、回避させたい場面であれば、行動を回避する言葉かけが有効になります。例えば、「知らない人には付いていってはいけません」これは、誘拐を回避するために必要な言葉かけとなります。

心身を緊張させてしまう言葉かけ

「行動を促す言葉(目的志向)」と「行動を「回避する言葉(問題回避)」、この2つは、ケースバイケースで使い分けをする必要があるとお伝えしました。ただ一点だけ補足です。ご理解いただくために、実験にお付き合いください。まず、次の文を10回つぶやいてください。

「明日のテスト、ミスしてはダメです」

 つぶやくことはできましたか? では、今あなたの体に、何か感じることはありますか?かすかな感じで大丈夫です。では、次の実験です。次の文を10回つぶやいてください。

「明日のテスト、うまくやろう」

 呟くことはできましたか? では、体に感じることはありますか?先ほどの「ミスしてはダメ」と比べて何か違いはありますか?

 前者の「ミスしてはダメ」とつぶやいた方が、体に強張りを感じることが多いです。そして、「ミス」という言葉がどうしても頭に残るため、かえってミスを誘発します。不安も強く感じることでしょう。この強張り感、自律神経で捉えるのならば、交感神経にスイッチが入った状態です。そして、強い不安感が自律神経を乱します。
もし、あなたのお子様が、何かと緊張しがちな場合、Bの行動を回避する言葉かけが多いのかもしれません。次のような言葉です。

・××してはダメです。
・××はいけません。

この「××」には回避させたい言葉が入ります。寝坊・遅刻・忘れ物・ケンカなどです。保護者として、回避させたい気持ちはわかります。そのため、NGとは言いません。ただ、使った際は、「行動を促す言葉かけ」これも意識したいですよね。なぜならば、回避するだけでは、子どもは「じゃあ、どの行動を取ればいいの?」と不安になり、身動きが取れなくなってしまうからです(身動きが取れないことも緊張を促します)

・寝坊してはダメです→〇時には起きよう
・遅刻してはいけません→〇時には家を出よう
・忘れ物をしてはダメです→必要なものを持とう
・ケンカはいけません→仲良くしよう

このように望ましい行動・安心に通じる行動の言葉も、ぜひ使ってみてください。子どもも、何をすればよいのかが明確になり、ホッとしリラックスできます。

完璧な親は存在しない

さいごに

 冒頭の私の例のように、子どもは、さまざまなことに疑問を感じます。この疑問、好奇心と言っても良いものです。この好奇心に丁寧に対応するかどうか、これが知的能力を伸ばします。

 もちろん、大人の私たちでも答えられない質問もあることでしょう。目的に合わない言葉かけをしてしまうこともあるでしょう。その際でも、ダメな親と自己否定をしないでください。完璧な親は存在しません。いくらでもリカバーは可能です。そして、その失敗やミスをどのように乗り越えていくのか、この姿を子どもたちは見ています。

「本当の失敗とは、途中で諦めてしまうこと」
この言葉は、私が成人になったとき、虹の先生からの年賀状にありました。今でも大事にしています。

(佐藤城人(さとう・しろと))