道なき道を拓き、未だ見ぬ新しい価値を世に送り出す人「起業家」。未来に向かって挑むその原動力は? 仕事における哲学は…? 時代をリードする起業家へのインタビュー『仕事論。』シリーズ。

今回は、就職活動の「過程」が評価される新卒採用プラットフォーム「ABABA(アババ)」を提供する、株式会社ABABA代表の久保駿貴(くぼ しゅんき)さんが登場。起業に至るエピソードや、ABABAで実現したいことを伺いました。

ルーツは、いまの就活システムに感じた「憤り」

──まず、ABABAを起業した経緯を教えてください。

きっかけは、親しい友人が就職活動(以下、就活)で最終面接に落ちて、立ち直れないほど深い精神的ダメージを負ってしまったことです。彼はある一流企業だけを目指して、努力と対策を重ねてきたにもかかわらず、報われませんでした。

彼が最終面接にたどり着くまで積み上げた努力や時間が、不採用通知1通で無駄になってしまっていいのか?」と、僕は憤りを覚えたのです。

彼が一流企業の最終面接まで残れる優秀な人材であることは間違いない。しかしそのことが次のステップや評価につながらないというのは、友人である自分にとっても残念でした。

彼のような人のために、何かできることはないだろうか? そう考えたことが起業に至ったきっかけです。

──それでは御社の事業について教えてください。

ABABAは、最終面接まで進んだ就活生だけに企業がアプローチできるダイレクトリクルーティングサービスです。

このサービスでは、2つの方法で就活生を募っております。

まず1つ目は、「お祈りメール」を「お祈りエール」に変える方法。

企業の採用担当の方が送る不採用通知、いわゆる「お祈りメール」を、「採用はできませんでしたが、素晴らしい人材なのでぜひ他社に推薦させてください。ABABAに登録していただけたら、他社に推薦することができます」という「お祈りエール」に企業様に変えていただき、お届けします。

エールの文面も各社ごとに、丁寧にヒアリングしながら作成しています。これまで「お祈りメール」を送らなければならなかった採用担当者の方からも、就活生を不採用にする罪悪感、精神的負担が軽減されたと好評です。

もう1つは、就活生に自ら登録していただく方法。こちらは最終面接まで進んだエビデンスがあれば登録可能です。

このようにしてABABAに登録していただいた就活生には、弊社に登録している多数の優良企業からスカウトが届きます

2020年11月のリリース以来、学生ユーザー数は3万5000人、企業ユーザー数は1100社に。届けてきたスカウトは100万通を超えました

これまで就活生は、不採用になったという事実を「過ち」のように、なるべく明かさずに就活を続けていたと思います。しかし、このプラットフォームでは、結果が実を結ばなくても就職活動の「頑張り」が評価されます

また、採用を考えている企業にとっても、優秀な就活生に直接アプローチでき、採用効率を高めることが可能です

──非常に完成されたビジネスモデルだと思いますが、思いついた当初から「いけるぞ!」という確信はありましたか?

「就活生からのニーズは、必ずあるだろう」という確信がありました。しかし企業側が、他社の最終面接で不採用となった人材を評価するのか、採用するのかについては、正直なところ、わからなかったです。

そこで、当時通っていた「岡山イノベーションスクール」に講師としていらしていた企業代表・経営者の方など、約50名にヒアリングしました。

というのも、起業における「ヒアリング・仮説検証」の大切さを、ABABA以前に立ち上げ、軌道に乗せることができなかった2つのサービスでの経験から、身にしみて理解していたからです。

話は逸れますが、そんな僕の個人的な経験からも、「何事も一発でうまくいくとは限らない、失敗しても大丈夫」ということを、ABABAを通じて就活生に伝えたい。そんな思いもあります。

認められても、導入されるとは限らない難しさ

──久保さんは元々、起業家志望でしたか?

実は、元々は起業家になろうとは思っておらず、理系だったので研究者になるつもりでした。しかし、一方でサービスをつくることにも、以前から面白さを感じていました。0から1を生むのが好きなのです。

また、さまざまな社会課題に対して、ビジネスを通じて解決する方法はないだろうか? ということもよく考えていましたね。そういった関心が、やがて起業につながったのだと思います。

──当初はご自身でシステム開発もされていたと聞きました。

はい、僕はエンジニアではないので 「ノーコード」と呼ばれるコーディングがいらないサービスを活用しました。

いち大学生でもシステム開発ができるツールですが、かといって決して簡単なわけではありません。僕も1日12時間ぐらい、ノーコード自体の勉強をしました(笑)

ノーコードは、努力こそ必要ですが、専門的な知識がなくてもシステム開発が可能で、これが普及すれば「アイデアの民主化」も実現できるはずです。なので、もっとたくさんの人に広まってほしいですね。

また、日本ではノーコードでつくられたサービスで上場した事例はありません。ABABAで日本初の上場を叶えたいです。

──事業を成長させるなかで難しい局面はありましたか?

ABABAをいいサービスだと思っていただける方は多く、さまざまなコンテストで賞もいただいてきました。

しかし、導入するとなると、話は別です。人事の担当者様からは好印象だったとしても、実際に企業様に導入していただくまでの道のりは険しい

だからこそ、ABABAが目指すビジョンをしっかりお伝えし、共感していただく必要があります

不採用であっても優秀な人材には違いない就活生たちが、ふさわしい会社とつながり、やがてそこで活躍できるようになれば、日本全体が活気づき潤うはず

このビジョン、そして想いを伝えるべく日々、奮闘しています。

人材を循環させる新しい文化をつくる

──チームビルディングで気に留めていることはありますか?

マネジメントにおいては、信頼できる優秀な仲間に「任せる」ことを意識しています。

リーダーとして一番大切に思っているのは「気遣い力」。会社を代表する「顔」として、基本的な挨拶や礼儀、そのほか相手を気遣うことはいつでも意識しています。

一方でチームに対しては、いい距離感でいたいと思っています。立場のせいで気を使われることのないよう、メンバーからいじってもらうぐらいの距離感がちょうどいいのかな、と(笑)。ベンチャー企業は、働く人たちの距離が近いというのが良いところではないでしょうか。

──最後にこの事業で目指すゴールをお聞かせください。

ABABAは「お祈りエールを日本の文化に」という目標を掲げています。

新しい文化や常識をつくるのは本当に難しいことですが、これを成し遂げて新たな歴史をつくるのがベンチャーの仕事

「お祈りエール」が当たり前の文化として定着すれば、企業も就活生も、誰も不幸にしない人材サーキュラーシステムになるはずです。

5年後、10年後に「人材を適材適所に循環させる文化・概念をつくったのはABABAだ」と言っていただけるまで、しぶとく粘り強くやり続けたい。それが、今目指しているゴールです。

なんとしてでも出資してほしい、憧れの人物がいた

──ここからは一問一答形式でお聞きします。いつも何時に仕事をはじめて、何時に終えますか?

9時ぐらいからスタートして、終わるのは24時ぐらい。どこまでを仕事と捉えるのかによりますが…。

少しでも時間が空くとパソコンを開いて仕事をしてしまうので、意識して何も考えない時間をつくるように努めています。

──愛用デバイス、仕事道具は?

Mac Book Airです。

「知ったかぶりをしない」のシールは、自分への戒めとして貼っています。

──情報収集はどのように行なっていますか?

SNSや新聞、雑誌、それからコメンテーターを務めさせていただいているTOKYO MX「堀潤モーニングFLAG」からも情報を得ています。

仕事に追われていると、世界情勢などのニュースをキャッチアップすることは難しいのですが、出演前の予習も含めて、たいへん勉強になっています。

──能力を伸ばすには? ビジネス力を伸ばすには?

やはり、数をこなすことでしょうか。「量の中から質が生まれる」と個人的には思っているので、積極的に経験を重ねることが何よりかと。

特に、20代で夢中になれる仕事に出会えたのなら素敵ですよね。

──尊敬する人はいますか?

元・サッカー日本代表選手の本田圭佑さん。実は、僕は中学生のころからずっと追いかけているほど大ファンなんです。そして、心から尊敬しています。

そんな本田さんに、僕はなんとしてでも出資していただきたかったので、ひたすらアピールを続け、数年かけてチャンスを掴み取りました。

──余暇の過ごし方は?

休暇はなかなか取れませんが、理想的を言うとピアノを弾きたいです

高校2年生までピアノを習っていたので、帰省したときは実家で弾くこともあります。

──心が折れたときはどうしますか?

折れることはないですね。

本田圭佑さんの言葉ですが「うまくいっているときほど謙虚に。いってないときほどビッグマウスに頑張ろう」というマインドで日々を過ごしています。

──食生活で気をつけていることや、好物は?

好物は地元・明石の名物、明石のりと明石焼。エビフライも好きですね。

食生活については、気を抜くと食事を忘れて仕事をしてしまうので、そういう意味で気をつけています。

──運動の習慣はありますか? どんな運動をされますか?

本当は草野球やフットサルをしたいのですが、今年はまだフットサルを1回しただけ。

運動の習慣がなくて困っているところです。

──これだけはやらないと決めていることはありますか?

「忙しい」と言わない

忙しいと言った瞬間にチャンスがなくなり、誘ってもらえなくなるので、いつも「暇です」と言うようにしています。

──ビジネスパーソンにおすすめの一冊は?

佐宗邦威さんの『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』(ダイヤモンド社)です。

特に「会社の売上を10%じゃなく、10倍成長をさせるにはどうしたらいいか? その視点を忘れるな」というメッセージが刺さりました。

10倍の成長を目指すなら、ただ数字を動かすだけでは達成できません。斜め上の視点から新たなアイデアを考える必要があります。これは起業家だけでなく企業で働く人にも必要な視点・思考ではないでしょうか。

──座右の銘は?

刻石流水(こくせきりゅうすい)」。

受けた恩義はどんな小さいことでも自分の心の石に刻みなさい。自分がしてあげたことはすぐに水に流しなさい」という意味です。

この言葉は、自分の考え方に合っていますし、何より好きな言葉でもあります。

久保駿貴(くぼ しゅんき)

株式会社ABABA CEO。2020年、岡山大学在学中にABABAを創業。第17回キャンパスベンチャーグランプリ(CVG)全国大会で経済産業大臣賞を、「東京ベンチャー企業選手権大会2023」 にて最優秀賞など受賞歴多数。先日、シリーズAラウンドにて3.7億円の資金調達を実施。地方発、ノーコード開発のスタートアップとしても注目されている。また、東京MX「堀潤モーニングFLAG」などコメンテーターとしても活躍中。兵庫県出身。

Source: ABABA(1, 2), TOKYO MX, Amazon/Photo: 伊藤圭