無惨様も死ぬほど恐れた男

 アニメ『鬼滅の刃 刀鍛冶の里編』では、鬼殺隊士たちの訓練用の絡繰人形「縁壱零式」が登場しました。顔は主人公・竃門炭治郎が夢で見た「耳飾りの剣士」に似ており、零式人形はモデルとなった戦国時代の剣士の動きを再現するために腕が6本もあります。

 この戦国時代の剣士は、「始まりの呼吸の剣士」とも呼ばれ、今後アニメ化予定の「柱稽古編」以降、どんどん正体が明かされ、原作連載時もその衝撃的な実力が話題になりました。今回はそのエピソードを振り返ります。

※この記事では『鬼滅の刃』のアニメ化していないエピソードのネタバレを含みます。

 縁壱零式の基となった剣士「継国縁壱」は、『鬼滅の刃』に登場するキャラクターのなかで最強の呼び声が高い人物です。当然すでに故人ですが、炭治郎の生い立ちや鬼殺隊、無惨一派の物語を語る上でたびたび名前が登場する、物語の最重要人物のひとりでした。

 縁壱は鬼の開祖・鬼舞辻無惨から「本当の化け物はあの男だ」と恐れられる存在で、それゆえに無惨は同じ耳飾りを着けていた(なぜ着けているのかも今後明らかになります)炭治郎を殺そうと狙います。作中でも縁壱の剣技は「神の御業」、そして彼は「鬼狩りの長き歴史で最も優れた剣士」と称されました。

 天才・縁壱のすごさを語るエピソードは多々ありますが、特に鬼殺隊において重要なのは、鬼を倒すための剣術の基盤である「全集中の呼吸」を編み出し、隊士たちに伝授したことが挙げられます。彼は始まりの剣技といわれる「日の呼吸」の使い手であり、個人個人に合わせた呼吸の指導もできました。当時の鬼殺隊にとって、縁壱の存在が大きな希望であったことは間違いありません。

 また、縁壱は生まれながらにして、骨格や内臓の動きを見通すことができました。この能力は「透き通る世界」と呼ばれており、通常であれば剣術や武術を極めた者にしか到達できない領域だと言われています。

 これを生まれた瞬間から会得していたとなると、「本当の化け物」と言われることにも納得です。しかも心優しく正しい縁壱は、この能力を使って母親の左半身が不自由なことを見抜き、常に左側にくっついて母親を守るように生活していました。

 さらに、発現すると25歳前後で死んでしまうと言われていた「痣」を生まれながら持っていた縁壱ですが、なんと80歳を超えるまで生きています。彼は双子の兄であり現在の上弦の壱の鬼である黒死牟との戦いのなかで最期を迎えますが、死因は寿命で、その剣技には何の衰えもありませんでした。

 死の直前まで剣を振るい続け、80歳を超えてなお現役時代と何ひとつ変わらない動きで黒死牟を圧倒しています。勝敗を決する前に寿命を迎えてしまいましたが、最後まで傷ひとつ負わずその生涯を閉じました。

 その他にも幼少期のエピソードでは、10歳未満の身体で一昼夜走り続けることができたほか、剣術においても優れた才能を見せ、7歳で初めて剣を持った時には打ち込みで剣術の指南役を難なく倒してしまいます。それでいて、性格には全く嫌味もおごった部分もなく、
「この世はあらゆるものが美しい、この世界に生まれ落ちることができただけで幸福だと思う」とさまざまなものを愛し、自分の技も教えを請われたら的確に教え、争いごとを嫌う、人格も完璧な人物でした。

 縁壱の能力にネット上の原作ファンの間では、改めて「隙が無さすぎだよね」「完璧超人すぎる」「設定盛りすぎ」といった声があがっています。

 ただ、誰よりも優れた才を持つ彼が幸せな人生を送れたかというとそうではなく、最愛の家族を鬼に殺され、その才能・人格ゆえに大事な兄が嫉妬に狂って鬼となり、出会ってすぐに「自分はこの男を倒すために生まれて来たのだ」と理解した無惨も倒すことはできませんでした。

 各エピソードはこれからアニメで詳細に描かれるため省きますが、「『透き通る世界』の描写、アニメの神作画で早く見たい」「『日の呼吸』の美しい型、どう描くんだろう」「黒死牟の縁壱への嫉妬エピソードが井上和彦と置鮎龍太郎ボイスで描かれると思うと、今から切なくて泣ける」「過去回想の『縁壱vs無惨』がある意味最大の決戦だから、アニメで増量して描いてほしい」など、期待の声が多数出ています。