『ウイングマン』がヒットした時代背景にあったもの

 本日2月7日は、1984年にTVアニメ『夢戦士ウイングマン』が放送を開始した日です。当時、「週刊少年ジャンプ」で人気連載中だった、桂正和先生によるマンガ『ウイングマン』が原作となります。桂先生の知名度を一気に上げた『ウイングマン』について振り返ってみましょう。

『ウイングマン』の連載は「ジャンプ」1983年5・6合併号からで、その原典となる『ツバサ』は、1980年の第19回手塚賞佳作を受賞していました。この『ツバサ』は雑誌掲載こそされませんでしたが、後にコミックスに収録されて世に出ることになります。

 その後、桂先生は第21回手塚賞準入選作品『転校生はヘンソウセイ!?』で、「ジャンプ」1981年32号にてデビューを果たしました。この頃、その才能を見出したジャンプ編集部の鳥嶋和彦さんに勧められ、桂先生は主にラブコメ作品を中心に描いていたそうです。

 おそらく鳥嶋さんとしては、桂先生の連載デビュー作はラブコメ作品を期待していたのでしょうが、桂先生は特撮ヒーローファンだったことからヒーローものに執着していたといいます。そこで折衷案として、ヒーローものをメインとしながらも、ラブコメ要素の強い『ウイングマン』が連載デビュー作となりました。

『ウイングマン』連載当時、「ジャンプ」は方針からか、ラブコメ作品がいくつか連載されています。しかし、ヒーローものといえば近いジャンルは『キン肉マン』くらいでしたから、他作品と差別化がはかられていたこともヒットに結び付いた要因なのかもしれません。

 急速な人気上昇というわけではありませんが、『ウイングマン』は着実にファンを生み出し、徐々に「ジャンプ」の一角を担うような作品となっていきます。そして、連載から1年ほど経過したころにTVアニメ化が発表され、「ジャンプ」でも不動の人気作品となっていきました。

 アニメでは『夢戦士』と付けられ、原作マンガよりファミリー向けに製作されています。そのため、主人公である「広野健太」はおっちょこちょいが目立つ、より親しみやすいキャラクターとなって、作風も日常的要素が強いものとなっていました。

 この健太を演じたのが、現在はレジェンド声優と呼ばれる堀川りょう(当時は堀川亮)さんです。ちなみに堀川さんは子役として活躍していたものの、声優は今作がデビュー作で初主演作でした。

 TVアニメ版『夢戦士ウイングマン』によって、ファン層は広がりを見せます。しかし、それ以上に追い風となったのが、数年前までは子供番組として軽んじられていた特撮ヒーロー番組に変化がおとずれたことでした。

『宇宙刑事ギャバン』以降のシリーズによるメタルヒーローの隆盛、『科学戦隊ダイナマン』から加わった出淵裕さんのアニメ的デザインといった要素が、特撮ヒーロー番組に興味を失っていた青年層を呼び戻していたことです。こういった背景が『ウイングマン』のヒーロー要素を、「新しいもの」として受け入れられる援護射撃となったのでしょう。

 こうしてアニメもスタートし順風満帆に歩んでいた『ウイングマン』でしたが、思わぬ「つまずき」が起きてしまうのでした。

「夢戦士ウイングマン DVD-BOX 2」(ハピネット・ピクチャーズ) (C)桂正和/集英社・東映アニメーション

いまだにファンの声が多いその理由とは?

 それはTVアニメが放映開始されてから2か月ほど経過した時のことです。桂先生の急病により、原作マンガは5か月にも及ぶ連載中断となります。この時原作マンガの物語は「神矢兄弟」との戦いの真っ最中で、ラスボスである「リメル」との決戦も間近という状況でした。

 このような先の気になるところで中断されては、ファンも気が気ではなかったでしょうが、それよりも慌てたのはアニメスタッフだったかもしれません。何せ原作のストックは最初から1年ほどしかなかったのですから。

 そうはいっても当時の「マンガ原作TVアニメ」は、昨今と違ってオリジナル展開が入るのは当たり前でした。何せ「ウイングマン」のバイクにあたる「ウイナア/ウイナルド」に変わって、アニメオリジナルバイク「ウイナアII世(ツー)/ウイナルドII世」を登場させているくらいなのです。

 この他にも「マッハチェイング」と「パワーチェイング」という、「ウイングマン」のアニメオリジナル形態も登場していました。そういう点では、「ジャンプ」休載中でもアニメで『ウイングマン』の新エピソードを毎週観られる環境にあったわけです。

 やがて桂先生も復調し、「ジャンプ」での連載も再開されました。そこから2か月ほどで「リメル編」も完結。年内には第2部の「ライエル編」に入りました。この頃にはTVアニメも佳境に入り、年明けには「リメル」を倒しています。

 そしてTVアニメではこの後に、アニメオリジナルとなる「ゴーストリメル」との戦いになり、「ライエル」は登場しないまま独自展開で全47話にて最終回を迎えました。ラストは「健太」とヒロイン「アオイ」の別れというアニメオリジナルで、後の原作マンガ版と近い形になっています。

 このためか、原作マンガとTVアニメは異なった展開が多かったものの、明確に片方を非難する意見をあまり聞きません。メディアは違っても、描いていた作品のテーマが近かったせいなのでしょう。共に見るものの心に残る名作でした。

 だからでしょうか、昨今のネット記事で『ウイングマン』が取り上げられると、そのコメント欄で再アニメ化の要望をよく見ます。もちろん近年、過去の名作の再アニメ化が多い現状という背景もあるでしょう。それを差し引いても『ウイングマン』への期待は高いものといえます。

 そこには、アニメ最終回と入れ違いに原作マンガで始まった「ライエル編」の、アニメ化への期待や、『電影少女』以降のさらに美しさを増した桂先生の描く美少女でのリメイクといったものも望まれていることでしょう。

 アニメ放送から40年を迎えた今の時期なら、昭和の名作『ウイングマン』が令和に復活するかもしれません。ファンの期待に応える動きがあることを望みます。