「こんなのゲームじゃない」けど、今や重要なゲーム
世界にはさまざまな名作ゲームやクソゲーと呼ばれる作品がありますが、それとは一線を画すようなゲームも存在します。今回取り上げる『LSD』もそうで、この作品をひとことで言い表すのであれば「カルトゲーム」でしょう。
『LSD』は1998年10月22日に発売されたPlayStation向けタイトル。日本のアスミック・エース エンタテインメントによって開発されました。
「LSD」は幻覚剤を意味する言葉でもあり、本作もまさしく電子ドラッグを意識したかのようなゲームであることは間違いありません。キャッチコピーは「こんなのゲームじゃない」であり、挑戦的過ぎる作品だったといえるでしょう。
ジャンルとしては主観視点のアドベンチャー(公式にはドリーム・エミュレータ)で、プレイヤーは夢のなかを歩き回っていきます。歩いてさまざまな場所へワープしつつ、「ハッピータウン」や「バイオレンス街」を探索します。
テクスチャが不気味な色に変わったり、奇妙なイベントに遭遇したり、はたまた実写ムービーが流れたり、よくわからない詩が出てきたり……。夢日記を実際にゲーム化したそうなので、そういう唐突で無茶苦茶な展開ばかりが起こるのです。
初代PlayStationは3Dグラフィックが活用できるゲーム機として登場したうえ、さまざまなゲーム開発会社が作品制作に挑戦していました。ゆえに今で言うところのインディーゲームを思わせるような挑戦的な作品も多かったわけです。
『LSD』は、マルチメディアアーティストの佐藤理さんがプロデュースしています。佐藤さんはグラフィックデザインや広告制作、あるいは音楽など幅広い分野で活動しており、本作もその一環として制作したようです。
とはいえ、他人の夢の話を聞いてもおもしろくないように、『LSD』はあまり良い評価を受けませんでした。挑戦的過ぎるのは間違いないですし、広大なフィールドを歩き回るだけで何をすればいいのかわからないなど、低評価を受けやすかったのは間違いないでしょう。
当時は低評価、でも、あの名作ゲームも『LSD』に関係している?
『LSD』が面白いかどうかはさておき、この作品は後世に大きな影響を与えました。「不気味な世界を歩き回る」という発想は、確実に人の心を掴んだのです。
今でこそ「ウォーキングシミュレーター」というジャンルが生まれているわけで、もし『LSD』が違う時代に生まれたらより評価されたかもしれません。結果として、今ではプレミアがついた希少なゲームになっていますし、PlayStation Storeのゲームアーカイブスで復活したときは話題になりました(残念ながら、現在は購入不可)。
フリーゲームとして人気の高い『ゆめにっき』も、『LSD』に影響を受けていると言われています。『ゆめにっき』は少女が夢の中の世界を歩き回るゲームで、似ているのは確かです。
『ゆめにっき』は2Dグラフィックで描かれていますし、主観視点ではありません(見下ろし型です)。しかし、たしかに気味の悪い世界を歩く部分は共通していますし、いろいろなものを調べるとレアイベントが発生するところも近いところがあります。間違いなくフォロワーといえるでしょう。
海外では「LSDJAM」と呼ばれる『LSD』ライクなゲーム開発を行うイベントも実施。こちらはさまざまな開発者がそれぞれドリーム・エミュレータを作るというもので、2023年開催時には208もの作品が集まりました。
あるいは、ファンが勝手に『LSD』をリメイクしている動きすらあります。リメイク計画は2011年から進行を続けており、その熱量には驚きを隠せません。
『ゆめにっき』から影響を受けたと思われる『OMORI』というRPGもありますし、大人気のインディーゲーム『Undertale』も制作者がその影響を明かしています。フリーゲームまで見ていけば、その数はかなりのもの。『LSD』の孫くらいの存在が無数にあると言っても過言ではないでしょう。
『LSD』は出た直後こそそこまで高く評価されませんでしたが、インターネットが発達した後により多くの人に影響を与え、その突飛なアイデアを生かした子孫たちが生まれました。もはや、歴史に名を刻んだゲームになったと言えるかもしれません。