せっかく覚えたけど、道具でこと足りる……

 1988年に発売されたファミコン版『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』(以下、『ドラクエ3』)には、敵を攻撃したり、仲間を回復したりするさまざまな呪文が存在します。プレイ開始当初から使える職業のうち、最も多くの呪文を覚えるのが「魔法使い」です。ただ魔法使いが使う呪文のなかには、せっかくレベルを上げて覚えたのに、使う機会が少なかったものもあります。

 そうした残念な呪文のひとつが、レベル35で覚える「アバカム」でしょう。この呪文は、鍵のかかった扉を開けることができるというものです。消費MPは0で、非常に便利に思えるかもしれませんが、覚えるのが遅すぎます。

 というのも、アバカムを覚えるころには、同じ効果のある道具「最後の鍵(さいごのかぎ)」を手に入れているからです。公式ガイドブックによると、最後の鍵を手に入れるために必要な「渇きの壺」のある「エジンベアの城」に到達するレベルは24となっていました。

 序盤でコツコツとレベル35まで上げることができれば、鍵を獲得することなく、扉の開錠が可能になり、大多数のプレイヤーが通ったのとは異なる順序での攻略も見えてきますが、かなりの苦行になるはずです。

 なお、ファミコン版の場合は「どうぐ」欄のスペース節約という存在意義があった「アバカム」も、リメイク版で追加された「ふくろ」によりそれすらなくなり余計、残念なものとなりました。

 一方、その渇きの壺のあるエジンベアの城へ入るには、門番に見つからないよう自らの姿を透明にしなければなりません。魔法使いがレベル33で覚える「レムオル」を使えば透明になれますが、公式ガイドブックの攻略情報にレムオルを勧める記述はありませんでした。代わりに、同じ効果のある道具「消え去り草(きえさりそう)」の使用が勧められており、そしてレムオルを使う場面は、ほかに見あたりません。つまり、公式ガイドブックにまで、その重要な出番をスルーされてしまうという気の毒な呪文なのです。

 ただ、透明になった状態で街の人に話しかけるといった遊び方もできるため、その場合は、一度使えばなくなる消え去り草よりも、MPさえあれば何度も使えるレムオルは重宝されるでしょう。

 そのレムオルより少し前、レベル30で覚える「シャナク」は、呪われた武器や防具を装備してしまった仲間に唱えることで、その武器や防具を破壊し呪いを解く、という呪文です。しかしながら、『ドラクエ3』に登場する呪われた武器や防具は全6種類と少ないこと、城や町にある教会でも呪いを解けることから、シャナクを使う機会も少なく、またシャナクでなくてはならないという場面もほとんどありませんでした。

 そして、魔法使いが最後に覚える呪文、レベル40で習得する「パルプンテ」もまた、ご存知のとおり困惑のつきまとう呪文です。戦闘中に使用するパルプンテは、唱えた際に何が起こるかわからない呪文であり、公式ガイドブックによると、その効果は15種類あると書かれていました。味方全員のHPを回復させたり、モンスターをあとかたもなく砕け散らしたりと便利なものもあれば、呪文を唱えた声が山彦になって空しく響くだけで何も起こらない、というものもあります。

 どのような効果が得られるかわからないため、通常の戦闘で頻繁に使用されることは、まずなかったといえるでしょう。とはいえ大半のプレイヤーは、運試しとばかりにドキドキしながらパルプンテを唱えた経験があるのではないでしょうか。

 これらの呪文は、通常のプレイのなかで使用することは少ないでしょう。ただ、自分なりに呪文の活かし方を探してみるのも遊び方のひとつです。こういった呪文の存在が『ドラクエ3』の制作スタッフの遊び心を示しているのかもしれません。