2024年3月21日、つくば市上境にある「つくばヘリポート」において、自律型無人航空機「EHang 216-S」のデモンストレーションフライトが開催されました。新しくオープンした「つくば空飛ぶクルマ テストフィールド」の開所に合わせて実施されたもので、関東エリアでは初となります。

もっと気軽に使える、空のモビリティを目指して

「空飛ぶクルマ」というと、ちょっとSFチックなものに思えるかもしれません。けれど、リアルな次世代交通のひとつとしてすでに、世界各国で実用化に向けた取り組みが進められている「都市型モビリティ」です。

正式名称は「eVtol(イーブイトール:Electric Vertical Take-off and Landing=電動垂直離着陸機)」。最大の特徴は、垂直方向の昇降に加えホバリングや水平移動が可能なので、離着陸に滑走路を必要としないことです。ある程度のスペースと法的認可があれば、きわめて機動的な移動の手段となりえます。

形状としては飛行機タイプもありますが、人や物が収まるキャビンユニットを中心にプロペラやローターを配置した、巨大なドローンをイメージするのがわかりやすいでしょう。動力は電気モーターです。そのため、長距離を高速で移動する飛行機に比べると、限られたエリアにおける少人数での移動、少量の運搬への活用が想定されています。

国内の自動車メーカーとしてはHonda Jetでおなじみのホンダも、eVtolの開発に積極的。「ビジネスはもとより通勤、通学にも利用できる、より気軽に使える空のモビリティ」として着目しているそうです。新しい移動の価値は、自由な暮らしの未来に結び付く可能性を秘めているというわけです。

今回、飛行デモンストレーションを実施した株式会社Air X(代表取締役 手塚究)は、そうした次世代モビリティの社会実装に向けて、機体の導入やインフラ構築に取り組む日本の企業です。ヘリコプターやプライベートジェットなどのサービスを提供するとともに、それらの予約管理、在庫管理、運行管理といったシステム開発まで行っているそうです。

そんなAir Xが2024年3月11日、茨城県つくば市に新たにテストフィールドをオープンすることを発表。3月21日に報道陣を招いて、開所式を行いました。拠点名は「つくば空飛ぶクルマ テストフィールド」。

つくば市上境にある「つくばヘリポート」を拠点とするつくば航空株式会社と連携し、デモフライトを通しての技術を実証。同時に、整備・管制といった地上インフラ整備に関する検証を行うほか、操縦士の育成スクールを開講、将来的には周辺の敷地に工場を建設、製造・販売まで行う一大ヘッドクオーターを構築する将来像まで描いているそうです。

パイロットなし。オペレーションはタブレットで

実証飛行のデモンストレーションに使用されるのは、「EHang 216-S(以下、EH 216)」。自律型無人航空機(AAV)の技術プラットフォーム企業として世界をリードしている、中国のEHang Holdings Limited(以下イーハン)が開発、販売している機体です。

二人乗りの卵型キャビンを中心に8本の脚が広がり、先端には電気モーターと二枚の同軸プロペラがそれぞれ固定されています。一見して思い浮かべたのは、首がないスワンボートでした。もちろん、非常に近代的なフォルムなのですが、ドアを開くと翼っぽいところとか、キュートなたたずまいが似ているように思えるからです。

最大積載重量は220kg、大人ふたりと荷物(キャビン後方に収納可能)を載せて、最高速度130km/hで飛行することが可能です。充電は高出力の電源車で行われていましたが、満充電での設計飛行距離は約30km/hとなります。時間にして、おおよそ20分ほど、とのことです。

開所式での飛行デモは、ヘリポート敷地内の上空30mほどのとこで方向を変えながら三角形のコースをたどるカタチで2回、行われました。飛行距離は約350m。見た目の「大きなドローン」というイメージから、自由自在に方向を変えながらアグレッシブに飛び回るものを予想していましたが、実際は非常におっとりとした動きです。

上昇、方向転換、水平移動、また方向転換、水平移動・・・というふうに、ベクトルとしては常にひとつの方向に向かっていきます。あまり「運転している」という感じではありませんが、これもおそらく、電動自律型無人飛行機ならではの挙動なのかもしれません。

なにしろドライバーもパイロットも機内にはおらず、乗るのはパッセンジャーだけ。眼前にされた12インチのオンボードタブレットに目的地を設定すると、あとはお任せで目的地まで連れて行ってもらうシステムです。

イーハンのお膝元である中国には、配車から制御、監視、早期警報といった集中管理を行うスマートコントロールセンターがあって、AIによるオートパイロットとともに、オペレーションを行っています。日本にはまだそういう施設はありませんが、将来的にはつくばヘリポートの管制塔にセンターが設けられる計画です。

みんなの日常に溶けこむような、新しい交通システムへ

開所式の来賓として、地元つくば市長の五十嵐立青氏が祝辞を述べました。「研究学園都市」など、国内の自治体としては非常に先進的なイメージがあるつくば市ですが、今回のテストフィールド開設には「より市民にわかりやすい最先端技術としての役割を期待しています」とのこと。

商用運用に向けては、法整備など課題が未だにあります。それでも今回の飛行デモでは、クルマとは違う意味での、都市型交通の理想形としての可能性を十分に感じることができました。あとは自治体であれ国であれ、どこまで本気でその活用を進めていくのか・・・。

やはり来賓として中国から訪れていた、EHang Holdings Limitedのチーフ・ファイナンシャル・オフィサー兼ディレクターConor Chia-hung Yang氏は、事業としての将来像を「DailyLife for Everyone」とコメント。確かに、これまでにない形の社会インフラに対する広い視点を持つことが、求められているのだと思えます。

現状、Air Xが稼働させているEH 216は2台。2021年5月に、国土交通省航空局から試験飛行に関わる許可証が正式に交付されて以来、日本国内でも認知を向上する取り組みを積極的に進めています。

いつの日か、つくば市の空をさまざまなカラーリングのEH 216が飛び回ることになるのかもしれません。その節は、「首」がついている仕様もぜひ。子供たちの人気者に、なれそうです。