「10年ひと昔」とはよく言うが、およそ10年前のクルマは環境や安全を重視する傾向が強まっていた。そんな時代のニューモデル試乗記を当時の記事と写真で紹介していこう。今回は、三菱 ミラージュだ。

三菱 ミラージュ(2012年:6代目)

タイで生産される三菱の世界戦略コンパクトカー、ミラージュ。日本では昨年(編集部註:2011年)の東京モーターショーでお披露目され、この夏には発売が予定されている。以前に[タイ仕様の試乗記]は紹介したが、正式発表を前にクローズドコースで、ほぼ日本仕様の最終プロトタイプに試乗できた。まずは、そのパフォーマンスの一端を味わっておこう。

そのシンプルでクリーンなデザインは、妙に凝ってゴテゴテしているよりも飽きがこないだろうと好感を持っている人も多いはずだ。また、強豪ライバルがひしめく激戦クラスながら、他を差し置いて非ハイブリッドの登録車として燃費でトップに立つ(開発目標値は27.2km/L)というのも大きなトピックスだ。今回の試乗はプロトタイプゆえ、クローズドコースでのチョイ乗り程度だったが、基本的なキャラクターは把握できた。思っていた以上に第一印象は良かった。

エンジンは直列3気筒の1.0L NA。4気筒に比べると気筒あたりの排気量が大きくなるため、熱効率に優れ低回転域のトルクも確保しやすいという利点がある。直噴やダウンサイジングなどハイテクに手を出していないのは、コストを抑えるため。可変バルブタイミング機構のMIVEC、アイドリングストップ機構、減速エネルギー回生システムなどを採用する以外は、フリクション低減など基本技術を徹底的に煮詰めて低燃費を実現しているという。

またボディの軽量化も徹底している。高コストにならない範囲で高張力鋼板の採用を拡大するとともに、なるべくシンプルで直線的な構造とすることで強度と軽量化を両立。従来のコルトに対して150kgも軽くなった。今どきは他クラスとも共有化を増やすモジュール技術などでコスト低減を図ることが流行っているが、ミラージュの場合は完全な専用設計。汎用性はないが的を絞って〝ピン〞の性能を狙っている。

エンジンの良さは普通だが、シャシの良さに感激!

エンジンのフィーリングはいたって普通。驚くほどトルクフルではないが、軽めの車両重量に対し十分な力があり、騒音や振動は3気筒としてはまずまず。ただCVTの制御に関しては、燃費重視のためなるべく早くロックアップしようとしたりして、少しリニアさに欠けるところもある。最近の低燃費仕様車にはありがちだが、市販モデルまでにもう少しスムーズになっていると嬉しいところだ。

それよりも興味深かったのがシャシ。サスペンションはしなやかでストローク感たっぷり。乗り心地の良さと素直な操縦性に好感が持てる。ヨーロピアン コンパクトのフォード フィエスタやVW up!などに近い雰囲気だ。限られた条件下での試乗なので、まだ判断は下せないが、これで高速域での安定性が確保され、荒れた路面で安っぽい軋み音などがでなければ、燃費だけではなくシャシも国産ライバルの上を行くことになりそう。とくにスポーティというわけではないが、クルマとの一体感が高い通好みなフィーリングだ。

もう一つ、ミラージュの美点としてあげられるのは取り回しがいいこと。最小回転半径は軽自動車並みの4.4mで視界も良好。ボンネットの膨らみによって車両感覚がつかみやすい。今回はパイロンで区切られた狭いクランク状の道が用意されていたが、比較用のコルトよりもスイスイと楽に走れた。急な切り返しではパワステの容量が不足気味で重さを感じてしまうことがちょっと残念だが、街中の走りやすさではベストな一台といっていいだろう。

目標値だがJC08モード燃費は[SKYACTIVのデミオ]や[フィット ハイブリッド]を上回りながら、圧倒的にリーズナブルな車両価格が予想されるミラージュ。これは三菱から久々の(!?)、スマッシュヒットが放たれる予感大だ。

●全長×全幅×全高:3710×1665×1490mm
●ホイールベース:2450mm
●車両重量:870kg
●エンジン:直3 DOHC
●総排気量:999cc
●最高出力:51kW(69ps)/6000rpm
●最大トルク:86Nm(8.8㎏m)/5000rpm
●トランスミッション:CVT
●駆動方式:横置きFF
●燃料・タンク容量:レギュラー・35L
●JC08モード燃費:未発表
●タイヤサイズ:165/65R14
●発表時の車両価格(税込):128万8000円