ディズニープラス「スター」で配信中のオリジナルドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」。ジェームズ・クラベルのベストセラー小説を原作に、「関ヶ原の戦い」前夜における“将軍”の座をめぐる陰謀と策略の攻防を描いた物語。プロデューサーを務める真田広之が、徳川家康にインスパイアされた武将である主人公の吉井虎永を自ら演じ、日本に漂着したイギリス人航海士“按針(あんじん)”ことジョン・ブラックソーンにコズモ・ジャーヴィス、按針の通訳を行う謎多き女性、戸田鞠子に『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』(20)などに出演するアンナ・サワイが扮している。さらには虎永の家臣でありながら野心を持つ樫木藪重役に浅野忠信、石田三成にインスパイアされた石堂和成を演じる平岳大、淀殿にインスパイアされた落葉の方に二階堂ふみと、日本の実力派俳優たちが脇を固める。

ハリウッドの壮大なスケールで映しだされる戦国スペクタクルは、日本のみならず海外でも高評価。米国の映画批評サイト「Rotten Tomatoes」では批評家レビュー99%をキープ(※4月6日時点)という驚異的な数字を叩きだしている。自らも大の時代劇ファンであり、戦国時代が舞台の「雪花の虎」でも知られる漫画家の東村アキコもまた、「間違いなく史上最高傑作です!」と言い切るほど本作にハマった1人だ。そんな東村にMOVIE WALKER PRESSがインタビューを敢行。さらには「SHOGUN 将軍」の世界を描き下ろした豪華イラストも到着!第4話まで視聴したというタイミングで、あふれて止まらない本作を“激推し”する理由やイラストに込めた想いまで、時代劇好きとして、そして漫画家の視点からたっぷりと語ってもらった。

※以降、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

■「時代劇を描いている漫画家、時代劇が好きな人でLINEグループができた」

配信スタートするやいなや、東村の周囲では歴史ものを描いている漫画家、そして時代劇が好きな人の間で「“ヤバイ”ドラマが始まった!」と大騒ぎだったという。「今回のインタビューのためひと足早く4話まで鑑賞させていただいて、『とんでもない作品だぞ!』と思っていたのですが、配信がスタートした途端、周りの反応もすごくて。すぐにLINEグループができて、イギリスの歴史や海賊に詳しい人、時代劇を描いている漫画家、時代劇が好きな人が集まって得意分野を解説したり、お互いの知識を補い合ったりしながら、感想合戦で盛り上がっています。Xでも爆発的に盛り上がっているのを見ていますし、海外でも『SHOGUN 将軍』がニュースに取り上げられているらしく、これは本物だと確信しました」と観ればハマる本作のパワーを熱弁。

時代劇専門チャンネルを視聴し、DVDも購入するなど様々な歴史作品を網羅している東村。「黒澤明作品をはじめ有名なタイトルはもちろん、現在はあまり作られなくなってきたとはいえ、オリジナル作品を見つけてはチェックするぐらい時代劇が大好きです。その私が『史上最高傑作間違いなし!』と言い切ってしまうほどヤバいドラマです。ちょっと信じられないものができたなと思っています」と褒めちぎる。

■「このドラマの美術チームはなんなんだ!と唸るところばかり」

漫画家同士で感想を語り合う際には、ひと味違った視点に目がいくそう。東村がまず驚いたのは衣装だった。「衣装の布地の種類や質感も完璧すぎてビックリ。例えば、現代の時代劇ドラマではお殿様たちの着物って、彩度の高い金ピカになりがち。だけど、『SHOGUN 将軍』は本当に当時の刺繍糸で作ったかのような渋いゴールドでゴージャスさを出している。庶民が着ている着物もリアルだし、衣装の色味や柄にも驚きました。按針が最初に着る紬の着物も、紬独特のブツブツしたところまで再現されていました」と細部へのこだわりに触れる。

続けて、「所作もすばらしかったです」とその衣装を纏う俳優たちの動きにも注目。「私は裏千家の茶道をやっているのですが、茶道の所作って足捌きの世界なんです。私はまだペーペーですが、その私から見てもハッとなる美しい所作がいっぱいありました」と指摘する。例として挙げたのは、平岳大演じる五大老の1人、石堂和成が書状に判を押すシーン。「袴の横をポンポンと叩いてあぐらをかいた時にスゴいなと思いました。所作指導をされている方もいらっしゃるとは思いますが、『ここまでやるんだ』と驚きの連続でした」。

さらに、映像で惹かれたポイントとして“照明”を挙げる。「夜のシーンでちゃんとろうそくの灯り(による明暗に)になっているところが見事です。日本の作品だとそこまで暗くはできなくて、夜にしては明るすぎる照明を感じてしまいます。でもこのドラマには、『室内でこの時間帯だとこれくらいの暗さになるよね』という説得力がある。どこを切り取ってもすばらしいとしか言えません。それは雨のシーンにも言えることで、自然に降った雨のなかで撮影されているように映るんですよ。それがすごくいいなと思って。CGを使っているかもしれないし、本当のところはわからないけれど、空に漂う雲もリアルな雨雲。自然との一体感が画面上にあると思いました」。

劇中に登場する植物にも言及。「海外で撮影された時代劇だとどうしても植物が気になってしまいます。例えば、針葉樹が生えているなとか、ヤシの木が一本見えただけでちょっとがっかりしちゃって…。でも今回は、海辺のシーンで、背景に映り込む植物も完璧でした。伊豆の網代に生息する植物が違和感なく再現されていて、CGも使っていると思うのですが、どこからが本物でどこからがCGなのかまったくわからないくらい。このドラマの美術チームはなんなんだ!と唸るところばかりです」と隅々まで観たうえで“完璧”と大絶賛だ。

■「イギリス人が戦国の日本にやって来た、という時点で珍しい作品」

劇中における日本は、ポルトガルをはじめ海外との交易が盛んに行われ、キリスト教も広く布教し、キリシタンを名乗る大名も現れていた。一方で、ヨーロッパでは従来のカトリックを信仰するスペイン・ポルトガルと、新興のプロテスタントを国教としたイギリスとの対立が激化。虎永ら戦国武将たちもその争いにさらされることとなる。このような当時の日本が置かれた状況、海外からの影響については、「小説などではあるかもしれないけれど、映画やドラマで時代劇を摂取してきた身としては、このテーマでここまでのクオリティで映像化された作品に出会ったことがなかったので、本当に『作ってくださってありがとう!』という感じです」と大満足といった様子。

東村はイギリスの歴史も大好きで、「イギリス人が戦国の日本にやって来た、という時点で珍しい作品ですよね」と前のめりに。「イギリスの歴史も映画も、俳優さんもすごく好き。この時代、イギリスを統治していたのはエリザベス一世だったと思います。正規の海軍だけだと戦力が弱いので、海賊も使って戦争に勝ちまくっていたころです。ここからイギリスが海上戦で無双になっていく。按針は海賊国家と言われていた国からやって来たってことですね。鬼アツな展開です。このドラマの原作者って何者?と思いました」と興奮を隠せない東村の知識にも脱帽する。

■「虎永と按針の信頼感がちょっとずつ出てくるのが本当にいい」

虎永をはじめ、劇中には歴史上の人物にインスパイアされたクセの強いキャラクターが数多く登場する。東村に印象的なキャラクターについても聞いてみた。「まず(戸田)鞠子さん役のアンナ・サワイさんがすばらしい。表情のお芝居がたまらないです。按針と少しずつ心が通じ合っていく描写とか、自然でリアルです。按針役のコズモ・ジャーヴィスさんもめちゃめちゃイケメン!『もうなんなの!』というくらいのキャスティングです」。

ジャーヴィスの演技については、「虎永と按針の信頼感がちょっとずつ出てくるのが本当によくて。按針が『この人に仕えてもいいかもしれない』と感じ、心酔していく様子が浮かぶというか…。按針が虎永を見る目には、怯えとは異なるものがあるように思います。あくまで想像ですが、『僕の死んだ父に似ている』というセリフもあったので、どこか父親の面影を感じているのかな…なんて妄想が膨らみまくっています」と細かい視線まで注視し、これから起こりうる様々な展開を予想しながら楽しんでいる。

一方、意外にも子役に対する演出に本作のこだわりの強さを感じたようだ。「時代劇に出てくる身分の高い子どもって、鳥を見て『鳥じゃ鳥じゃ!』とオーバーにはしゃいだり、ひと目見た瞬間"おてんば"とか"賢い"といった性格がわかる"あるある演出"をされていることが多くて…。シリーズものにもよく見られますが、いわゆる時代劇的なお約束というものがあるんですよね。でもこのドラマに登場する八重千代(太閤の世継ぎ)は、セリフ回しもとても自然。そういった"あるある"がないことで、本当に戦国時代の物語に入り込んだような感覚になりました。平たく言えば、ドキュメンタリーを観ているかのような没入感。本当に感動しました」と新鮮な驚きを隠せない。

そして東村も「エミー賞間違いなし。これで獲らなかったらおかしい!」と褒めるところしかないこのドラマには、日本の実力派俳優も名を連ねている。「虎永の腹心である、戸田広松役の西岡徳馬さん。よく出演してくださいました。私の周りの男性漫画家たちはみんな手を挙げて大喜びです。『本作で好きになった』という声が多かったのが浅野忠信さん。浅野さんってすごくカッコいいのに、今回演じている樫木藪重は三枚目まではいかないけれど二枚目半くらいの絶妙な感じ。そこを上手に表現されていて、憎ったらしいところも含めて合っていると思いました。虎永の息子、長門役の倉悠貴さんもまさに!という感じですごく好きです。そのなかでも特に私が気になっているのは、マルティン・アルヴィト司祭(トミー・バストウ)。ほかのカトリックの宣教師は政治や商売、金儲け、武器、日本の統治などいろいろなことを考えているのだけれど、この人だけは純粋に教会を作り、教義を広めることだけにまっしぐらな気がしています」。

■「真田様、ありがとうございます」

主演&プロデューサーを務める真田には感謝を込めて手を合わせたい!とテンションをさらに上げてトークを展開。「時代劇では『たそがれ清兵衛』が一番好き」というほどの大ファンだという。「日本の時代劇でアベンジャーズを組むなら、清兵衛がアイアンマンだと考えているくらい、私にとっては日本最強の時代劇キャラクターです。真田さんが活動拠点をアメリカに移した時、もう日本の作品には出る機会がないのかなとちょっと寂しく思っていました。だけど、こんなすばらしい作品を携えて戻ってきてくれた。『真田様、ありがとうございます』と日本の時代劇ファンは心から思っているはずです!」と大興奮だ。

4話時点での真田の推しポイントを尋ねると、「全部!」としながらも珠玉のシーンをピックアップしてくれた。「扇子1枚で網代の家臣連中を鼓舞するシーンがすごくよかったです。誰も信じないぞというスタンス、あれは真田さんにしかできないと思っています。優しいからこそ慎重で、心の奥をなかなか見せない。すべてにおいて粗暴じゃない、この時代にも、そしてモデルとなった家康にもピッタリです。按針が虎永のことを理解できるのは、イギリス人だからというのもあるんじゃないかな。日本人の気質とどこか似ているところがありますから」と持論を展開してくれた。

■「“わからないから観ない”はもったいない、『わからんことは、己で調べよ!』と言いたい」

武将、上杉謙信が女性であったという説を題材とした「雪花の虎」で戦国時代を描いていた東村。その連載中は常に、「なぜ戦で人を殺すのか」「なぜお寺を壊すのか」「なぜこんな苦行をみんな背負って生きているのか」とたくさんの「なぜ?」が頭をよぎったという。「キャラクターの感情面、行動原理が知りたくて、歴史学者の井沢元彦先生との対談で質問をしました。その時に“なにを信じているのか”に大きな理由があると教えてもらって、なるほど、と。要するに、信じるものが違うから争いが起きるんです。神、自分の殿、宗教、信じる対象は人それぞれ。しかも日本には天皇という存在もいる。一つだと思っていたキリスト教は実はプロテスタントとカトリックで対立していることを知る。この時代って、信じるものが結構バラついていたんだなって。それぞれに信じるものがあり、それを通す意地がある。だからこその戦いなんです」。

時代背景が複雑で苦手な人は敬遠するかもしれないが、必ずしもそれらを把握していなくても大丈夫だと説明する。「私の感想はマニアックなところもたくさんありますが、歴史がどうとか細かいことがわからなくてもいいと思うんです。少女漫画家的なことを言うなら、ラブストーリー的な展開もおもしろいので、そういう視点で観るのもいいと思います。でも、せっかくここまでのすばらしい作品なので、時代劇ならではの部分も楽しんでほしい。SNSで疑問を投げれば詳しい人が答えてくれる時代です。みんなで考察しながら補い合って楽しめばいいんです。わからないから知りたい、知るからおもしろい、面倒がらずに楽しんでほしいです。“わからないから観ない”はもったいない、『わからんことは、己で調べよ!』と言いたいです(笑)」と力説。

「このドラマを観なかったら、大ブームに乗り遅れる。私の感覚的には『愛の不時着』以来の衝撃。こんなふうに言えば、どれだけ観ておくべき作品なのか韓ドラブームを経験した人ならわかるはず。最終回は確実に私の周りは大集合して、みんなで鑑賞会になるはずです。最終回まで終わったところで、また改めていろいろ語り尽くしたいという気持ちでいっぱいです!」。

■「日本の美、完璧な調和を、イギリス人が切り裂くように線を引いて乱していく」

今回のMOVIE WALKER PRESSのインタビューに際し、「SHOGUN 将軍」のコラボイラストを描いてくれた東村。イラストの題材に選んだのは、「一番鳥肌が立ったシーン。歴史に残る名シーンです!」と虎永に命じられた按針が枯山水に世界地図を描いたシーンを挙げる。「勝手にキャッチコピーも考えさせていただき、イラストにも入れています」と話し、このシーンに心打たれた理由を説明する。

「綺麗に敷き詰められた日本の美、完璧な調和を、イギリス人が切り裂くように線を引いて乱していく。日本の静寂を波立たせるみたいな演出がすごく象徴的でいいなと思いました。オープニングでも枯山水にどんどん線が引かれていく構図になっているのがカッコいい。帆船がバーって進んでいく姿たまらなかったです」とうっとり。「アメリカのドラマにはカッコいいオープニングが結構あるけれど、震えたのは久しぶりです。(NHKで放送された)『人形劇 三国志』のオープニングで砂の中から“三国志”の文字が浮かび出てきたのを観た時くらい震えました(笑)。壮大なところを切り開いていくみたいな映像って、なんか気持ちいいですよね。ロマンです」と言うと目を閉じ、噛みしめながらオープニングの衝撃を思い浮かべる。

戦国時代を完全再現し、当時を生きる人たちが抱える想い、身のこなしまで、徹底的にこだわって作り上げられた「SHOGUN 将軍」。そのクリエイティビティには、漫画家として作品を生みだす東村自身にも大きな刺激を与えたようだ。「せっかく潤沢な予算があってもこんな仕上がりかと残念な気持ちになる作品も多かったのですが、このドラマにはそれが一切ない。リアリティを追求したクリエイティブ。このゾーンの作品を久々に観たし、私自身、身につまされました」。

取材・文/タナカシノブ

※西岡徳馬の「徳」は旧字体が正式表記