「名探偵コナン」の劇場版最新作『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』が公開となり、観客動員732万人、興行収入が105億円を突破する大ヒットを記録している。本作では、シリーズ屈指の人気キャラクターである月下の奇術師・怪盗キッドと、西の高校生探偵・服部平次が、初めて本格的に激突。平次の幼なじみ・和葉への告白や、怪盗キッドのある真実が明らかになるなど気になる展開満載の内容で、観客を大いに興奮させている。そこでMOVIE WALKER PRSSでは今回、キッド役の山口勝平と平次役の堀川りょうを直撃。初めての激突に「感慨深いものがありました」と声をそろえる2人が、最新作におけるキッド&平次の印象や、長寿シリーズの現場にある特別な絆、キッドと平次を演じる醍醐味までを語り合った。

本作の舞台は北海道の函館。とある財閥の収蔵庫に“月下の奇術師”の異名を持つ怪盗キッドから、新選組副長・土方歳三にまつわる日本刀をねらうという予告状が届いたことから物語がスタート。犯行予告当日、函館で開催される剣道大会のために現地を訪れていた西の名探偵・服部平次とコナン(声:高山みなみ)がキッドの変装を見破り追い詰めるも、時を同じくして刀に関係する殺人事件が巻き起こる。

■「初めてキッドと平次ががっつり組む。感慨深いものがありました」(堀川)

――キッドと平次が、初めて本格的に激突することになりました。2人にフィーチャーした劇場版ができると聞いた時の感想を教えてください。

堀川「キッドが出ている時は平次が大阪にいたりするし、この二人はこれまであまり絡んでこなかったんですね。それが、本作で初めてがっつりと組む。しかもアクションシーンから始まるとあって、とても感慨深いものがありました」

山口「劇場版14作目『天空の難破船(ロストシップ)』にも平次が出ていましたが、こういった形で絡むのは原作でもなかったことです。『キッドVS高明 狙われた唇』(コミックス96巻、テレビアニメ第983&984話のエピソード)では、キッドが和葉に変装して、平次がそれに気づかずにキッドにキスを迫ってしまうというエピソードが描かれましたが、その出来事を導入として劇場版に進んでいくという流れも新鮮でした」

――平次が壁ドンをして、キス寸前まで近づいてしまう…という展開でした。

堀川「オーラ的なもので、普通は和葉じゃないと気づくはずだよね。それが、平次は気づかないんだよ(笑)」

山口「高校生の平次としては、そうなっちゃうんでしょうね。余裕がなかったのでしょう(笑)!」

――アフレコも新鮮でしたか?

山口「キッドが劇場版に出てくる時は、コナンくんとキッドが共闘するという展開が多くて。今回は同じ謎を追いかけているし、情報の共有はしているけれど、実際一緒に動いているのは平次とコナンで、キッドは単独行動をしていることが多い。本来のキッドの立ち位置はこちら側なんだろうなと感じながら、演じていました」

堀川「コナンと平次は、いい関係なんですよね。バディというか、凸凹コンビのようで、見ていてもとても微笑ましい。とはいえ、中身は新一なわけだからね。おもしろいですよね。『名探偵コナン』はいろいろとおもしろいことが起こるけれど、今回は驚いたなあ。キッドってそうなの!?マジか!って」

――本作では、原作でもまだ明かされていないキッドの“ある秘密”が明かされました。衝撃的な結末が大いに話題となっていますが、山口さんは、このキッドの真実についてどのような感想を持ちましたか。

山口「脚本を最後まで読んで、『えっ!』と声が出ました。ちょっと待って、ちょっと待って。どういうこと!?って(笑)。内容が飛んでしまって、もう一回読み直したくらい衝撃的でした。これからどうなるんだろう…と気になりますね。また僕としては、今回は平次が間にいることで、コナンとキッドの雰囲気が変わってくる点もとてもおもしろいなと思いました。コナン、つまり新一と平次とキッドは、3人でいると高校生らしい空気感になる。それはきっと平次がとてもまっすぐで、一番高校生らしいキャラクターだからなのかなと思います」

堀川「そう、平次はとても高校生らしいですよね。今回は平次から和葉への告白も描かれますが、そこでも(山崎和佳奈演じる)蘭ちゃんに助けてもらったりして。かわいらしいですよね(笑)。思えば蘭ちゃんと平次がこれだけたくさん話したのも、今回が初めてじゃないかな。平次の想いを成就させるべく、蘭ちゃんやキッドをはじめ、みんなが協力して助けてくれました。新一が蘭ちゃんにビッグベンの前で告白をしたからって、それを超える場所を探そうとするなんてね。そんなことはいいじゃないか!と思いますが、平次にはやっぱり男の子としてのこだわりがあるんだよね」

山口「そういうところも、平次はかわいいなと思います」

堀川「本当に愛おしいですよ(笑)」

■「『名探偵コナン』のメンバーは、僕にとって幼なじみのよう」(山口)

――キッドと平次は、コナン/新一からいつも刺激を受けています。山口さんと堀川さんは、お互いの存在から刺激を受けることはありますか。

山口「もちろんです。『名探偵コナン』のアニメシリーズは28年続いていて、りょうさんをはじめ、キャスト、スタッフなど『名探偵コナン』を作っている人、みんなからいつもいい刺激をもらっています。りょうさんは、僕らの代からは先輩にあたりますが、『名探偵コナン』の現場には僕とデビューが近いメンバーも多くて。一緒に成長してきたというとおこがましいですが、ずっと一緒にこの業界で歩みを進めてきたメンバーです」

堀川「長寿番組のよさは、そういった絆が自然と生まれてくるところですよね。『名探偵コナン』のメンバーは、キャストもスタッフも一緒になって旅行に行ったりしますから」

山口「そこはやっぱり、(高山)みなみさんの存在が大きいですね。みなみさんが率先して旅行に行く企画を立ててくれたりと、みんなをしっかりとまとめてくれる。コロナ禍は叶いませんでしたが、収録後にはスタッフさんも一緒にご飯に行ったり」

堀川「特に僕はそういうのが大好きだから(笑)!『名探偵コナン』は収録が始まるのがだいたい16時とか17時くらいで、19時半、20時くらいに終わる。この時間がいいんですよ。『終わったら、みんなでご飯を食べよう』と言われているようなものでしょう(笑)?これからも収録の時間は変えないでほしいな」

――30年近く同じ時間を過ごすことで、家族のような存在になっているのでしょうか。

山口「家族というか、僕にとっては幼なじみのようですね。とても近い存在として、ずっと時間を共に過ごしているような気がします」

堀川「役者だけではなく、脚本を書かれるライターの方、絵を描かれる方、音響の方をはじめ、それぞれみんな登る道筋は違うけれど、同じ頂上を目指している。飲み会でも『ここへ向かって行こうぜ!』なんて話はしませんが、心のなかでは『いい仕事をして、またここでいい酒を飲もうな』と通じ合っていることを感じられるのが、『名探偵コナン』の現場です」

――時間と共に信頼も積み重ねて、すばらしい結束力が生まれているのですね。

堀川「みなみとは、青山(剛昌)先生の『剣勇伝説YAIBA』の時からずっと一緒ですからね。ご縁なのか、こうしていまでも一緒に演技ができるというのは感慨深いものがあります。『名探偵コナン』でも知らず知らずのうちにみんなが影響しあって、全員が『この人がやるからこそ』という魅力ある演技をされているなと。和葉もみやむー(宮村優子)が演じるからこその、和葉になっている。違う人が演じたら、また違うキャラクターになっていたことでしょう。この作品でしか作れないキャラクターや関係性というものがあって、それは一生に一度というくらいの出会いだとも言えます。それが長寿番組になっているのですから、この出会いは大切にしていきたいなと思っています」

山口「キャストもおそらく、それぞれの役の魅力を一番理解して演じられる人が揃っているのではないかなと感じています。もちろん青山先生が生みだされたキャラクターが魅力的であるということが一番ですが、キャストもそこに寄り添える人たちばかり。バランスもとてもいいなと思っています。平次は、『名探偵コナン』のキャラクターのなかでもまっすぐさで言ったら一番だというようなキャラクター。りょうさん演じる平次はいつも全力で、そこが本当にいいんですよね」

■「怪盗キッドはキャラクター自体がエンタテインメント」(山口)「これからも熱を忘れずに平次を演じていきたい」(堀川)

――あらゆる作品で心に残るキャラクターを演じ、キャリアを築かれてきたお2人。キッドと平次というキャラクターは、ご自身のキャリアにとってどのような存在でしょうか。

堀川「平次を演じる時はいつも、自分の高校生のころを思い浮かべながらやっています。もう何十年も前だけれど、一度だけチーフプロデューサーに『17歳の役を俺が演じていいのかな?』と聞いたことがあって。その時に『あなた以外に誰がやるんですか?』と言っていただけたことで、『やっていいんだな』と感じられたんですが、もし自分が『高校生である』ということを信じられなかったとしたら、僕は平次を演じられないと思います。アニメーションのなかでキャラクターを演じるということは、年齢も性別も超越できるということ。人間でないものを演じる場合だってありますから。たとえば僕が詰襟を着て『高校生です!17歳です!』と言って目の前に現れたら、『ふざけんなよ』と怒られますよね(笑)。でもアニメならば、それができる。非常に特殊なエンタテインメントだなと思うし、平次はそういったアニメのよさをたっぷりと感じさせてくれるキャラクターです。17歳のころって、物事を単純明快に考えて、スポーツやいろいろなことに燃えたりするような時期。これからも、その熱を忘れずにいたいなと思っています」

――山口さんは、怪盗キッドの正体で『まじっく快斗』の主人公である高校生の黒羽快斗も演じられています。本作をきっかけに、どちらも大きく物語が動きだす可能性があります。

山口「本作は、『名探偵コナン』や『まじっく快斗』という作品に今後大きな影響を与えていく終わり方をしています。そういった意味では、すごくおもしろい立ち位置にある作品だなと感じています。キッドがビッグジュエルをねらう目的も変わってくるかもしれないので、これからの展開にどのようにフィードバックされていくのか、僕もとても楽しみです」

――山口さんにとって、キッドを演じる楽しさというのはどのようなものでしょうか。ご自身のキャリアにおいて、どのようなキャラクターですか?

山口「演じ始めたころは、キッドのキザでクールなところに照れを感じたりすることもあって。キッドは、小学校1年生の女の子の前で自分のことを『飛び続けるのに疲れて羽を休めていた、ただの魔法使いですよ』なんて言ったりしますから(笑)。ただ一方で、キッドの正体である黒羽快斗くんというのは、ごく普通の高校生なわけです。快斗くんがいかにしてキッドになったのかということを自分なりに想像を深めていくと、『怪盗キッドというのは、キャラクター自体がエンタテインメントなんだな』と。そう思えば、キザなセリフももっとやってやろうという気持ちになりました。また最近では、コナンくんと一緒にいる時のキッドは気取ることがなくなり、“キッド然”として話す部分が減ってきているなとも感じています。こうやってキッドとコナンくんが距離を縮めていく様子も、とてもおもしろいですよね。そういったあらゆる変化を感じられるキャラクターです」

――長く続くシリーズとあって、物語が進み、ドラマ性が深まるごとに周囲との関係性の変化も生まれてきますね。

山口「本作ではコナンくんだけでなく、平次が一緒にいることもあるので、もっとキッドっぽく演じたほうがいいのかなとも感じたのですが、なんだか3人でいると高校生が放課後の教室で話しているような雰囲気になるなと思って。僕は3人が電車のなかで話すシーンがとても好きなんですが、彼らといる時のキッドには、友だち同士で話しているような安心感みたいなものが生まれているのかなと感じています。そうやってキッドや彼の周囲も変化していくんですよね。また物語上では半年〜1年ぐらいの時間しか流れていなかったとしても、僕ら自身にとっては28年の月日が流れていて、声優としての経験も増えました。僕は、キッドを演じるうえでも“変わらない”ということにあまりこだわらなくていいのかなと思っていて。その都度、その都度で全力を尽くし、培った経験もキャラクターにフィードバックしながら、キッドを演じていけたらいいなと思っています」

取材・文/成田おり枝