”芸人になる夢”は「叶えたあとも、ずーっと楽しい」と語るニューヨークが、『トラペジウム』高山一実が描いたアイドル像に感服!「只者じゃないです、あの人は」
■「こんなにキラキラした映画はなかなかないぐらい、すてきな作品でした」(嶋佐)
――まずは映画『トラペジウム』をご覧になった感想を教えてください。
屋敷裕政(以下、屋敷)「本当にたまたま、この取材のお話をいただく1週間前ぐらいに原作を読んでいたんですよ。なので映画を観た時は、小説の雰囲気を違和感なく、すごくいい感じに再現しているなと思いました」
嶋佐和也(以下、嶋佐)「僕も原作は読んでいました。映画を観させてもらって感じたのは、本当にキラキラしている、でした。こんなにキラキラした映画はなかなかないぐらい。小説もそうでしたけど、改めてすてきな作品でしたね」
――本作のどんなところに魅力を感じましたか?
嶋佐「テンポがいいですよね。ダラダラするようなシーンがいっさいなくて。特に好きなシーンは、一番最後かな。あれはズルいですよね(笑)。泣きそうになっちゃいました。あとは、みんなで歌うシーンとかね」
屋敷「たしかに。ライブのシーンはアニメならでは、ですよね」
嶋佐「あの映像だけでも十分満足できちゃうぐらい!実際にライブを観ているような感覚になりました」
■「オーディションをきっかけに人生が変わっていく子たちを見て本当にリスペクトしていました」(屋敷)
――本作は城州東高校に通う東ゆうが、ほかの3つの方角(西、南、北)にある高校へ足を運び、「東西南北の美少女を集めてアイドルグループを結成する」という野望から物語が始まります。お2人は「TBSスター育成プロジェクト『私が女優になる日_』」で、まさに女優を目指す女の子たちを近くで見守られていたんですよね。
屋敷「そうなんですよ。オーディションに参加している子たちが、僕らと違いすぎて毎回びっくりしていました。僕らの16歳の時なんて誰の役にも立たない、ただの子どもだったので。オーディションをきっかけに人生が変わっていく子たちをまざまざと見て、本当にリスペクトしていました」
――お2人が16歳ぐらいの頃は、まだ芸人を目指そうとは思っていなかったんですか?
屋敷「目指すという発想がなかったですね。こんな田舎者が東京に出てテレビに出るなんて、リアリティを持って考えられなかったです。本当に目指そうと思ったのは、NSCに入る直前ですね」
嶋佐「僕も大学まで出させてもらったんで、芸人になることは全然考えてなくて。でも、大学3年生の後半ぐらいには、就活はしたくないなとは思っていました」
屋敷「だからゆうみたいに10代の早い段階でアイドルになるという目標を立てて、しかも行動に起こすっていうのはすごいと思いますね。オーディションに応募する勇気すらなかった僕らとは全然違うなと思いました。でも、ゆうの気持ちがちょっとわかる部分もあるんですよ。ゆうってアイドルになりたいという思いを隠して、(のちの)メンバーたちと仲良くなっていくじゃないですか。僕も地元の連れとかには、芸人になりたいってことを恥ずかしくて言えなかったんです。真正面から誘って、もし断られたらどうしよう…と思っていたので、周囲に自身の考えを悟らせないゆうの心理はちょっとわかるな」
嶋佐「僕は逆に、NSCに入る前に何人か誘ってみたんですよ。大学におもしろい同級生がいて、そいつと『M-1グランプリ』にも挑戦したんですけど、スベって一回戦で落ちました(笑)。で、そいつは普通に就活を始めたので僕は地元の同級生を何人か誘ったんですけど、『さすがにやらないよ』って言われて、結局1人でNSCに入りました」
屋敷「アイドルになるためにゆうは、ボランティア活動をして、テレビに出演して…って地道なプランをしっかりと考えていましたけど、僕らは芸人になってからもなにも考えてなかったかもしれないですね。目の前のことを、とりあえずこなしていたって感じです。初めてテレビに出た時に、人生変わるんかなと思ったら、そんな変わらんかったので(笑)。特に僕らは見た目にインパクトがあったりするわけじゃないから、“ある日突然スターに!”はたぶんないやろうなって、活動を始めた序盤から感じていた気はします。『M-1グランプリ』とか『キングオブコント』で決勝に行ったり、優勝したりするしかないんやろうなって思っていました」
嶋佐「たぶん10年ぐらいは売れないんだろうなって思っていましたね。覚悟ってほどでもないんですけど、売れなかったとしても、芸人をやりたいなと思っちゃったから。すぐに売れてやろう!とかは、全然なかったです」
――現在、ニューヨークが着実にステップアップしていっている現状をどのように感じていらっしゃいますか?
屋敷「危なかったな、ラッキーやなみたいな(笑)」
嶋佐「いま思うと、やっぱりもうちょっと早く売れたかったな(笑)」
■「ゆうが明確にメンバーを選んでいったように、僕も相方は普通のやつがいいなと思っていました」(屋敷)
――ゆうは「東西南北の美少女を集めてアイドルになる」という明確な目標を持ち、“西の星”大河くるみ(声:羊宮妃那)、“南の星”華鳥蘭子(声:上田麗奈)、“北の星”亀井美嘉(声:相川遥花)を選んで仲間にしますが、ニューヨークの場合は屋敷さんが嶋佐さんを誘って結成されたんですよね?
屋敷「そうです。ゆうが明確にメンバーを選んでいったように、僕も相方は普通のやつがいいなと、どこかで思っていました。同期に鬼越トマホークとかデニスがいるんですけど、そういう環境もあって王道で行きたかったのかもしれないですね。いやでも、そんなにはっきりした作戦はなかったかな。(デニスの)ゆきおちゃん(植野行雄)から『コンビ組もう』って言われたら組んでいたかもしれんし(笑)。ただ、自分がツッコミをやるってことだけは決めていました」
――嶋佐さんを誘った決め手は?
屋敷「なんとなくの雰囲気としか言いようがないですね。しっくりくるやつがおったから声掛けたって感じです」
嶋佐「NSCっていろんな授業があるんですけど、屋敷は成績が優秀って噂になっていたんですよ。しかもツッコミだし、見た目もシュッとしてるし。なので誘われた時は、すぐにやりましょうかって即決でした。当時別の人と組んでいたんですけど、彼には解散を告げて、乗り換えた感じです」
屋敷「そういうことはよくあるんですよね。嶋佐も『トラペジウム』みたいなの書いたらいいんじゃない?お笑い版トラペジウム。高山さんに公認もらって(笑)。東くんと西田くんみたいなキャラ出して…」
嶋佐「ちゃんと映画化してくれます?映画化を約束してくれるなら書きますけど。ちょっと高山さんに書き方教えてもらうわ(笑)」
■「アイドルになってからの4人それぞれの葛藤が描かれているのもリアル」(嶋佐)
――番組でも共演されていた高山さんはどんな印象ですか?
屋敷「ずっとレギュラー番組をやらせてもらっていたんですけど、本当に話しやすいし、お笑いもすごく好きな方で。でも、原作小説を読んだら、“異性と一緒の写真は厳禁”とかアイドルに対する描写がたくさんあって新鮮でしたね。普段接している時は全然感じなかったけど、実はアイドルに対する視点や裏側のことをいろいろ考えていらっしゃるんやなっていうのがわかって、おもしろかったです」
嶋佐「高山さんって投資の本も出しているからね。只者じゃないです、あの人は」
――ニューヨークさんはアイドルの方たちとお仕事をする機会も多いですが、アイドルならではの世界だったり、芸人との違いを感じることはありますか?
屋敷「かっこいいですよ、アイドルのほうが。売れるまですごくしんどい思いをしていたとしても、つらかった話をまったくしないんですよ。芸人だけですよ、ドキュメンタリーで『売れる前めっちゃつらかった〜』とか話すの。勝手に芸人になって勝手に売れへんかっただけやのに、すごい美談にして。『ギャラ安い』とか文句言ったりして(笑)。アイドルはそういうところをいっさい見せずに勝負していて、かっこいいです」
嶋佐「アイドルは本当に好きじゃないとできない職業だと思います。プライベートでもなかなか外に遊びにもいけないでしょうし、ライブに向けてすごく練習したりしなきゃいけないし。『トラペジウム』でもアイドルになってからの4人それぞれの葛藤が描かれていますけど、このあたりもリアルでしたね」
屋敷「たしかに、アイドルに対するモチベーションが四者四様やったもんな。ちょっと乗り気な人もいれば、逆に全然乗り気じゃない人もいて。SNSでエゴサする描写とかもありましたけど、やっぱりしんどいですよね。ゆうが『アイドルになりたくない女の子なんていない』みたいなことを言うシーンも、現実味がありました」
■「ゆうみたいにエゴの強い人がいないと引っ張っていかれへんのかな」(屋敷)
――ゆうたちは「東西南北」として活動を始めますが、モチベーションの違いでぶつかるシーンもあります。お2人にも意見の食い違いやすれ違った経験はありましたか?
屋敷「仲悪い時期もありましたけど、コンビって2人やからバランス取りやすいというか、よくも悪くもシンプルに解決できるんですよ」
嶋佐「『東西南北』みたいな4人組が一番難しいでしょうね。2人か、それこそ乃木坂46みたいに人数が多いほうが、大変じゃないかもしれない」
――意見がぶつかった時は、どうやって解決されているんですか?
嶋佐「まずぶつかることがそんなにないんですよ」
屋敷「『絶対こうやろ!』みたいなことがないんですよね。どっちも『別にいいよ』というスタンスでいるのが、正しい選択な気がします。でも4人組となると、ゆうみたいにエゴの強い人がいないと引っ張っていかれへんのかな」
嶋佐「それこそ僕は、お嬢様(華鳥蘭子)タイプかもしれないですね。『どっちでもいいじゃん?』みたいな」
屋敷「マネージャーから『この番組どうしますか?』とか聞かれても、『どっちがいい?』とか聞き返していますからね。自分らでは決められへん。それで、マネージャーに『僕もどっちでもいいと思います』って言われて、『え、どうする!?』みたいなのはよくあります(笑)」
――もし、お2人が東西南北のメンバーだったとしたら、どういった立ち回りをされると思いますか?
屋敷「ゆうについて行くしかないですね。自分が引っ張っていくことはないと思います」
嶋佐「ゆうに対してめっちゃ不満とか出てきても、直接言えなさそうですね。ゆうには言わず、ほかのメンバーに『ちょっと、ゆうきついな』って」
屋敷「それが一番あかんで。最悪や(笑)」
嶋佐「ケンカとかなるべくしたくないタイプなので」
■「夢を追いかけている間も叶えたあとも、ずーっと楽しい」(嶋佐)
――お2人は実際に「芸人になる」という夢を追いかけて叶えていらっしゃいますが、“夢を叶えること”や“夢を追いかけること”についてどのような考えを持っていますか?
嶋佐「夢を追いかけている間も、叶えたあとも、ずーっと楽しいですね。芸人になってから、それこそ売れてない時期も、ただただ楽しかったんですよ。『売れたい』というのが夢だとしたら、いまありがたいことにいろんなお仕事をさせてもらえるようになって。ある意味、夢が叶ってラッキーだなとは思います。楽しいという気持ちがあるからこそ、ずっとこの仕事を続けられていられるんでしょうね」
屋敷「テレビに出ることをずっと夢見ていたんですよ。すごくキラキラして見えてたんですけど、実際にいまその状況にいると、意外にも地道というか。テレビに出て、ロケに行って…。楽しいんですけど、2時間かけて千葉に行ったりとか、真っ暗ななかロケバスで帰ったりっていう、そっちの時間のほうが長かったり。夢の途中というか、夢のリアルタイムは感覚として地味なイメージです。実際に経験しているいま、もう夢じゃなくなっているような気もします。言葉にするのは難しいかもしれない」
嶋佐「夢が現実になって、不思議な状態がずっと続いている感じですね。それがうれしくもあり、寂しくもあるというか」
屋敷「でも、学生時代もそうだったと思うんですよ。青春ってキラキラしていたように思えるけど、実際は授業中、あの硬い椅子に8時間ぐらい座っていたじゃないですか。青春時代に『俺ら青春している!』とは思わなかったよなって。そんな感じです」
嶋佐「そうそう。きっとみんなもそんな感じなんだろうな」
――では最後に、本作をどのような人に観てほしいですか?
嶋佐「マジで僕らぐらいの、同世代の男性に観てほしい!死ぬほどキラキラしているから(笑)!高校時代の僕が観るより、いまの僕が観たほうが食らっていると思う。もう最初から最後まで、ずっと輝いていました」
屋敷「たしかにね。こんなにキラキラした映画を観ることはなかなかないです。特に歌って踊るライブシーンは大画面でこそ映えそうですよね」
嶋佐「一回観たら心が洗われるんで。すごくいい気分になりました。高山さんにお礼を言いたい!映像も綺麗だから、ぜひ映画館で観てほしいですね」
取材・文/紺野真利子