1960年代半ば、ハンガリーの医師エンドレ・メスターが、増殖する腫瘍に対する影響を調べるため、剃毛したマウスの皮膚に低出力レーザーを当てたところ、予想外の効果を観察した。赤色の光が、マウスの発毛を促進しているらしいことがわかったのだ。さらに、その後の研究で、この光には傷を治す効果があることも示された。

 それから60年後、この偶然の発見は、今や発光ダイオード(LED)を使った医療処置や家庭用器具の一大市場へと発展している。

 フェイスマスクから全身マスク、持ち運び可能なスティック型の機器まで、高い熱を発しない低出力の光治療製品は、アンチエイジング、若返り、創傷治癒など、あらゆる効果をうたっている。

 これらの製品は数百ドルから時には数千ドル(数万〜数十万円)する場合もあるが、本当にそれだけの価値があるのだろうか。そこで、光治療の効果や限界について、また購入する前に消費者が知っておくべきことについて、専門家に話を聞いた。

光治療の科学

 LED光治療、より正確には「光生体調節(PBM)」と呼ばれるものは、青色や赤色といった可視光や近赤外光などの穏やかな低出力光を使用して、自然な生理学的プロセスを刺激する治療法だ。

 カナダ、マギル大学の非常勤教授で臨床医でもあり、皮膚レーザー治療を研究するダニエル・バロレット氏は、PBMとは「私たちの細胞を正しい方向へ向けるために、光を使って軽くつつくようなものです」と話す。

 古代より、人類はこうした恩恵を太陽から直接受けてきた。しかし現代人は、冷たい色の電灯しかない室内でほとんどの時間を過ごしている。

「PBMは、肌に悪い紫外線をカットし、治癒効果のあるものだけを利用します」と、バロレット氏は言う。

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