南米アマゾンにすむドクチョウ属のゲノムを比較した結果、ヘリコニウス・エレバトゥス(Heliconius elevatus)という種が、H.メルポメネ(H. melpomene)とH.パルダリヌス(H. pardalinus)の交雑によって生じたことがわかったとする論文を、米ハーバード大学の研究員であるニール・ロッサー氏が率いる研究チームが2024年4月17日付けの学術誌「ネイチャー」に発表した。

 ダーウィンは『種の起源』を出版する22年前の1837年に、ノートに「生命の樹」の絵を描いた。以来、生命の樹は、共通の祖先から新しい種が分岐するプロセスの比喩として生物学者に利用されている。しかし一部の科学者は、木の枝どうしが融合するように、古い種が混ざり合って新しい種が生じることもあるのではないかと考えてきた。このほど、その「交雑種分化」の証拠が示されたことになる。

 H.エレバトゥスも2つの親種も、南米の熱帯雨林で普通に見られるチョウだ。1835年にビーグル号がペルーのリマに停泊したときにダーウィンが少し内陸に足を踏み入れていれば、このチョウたちを目にしたはずだ。

「私たちの研究は、交雑が新種の進化を促す可能性があることを示しています」と、論文の筆頭著者で、ナショナル ジオグラフィック協会のエクスプローラー(探求者)でもあるロッサー氏は説明する。

 氏の研究チームは、H.エレバトゥスの2つの親種は200万年前から分かれていたが、氷河期の地球でアマゾンの熱帯雨林が生物多様性の避難所になっていた18万年前にH.エレバトゥスが現れたと推定している。

 研究者たちはこれまで2つの親種の交雑から生じた動物種を探し求めてきたが(ロバとウマの交配によって作られるラバには生殖能力がないので、新しい種ができたわけではない)、今回の論文の著者らによれば、説得力のある例はわずかで論争にもなっており、はっきりした結論は出ていなかった。

「多くの研究者に仮定されていながらほとんど実証されていなかったものを、彼らは自然界で発見したのです。これは驚くべきことです」と称賛するのは、最近、これまでで最も包括的なチョウの系統樹を作成した米ニューヨーク市立大学シティ・カレッジのデビッド・ローマン教授だ。なお、氏は今回の研究には参加していない。

翅の模様で気づいた違和感

 ドクチョウ属は花粉を食べる唯一のチョウのグループで、彼らがこの花粉を使って合成する「青酸配糖体」は、捕食者がおいしくないと感じる成分だ。彼らは、明るくコントラストの強い警告色で自分のまずさをアピールしている。

「ドクチョウ属の交雑種は、色のパターンが大きく異なるため、非常に目立つのです」と、ハーバード大学の生物進化学客員教授で、この論文の責任著者であるジェームズ・マレット氏は説明する。ドクチョウ属のチョウたちはお互いの警告色のパターンを模倣し(このようにしてできた擬態関係は「擬態環」と呼ばれる)、捕食者をより効果的に抑止するのに役立っている。

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