大同特殊鋼は航空機や半導体、医療など受注拡大が期待される分野への戦略投資を着々と進めている。各工場の役割を明確化し効率化を図ると同時に、拡販に向け高合金や高機能ステンレス鋼、チタン製品などを製造する特殊な溶解設備を増強。長年培った加工技術や品質力を生かし、グローバルシェアのさらなる拡大を目指す。(名古屋・増田晴香)

【注目】工場の役割明確化、生産効率改善

大同特殊鋼は成長分野のビジネス拡大を実現するため、各工場の役割を明確化することで生産効率の改善を進めている。高生産性を追求した量産工場である知多工場(愛知県東海市)、棒線の難加工品を手がける星崎工場(名古屋市南区)、高合金溶解のマザー工場に位置付ける渋川工場(群馬県渋川市)と機能を特化。これに加え知多第2工場(愛知県知多市)を2020年に稼働し、成長分野への設備投資を実施する上でスペースに限りがある渋川工場や星崎工場の役割を補う。

高合金や高機能ステンレス鋼、チタン製品など付加価値の高い「ハイエンド製品」の生産能力を増強するため、積極的な設備投資を実行中。こういったハイエンド製品の生産に不可欠な設備が真空アーク再溶解炉(VAR)だ。VARは電気炉などで一度溶解した溶鋼を固めた「電極」を、再度高真空下で溶解することで酸化物など微小な不純物を取り除き、清浄度や均質性が高い鋼材を生み出す装置。 

強度や厳しい環境下での耐久性が要求される半導体製造装置や航空機向けなどに供給する。渋川工場にVAR1基を増設、23年9月に稼働を開始し生産能力を10%高めた。同工場では現在、11基が稼働している。

これまで渋川工場で高級鋼向けの設備増強を行ってきたが、現時点ではさらなる設置スペースの確保が難しくなったため、足元では知多第2工場へ機能を拡張している。直近では52億円を投じ、高機能ステンレス鋼・高合金用VARを2基増設。24年度末までに稼働し、生産能力をさらに20%向上する見込み。また21億円を投じチタン用VARも1基設置し、同時期に稼働する計画だ。

またVARの前段階となる一度目の溶解は、知多工場で効率的に行うことが可能。隣接する知多工場と知多第2工場の連携を図ることで、電極を高効率にVARに供給する最適な生産体制を実現できる。

ハイエンド製品の拡販に加え「エネルギー・サーチャージ制度」の導入や価格改定の取り組みが奏功し、収益改善も進んでいる。23年度を最終年度とする中期経営計画で掲げた営業利益400億円以上の目標は前倒しで達成した。

【展開】国内外でハイエンド製品拡販

成長市場をターゲットに国内外でハイエンド製品を拡販できるかが重要な経営テーマとなる。自由鍛造品を含む「自動車・産業機械部品」セグメントでは航空機需要が堅調に推移しており、中長期でも需要増を予測する。大同特殊鋼は軽量で高強度、高靱性(じんせい)、耐熱性を満たすジェットエンジンシャフトなどを手がけており、大手航空エンジンメーカーの製造認定取得をはじめ「長年の取り組みで信頼を積み上げてきた」(清水哲也社長)。

航空機向けについては今後、渋川工場を中心に鍛造品の生産効率を高めると同時にエンジンシャフト以外の部品への参入を狙う。このほど、航空機部品の安定供給確保を図る経済産業省の「供給確保計画」で航空機用大型鍛造品の生産基盤の整備計画が認定された。最大65億円の助成を受け、溶解工程などへの設備投資を行う。品質管理の強みを生かし新たな部品の認証も取得し競争力につなげる。

「機能材料・磁性材料」セグメントでは半導体製造装置向け高機能ステンレス鋼などの拡大を目指す。一連のVARの増強により、清浄性が高い素材の供給力を高める。現状、同装置向けステンレス棒鋼・線材のグローバルでのシェアは同社調べで約40%。23年度はシリコンサイクルの下降に伴い受注が減少しているが、24年度以降は回復を見込む。また同社は半導体の需要について30年に20年比で2倍以上の成長を予測する。清水社長は「シェア40%の維持にも増産対応が必須だが、さらに伸ばしたい」と意気込む。

高齢化の進展や医療の高度化に伴い、医療用チタンのニーズが高まる中、星崎工場が得意とする難易度の高いチタン合金の加工技術で差別化を図る。同工場ではチタン製品向けの検査装置を導入したほか、圧延ラインを増強した。

また国内メーカーとして初めて、生体用低弾性率チタン合金の量産を実現した。骨に近いしなやかさが特徴。人工骨などへの採用を想定しており、23年10月から海外顧客向けにすでに量産品の販売を開始した。医療用チタン製品の世界シェアは30年に現状比2倍の20%を目指し、海外での拡販活動を加速する。

自動車の電動化の進展により、同社が主力としてきたエンジン向けやトランスミッション向け特殊鋼の需要減が危惧される。こうした中、航空機や半導体、医療を中核領域とするポートフォリオ改革を成し遂げ、持続成長できるか―。真価が問われる局面に入る。

【論点】社長・清水哲也氏「棒鋼・線材でシェア拡大」

―足元の事業環境と今後の見通しは。
「半導体不足の解消で自動車関連は需要が戻ってきている実感があるが、産業機械関連は中国など外需が鈍化しており、今後の見通しも不透明。半導体製造装置向けはシリコンサイクルの後退局面が続いていたが、今やっと底打ちしたとみている。24年度以降、回復は上期か下期かは読めないが供給できるよう準備は進める」

―ハイエンド製品の生産能力を拡充しています。
「航空機用大型鍛造品は国内生産の基盤整備計画が経産省の『供給確保計画』に認定された。国の経済安全保障の政策に貢献していくと同時に、当社の事業成長の機会につなげたい。半導体製造装置向けの高級鋼もVAR増設により需要増に対応する。現状、棒鋼や線材でシェアは約40%だが、市場の拡大に伴いシェアを維持、また拡大していく。チタン用VARの設置で医療用チタン製品の供給力も高め、新規顧客にも提案しシェアは現状比2倍の20%を目指す」

―21―23年度の中期経営計画の成果は。
「産業構造の変化や技術革新により大きな成長を見込むモビリティーや半導体、エネルギーといった分野で求められる新材料の研究開発を加速している。そのためにさまざまな評価設備を導入した。例えば電気自動車(EV)の駆動用モーターの評価設備や高圧水素環境下で材料を試験する設備を入れた」

―収益改善の成果も出ています。
「22年度からエネルギー価格が高騰し原料価格も高止まりしている。エネルギーコストに関してはお客さまにご理解いただき、変化分を製品価格へ反映させる『エネルギー・サーチャージ制度』を導入した。また諸コストの上昇を背景に販売価格の改定も実施している。まだ道半ばだが、一定のマージンを確保できるようになった」

―さらなる品質管理強化への取り組みは。
「航空機向けをはじめ高難度製品が増え、認証が必要なものも多くなってきている。これまで各工場に品質保証を任せてきたが、全社的に品質保証体制をグリップするため、23年11月にCQM(コーポレート・クオリティー・マネジメント)部を立ち上げており、品質ガバナンスも強化する」