住友化学は2025年3月期のV字回復に向けて構造改革に着手する。30日、経営課題となる医薬品や石油化学事業の改善策を示した。具体的には人員削減とともに研究開発リソースの集中や、生産体制の最適化など事業の合理化を急ぐ。新たな戦略として再生・細胞医薬新会社の立ち上げなどで次なる成長への弾みをつける。(山岸渉、渋谷拓海 総合1参照)

前3月期、当期赤字最大 再生医薬会社立ち上げ

「24年3月期は非常に多額な赤字で危機的な状況。V字回復をいかに実現するかが最大の責務だ」。岩田圭一社長は30日の経営戦略説明会でこう気を引き締めた。

住友化学 経営戦略説明会のポイント

過去最大の当期赤字となる24年3月期は、1330億円のコア営業赤字を見込む子会社の住友ファーマの業績悪化が最も大きな要因となった。特に主力だった抗精神病薬「ラツーダ」の米国での特許切れが響いたほか、前立腺がん治療薬など基幹3製品が思った以上に販売が伸び悩んだ。岩田社長は「期待していたラツーダ以降の薬剤がことごとく失敗した。こういうことがあるのが医薬で、どういう手を取れるかを考えている」と分析する。

住友ファーマの人員や販売管理費、研究開発費の削減で身の丈に合った事業体制の再編で“止血”を図る。住友化学から経営人材も派遣する。足元では基幹3製品の販売が着実に伸びているほか、がん領域2品目に研究開発リソースを集中させて新たな収益基盤を構築する考えだ。また住友化学と住友ファーマで25年3月期中の再生・細胞医薬の新会社設立を計画し、住友化学主導での新たな成長分野を確立させたい意向。

住友化学の当期損益

将来は出資比率の見直しを含め「あらゆる選択肢を検討する」(岩田社長)とし、現在の厳しい収益環境から構造改革を含め反転攻勢をかける。

一方、石化事業ではサウジアラムコとの合弁会社であるペトロ・ラービグに誤算が生じている。主にエタンから石化製品を作るためコスト面での原料の優位性があるはずだったが、足元では汎用品だけに石化市況の悪化の影響を受けている。また石油精製も大きな課題となっている。重油の割合が多いため、より付加価値のあるガソリンを手がけるなど高度化が求められる。

サウジアラムコと共通認識はできているとされるが、その高度化には巨額な投資が必要となる。ただ岩田社長は「住友化学が資金を出さない中で、どうしていくのかが重要」と説明。両社で立ち上げるタスクフォースチームでは短期集中で1年内に方向性を示したい考えで、アラムコとのより密なコミュニケーションが重要性になっている。中長期的にはラービグでの市況の影響を受けやすい石化の高度化も視野に入れている。岩田社長は「高度化は設備を入れるだけなく、価値がわかる顧客を見つけるなどモノ以外での取り組みが必要になる。将来に向けて進めていかなければならない」と語った。

石化低迷―市況悪化で需給ギャップ 国内、生産体制最適化急ぐ

ラービグは石化市況悪化などにより、24年3月期予想でコア営業損益で650億円の赤字を見込む。住友化学の石化を担うエッセンシャルケミカルズ部門全体では、910億円のコア営業赤字となる見通しだ。

石化業界低迷の背景には、市況悪化による需給ギャップがある。世界経済が振るわない中で、中国を中心とした大規模プラントの新増設の動きが衰えず、供給過多となっている。岩田社長は「今の需給バランスはそんなに早くは収まらない」とみる。日本から中国への輸出が減るほか、中国などで作られた汎用品が日本に流入し、市況悪化に拍車がかかっている。

石油コンビナート所在地及びエチレンプラント生産能力

一方、日本の石化には「国内の需要をまかなうことが経済安全保障に寄与し、エッセンシャルな産業としての役割がある」(岩田社長)という。それだけに脱炭素対応を含めた最適な生産体制を築くため、石化再編の機運は高まっている。

住友化学は国内でエチレンプラントの合理化などで25年3月期中、川下のポリオレフィン連携などで25年3月期上期には方向性を示す考えだ。シンガポールでも収益力向上に向けた戦略を25年3月期中に策定する。

他社でも再編に向けた動きが活発になっている。三井化学と出光興産は、千葉県の京葉臨海コンビナートに持つ両社のエチレンプラントの集約に向け検討を始めた。西日本では、瀬戸内海に接する石化コンビナート間での連携を模索する構想もある。三菱ケミカルグループの筑本学社長は「日本でインフラを整えてグリーン化していく」と連携の必要性を説明した。

化学業界が次世代に価値をつなげるため、新たな施策や連携の重要性が増している。

岩田社長・一問一答 低分子薬で差別化

記者会見での岩田圭一社長との主なやりとりは次の通り。

岩田圭一社長

―どのように稼いでいきますか。

「攻めの先行投資や、再編なり撤退なりの守りにも、既に手を打っている。黒字を確実にするため、25年3月期のコア営業利益では短期集中業績改善策で300億円を折り込むが一過性だ。これに変わる成長の原資をいかに出していくのかを検討していく」

―住友ファーマは再生・細胞医薬に振り切るのですか。

「まずコスト構造を抜本的に見直す。研究開発費として残す500億円はシーディング(種まき)的なもの。がん領域2品目が立ち上がってくると大きなパワーになるが、十分ではない。持続可能な成長の手だてが必要。再生・細胞医薬はコストがかかり、30年にならないと収益がついてこない」

―30年までにスペシャリティー分野で注力することは。

「環境負荷低減にかじをきろうとしているが、途中経過をどう生き延びるかは重要な課題。当面の基盤は、今もだがライセンス主体の事業になる。今後の展望はこれから」

―ヘルスケアは競争が激しいですが、どう強みを発揮しますか。

「低分子のバイオ医薬品の開発・製造受託(CDMO)において、住友化学は日本最大。成長産業と思っていなかったCDMOで新たな事業機会があると分かってきた。さまざまな蓄積があり、高度な低分子薬で差別化できるとみている」

―M&A(合併・買収)の考え方は。

「自前でできるとも思っていない。米国における低分子はひとつのターゲットだ」


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