『ネタじゃない!東スポ餃子が爆誕』
上記の見出しで、世間を賑わせたのが2021年10月。以降、東京スポーツ新聞社(以下、東スポ)が、食事業に本腰を入れている。第一弾の餃子を皮切りに、唐揚げ・ポテトチップス・レモンサワー・ビールを次々にリリースし、2024年1月には「東スポ居酒屋・青ノ山」までオープンさせたのだ。

これまでも出版社が、期間限定での出店やイベントで、飲食店を開く事例は見られた。しかし、今回の東スポの居酒屋出店は、会社の一事業として店舗展開も見据えていくという本気具合だ。

一体、新聞社発の居酒屋のクオリティとは、そして東スポはどこへ向かっていくのか――。開店間もない店舗を訪れた。

◆社長のひらめきで始まった「食事業」

JR上野駅入谷口から徒歩2分、ビジネス街の一角に「東スポ居酒屋・青ノ山」は位置する。もともと本格讃岐うどんを提供する飲食店からオファーがあり、夜の居酒屋業態をプロデュースする形で、記念すべき一号店が誕生したそうだ。

店内は東スポ色満載だ。店内の壁一面には「ツチノコ発見」「屋久島にカッパ」といったおなじみの紙面が飾られ、東スポカラーの水色が目立つのぼりも設置されている。

「もともと当社の食事業は、社長のひらめきで始まったんですよ。読者がゴシップや競馬記事を読みながら、お酒を飲んでいる姿をイメージした時に『食で行こう!まずは酒に合う餃子だ!』と。

展開した当初は、社内でも『どうせ賑やかしだろう』と冗談気味だったんですが、社長が『これからウチは新聞社じゃなくて、総合商社としてやっていくんだ』と宣言して、社員も段々と本気になってきてね。それである程度の商材がそろってきた段階で、居酒屋業態に乗り出したわけです」(佐藤氏、以下同じ)

そう語るのは、文化部次長 兼 “東スポ食シリーズ広報担当”の佐藤浩一氏だ。これまで現場一筋で20年以上やってきたベテラン記者が、いまや食事業のPRに奔走する。

◆“東スポらしい”アルコール度数13%のレモンサワー

早速おすすめを聞くと、大体の客が頼むという看板メニューが、その名も「東スポセット」だ。餃子・唐揚げ・レモンサワー缶の3点セットが税込1500円で堪能できる。

食してみると、ガツンとニンニクが効いた餃子と唐揚げに、さっぱりしたレモンサワーが相性抜群だ。組み合わせ間違いなしの王道居酒屋メシだが、東スポらしい“遊び心”も感じる。

「東スポらしさを出したいと考えた結果、やっぱ独自性とインパクトで尖らせなきゃいけないだろうと。缶のレモンサワーは“日本史上最強”のアルコール度数13%、餃子は青森県産のニンニクを通常の3倍、唐揚げは希少部位の“肩小肉”で勝負しました!

特にレモンサワーはドカンと波が来ましたね。低アルコール化が進み、大手各社もストロング系を抑えている時代に、逆行して突き抜けてるのが東スポらしいと好評でした。発売した途端、インフルエンサーに“世紀末のレモンサワー”と称されてバズったり、酒井法子さんが『マンモスレモンな味わい!』と宣伝してくれ、とても反響が大きかったです」

いかにも東スポらしい口上だが、実は3品ともクオリティが高い。ニンニクのパンチとまろやかさが共存する餃子に、醤油ベースでジューシーな唐揚げ、13%を感じさせない口当たりのレモンサワーと、つい飲み食いが進む。

「このレモンサワーは飲みやすくてヤバいんですよ。なかには5缶飲んで腰を抜かす人もいましたから(笑)。缶から直に飲むとアルコールが立ちすぎるのですが、ロックで飲むとまろやかになるんです。店舗では割材のソーダとレモン果汁も提供してるので、お好みで調整してもらえたら」

アルコールに弱くないはずの筆者も1缶流し込んだらクラっとくるほど。普段のペースで飲んだら泥酔しそうだが、それだけコスパ抜群で満足できる証拠だ。

◆新聞が斜陽産業と言われているからこそ

一通りメニューを堪能したところで、気になるのは東スポの動向だ。同社は3月12日にはマムシエキスが配合されたビール「大スポダイナマイトラガー」を発売。同時に今後も居酒屋業態での店舗展開を計画していると明かした。

現在、東スポの食をはじめとした新事業部門には5人が関わっており、いずれもメンバーは他部署と兼任している。佐藤さんは記者との兼業で、店内には自身が手がけた「メキシコオカルト紀行」の記事も飾られているが、いきなり畑違いの業態を任された当時は戸惑いもあったのではないだろうか。

「一言で言えば人がいないんですよ……(笑)。僕もこれまで新卒から記者一筋でやってきましたけど、2021年に社長(当時:編集局長)から『なんか持ってそうだから広報やって』と急に任命されてね。『え〜!?』って話ですけど、『じゃあ紙でどうやって稼ぐんだ』と言われたら、何も言えないじゃないですか。

要するに四の五の言ってられないってことですね、とにかく新聞が斜陽産業と言われているご時世だしやるしかねえだろって。それに社長も本気で、東スポを総合商社にしていくと宣言しているなら、もう前に進むしかないですよね。片足突っ込むぐらいなら両足どころか首まで突っ込むし、いわば『死なばもろとも』精神ですね(笑)。実際のところ、純利益はそこそこですが、在庫を抱えない売り切りを徹底することで赤字は出ていない。今は出来る範囲で商材や店舗を広げていきます」

◆イベントスペースとしての用途も

また今回、初の実店舗を出店したことで、新たな活路も見えたという。それが自社イベントや、商品PRの場として有効活用できるという狙いだ。

「以前、競馬のGIレースが行われる際に、ここで予想イベントを開催したんです。当社の競馬記者を集め、司会でミス東スポ2022グランプリの朝日奈ゆうさんを呼んで、そしたらかなり盛り上がってね。こういうイベントの場として、弊社のコンテンツを発信していくのは有意義だなと実感しました」

3月22日には、GI高松宮記念の大予想会も開催。以降、GI予想会はレースのたびに開催する予定で、東スポ居酒屋の「名物」にしていきたいという。

「これからはUFOとかUMA(未確認生物)に関するトークイベントや、ミス東スポのお披露目会、新商品の発表会など、色々と自社のコンテンツを生かした企画を検討しています。そしたら東スポらしさも出るし、イベントの様子を自社記事でウェブに出せば、広告費を払わずに宣伝にもなる。この居酒屋を発信基地にして、どんどん東スポの商材を世に出していこうと考えてます」

東スポといえば、変わり種の記事を扱い、良くも悪くも読者にインパクトを与え続けてきた。食事業や居酒屋展開など業態は変われど、果敢に攻め続ける東スポらしさは健在なのかもしれない。

<取材・文・撮影/佐藤隼秀>



【佐藤隼秀】
1995年生まれ。大学卒業後、競馬会社の編集部に半年ほど勤め、その後フリーランスに。趣味は飲み歩き・散歩・読書・競馬