―[シリーズ・駅]―

 毎年春は駅や路線の廃止が多い季節。3月末で北海道のJR根室本線・富良野―新得間が廃止となったのは記憶に新しいところだが、実は4月30日にも別の路線が運行を終了する。
 それは広島市安芸区のみどり口―みどり中央を結ぶ広島短距離交通瀬野線。一般的には『スカイレールみどり坂線』(以下、スカイレール)の愛称で知られており、こちらは鉄道ではなく吊り下げ式。しかも、車体の上部にレールがある珍しい吊り下げ式となっている。

 それも厳密にはロープウェイと足して2で割ったような独自の構造で、世界でもここでしか乗れない大変貴重な公共交通機関だ。

◆世界中でもここでしか乗れない超レアな乗り物だった

 廃止になる前に一度乗りたいと思っており、今年2月に別件取材のついでに足を伸ばして広島へ。みどり口駅はJR山陽本線の瀬野駅に隣接しており、広島駅から在来線で約20分。しかし、市内中心部とは違って標高はそれほどないが、谷間に位置する駅を挟む形で南北に山がある。

 そのうち瀬野駅の北口に隣接するみどり口駅からは、山の斜面を駆け上がる形でスカイレールの吊り下げ式レールが延びている。路線はわずか1.3㎞と距離は短いが、高低差はなんと226m。そこをスキー場のゴンドラのよう形の乗り物が行き来している。

 運賃は乗車区間に関係なく大人170円、小児90円。切符にはQRコードが印字されており、それを自動改札機で読み取って中に入る。最近はJR東日本やJR西日本でもORコード対応の自動改札機が登場したが、日本で初めて導入したのはスカイレール。そういう意味では時代の先を行っており、今回の路線廃止は非常に残念だ。

 とはいえ、毎年1億円以上の赤字を抱えていたのでは経営的にも難しい。3月30日から運行が始まった代替交通機関のEVバスのほうがコストが抑えられるとあれば廃止もやむを得ないだろう。

◆実は、想像以上の絶景路線だった!

 それでも乗り物としてのスカイレールは単純に楽しい。駅周辺や山を切り開いて造成した住宅団地『スカイレールタウンみどり坂』の街並みに加え、周囲の山々も一望できる。終点までの所要時間5分の短い距離だが思った以上の絶景路線だ。

 庭付きの立派な一軒家が並ぶ、この住宅団地の住民の足としてスカイレールが開業したのは、入居が始まった翌年の98年で歴史は意外と浅い。だが、地元広島では有数の高級住宅街として知られ、現在は約7000人が暮らしている。

 これだけ住民がいれば採算が取れそうな気もするが、11年に小学校が住宅団地内に開校したことで利用者が激減したらしい。以前は小学校まで遠かったため、児童たちは登下校にスカイレールを通学の足として使っていたからだ。

 また、偶然乗り合わせた近くに住む年配女性によれば、JR瀬野駅まで家族に送り迎えしてもらったり、自転車を使っている住民も少なくないようだ。自転車だと帰りがひたすら上り坂で相当キツそうな気はするが……。

 話をしているうちにスカイレールは、アッという間に終点のみどり中央駅に到着。駅の隣には、訪問時は開業前だったがEVバス用のバス停があり、その奥には車庫が見える。

◆車両は広島市が保存・展示する可能性も

 みどり中央駅周辺は住宅街で特に見る場所もなかったため、みどり口駅に戻ることに。ただし、少し時間に余裕があったので歩いて降りることに。みどり中央駅からはレール下に階段が続き、100mほど降りると公園がある。

 ここは地域でもっとも大きな中央公園で石の壁や柱が規則的に並び、ほかにもストーンサークルのような場所もある。どこか遺跡のような雰囲気を漂わせて面白い。公園からも周囲の山々がよく見えるため、歩いているだけでも気持ちいい。

 公園を過ぎると約300mでみどり中街駅に到着。疲れてしまったので同駅からはスカイレールにで戻ったが、ヨソ者の筆者にとっては遊園地やテーマパークのアトラクションにでも乗った気分だ。

 開業から26年での廃止は、短い気もするが採算が取れない以上は仕方ない。二度と乗れる機会が訪れないのは悲しいものだが……。

 なお、運営会社のスカイレールサービスは、4月19日に車両の保存・展示に関する要望書を広島市に提出。現時点ではどうなるかは不明だが、世界唯一の資料価値の高い乗り物だけに何かしらの形で残してもらえることを祈りたい。

<TEXT/高島昌俊>

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【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。3度の世界一周経験を持ち、これまで訪問した国は50か国以上。現在は東京と北海道で二拠点生活を送る。