前編に引き続き、丸山桂里奈さんインタビュー第2回。両親も含む“ワンチーム”での子育てと、仕事との両立への思いを語ってくれました。〈全2回の後編〉

 2023年2月、48時間の難産の末、第一子を授かった丸山桂里奈さんだが、実は、出産後、感染症にかかってしまい3週間弱の入院生活を強いられたのだという。

「出産時に細菌に感染してしまったみたいで……。なかなか血液の数値がよくならなかったんです。熱は出るし、人に投げられてどこかにぶつかって落下したみたいな感じでとにかくしんどい。気力も体力もすべて奪われたという感じでしたね。食事もあまり食べられなかったし、食べてもどんどん痩せてしまって。体重は12㎏ぐらい痩せましたね。みんなに『痩せてよかったじゃん』って言われたんですけど、その後、見事に10kgリバウンドしました(笑)」

何をしても泣き止んでくれない

 退院後はいよいよ赤ちゃんとの生活がスタート。楽しみにしていた子育てだったが、最初の数カ月は想像以上の大変さを痛感した。何をしても泣き止んでくれない、理由の分からない“泣き”に、度々途方に暮れた。

「オムツ替えだったり、泣いているからお腹が空いているんだと思ってミルクをあげたら飲ませてすぎてしまって戻してしまったり……。いろんなことが気になって全然寝られなくて。本並(健治)さんに『寝なよ』と言われるんですけど、すごく気になって寝られない。夜泣きも最初はなぜ泣いているのかがわからなかったですね。今考えると、当たり前のことなんだってわかるけど、経験がないから何が正解かわからず、すごく考えこむことが多かったです。余裕がないから、すべてをネガティブに捉えてしまうところもありましたね」

 産後はホルモンバランスの関係で情緒不安定になり、落ち込んだり、イライラすることも多かった。もともと心配症で、出産後は神経質だと言われることもあったが、夫の言葉で気が楽になった。妊娠や出産中、そして育児に奮闘する現在も、これまで以上に本並さんの思いやりを感じている。本並さんがいなかったら、もっと切羽詰まっていただろう、と。

「娘がお腹にいたときもよくイライラしていたんですが、本並さんがクワバタオハラのくわばたりえさんに仕事でお会いしたときに、『奥さんがヒステリックになって、“こんな奥さん見たことない”と思っても、これはしょうがないことだって思わないとダメだよ』ってアドバイスされたらしくて。私にも『だからそうなっても心配するなよ』と言ってくれたり、優しい言葉をかけてくれたんです。離乳食をあげてくれたり、遊びに連れていってくれたり、娘がぐずるとベランダに連れて行って遊んでくれたり……本当にいいパパです」

「本並さんはGKだから抱っこがうまい」

 夫妻が“ママ”と“パパ”になって1年。丸山さんは以前よりもさらに本並さんのことが大好きだと感じている。

「“彼氏”や“夫”の本並さんの姿は知っていたけれど、父親になった本並さんはすごく安心感がありますね。パパとして娘に接する姿も、すごくいいなと思える瞬間が日々増えていて。本並さんはGKなので子どもの抱っこの仕方がすごくうまくて、安定しているんですよ。娘が泣いていても本並さんが抱っこしたら泣きやむ。普通はパパママ逆だと思うんですが、私は娘が泣いたら『お願いします!』って本並さんに娘を渡して(笑)。私がお風呂に入っている間には寝かしつけてくれて、私があがってきたときにはもう娘はぐっすり寝ていますね」

 出産を機に同居した両親の存在も大きい。丸山さんは産後4カ月ほどで仕事に復帰。夫婦共働きのため、今は母が一番、娘の面倒を見ているかもしれない。支えてくれることに感謝している。

「今、一番負担がかかっているのが母。毎朝起きると、娘が飲むミルクをすでに準備してくれていたり、離乳食の準備を手伝ってくれていて。母や父がいなかったらきっと仕事にも復帰できていなかったと思います。令和と昭和の育児の違いや、結構口うるさいタイプなので衝突することも多々ありますけど、やってもらっている身としては何も言えないからグッと我慢(笑)。そういう時は本並さんに愚痴って発散したり。そんなときも本並さんは『あんまり言いすぎない方がいいよ』と諭してくれて、『確かに、少し言いすぎたかな』と思い直すこともあって」

 ただ、自身が育児を経験したことで、母の偉大さもあらためて実感しているという。

 インスタグラムなどのSNSも、初めての育児と日々向き合っている丸山さんの強い味方だ。

「同世代で出産されている方や子育て中のお母さんがフォロワーに多いんです。夜中に授乳していることをつぶやくと、『私も今してます!』『一緒に頑張りましょう!』みたいなコメントが来て。もちろん会ったことはないけれど、自分1人じゃないんだと思うだけで、気持ちが全然違いますね。みなさんに支えられた時期が本当にたくさんありましたし、今も支えられています」

「育児だけだったら息が詰まっていた」

 紆余曲折あった育児も、2月21日、娘の誕生日でようやく1年が経った。

「過ぎてみると“早かった”ですね。まだ仕事に復帰していない頃は、おむつ替えや授乳の繰り返しで、一日がこの繰り返しで終わるのかな?と思ったり、自分の時間が全然ないなと思っていたけれど、今は家族の時間は家族の時間で楽しめているし、その一方で仕事のときや子どもが寝た後の一人の時間もすごく楽しめている。もちろん、育児は大変だけど、人生がすごく豊かになったなと感じています」

 娘とずっと一緒にいたい気持ちもあるが、仕事をすることは育児の活力にもなっている。仕事と育児の両立は多くの家庭が抱える悩みの一つだが、丸山さんは大好きな仕事が気持ちを切り替える絶妙なスイッチになっていると感じている。

「育児だけの日々を過ごしていたら、正直、息が詰っていたと思います。だからってもちろん育児を疎かにしていいってわけじゃない。仕事に復帰してみて痛感したのは、あらためて今の仕事は、自分が自分らしくいられる場所なんだなということ。だからこそ、育児も一生懸命やりたい。仕事をしているからこそ、帰って早く娘に会いたいなという思いも強くなっているんですよ」

 楽しみながら育児と仕事を両立している丸山さん。今の自分には考えられないというが、日本でも競技と育児を両立する女性アスリートも見られるようになった。

「アメリカの女子のサッカー選手には育児と両立している人が多いんですよ。私も子どもを抱っこして選手入場できたらいいなという憧れはあったし、アスリートとして頑張っている姿を子どもに見せられるのはやっぱりカッコイイですよね。でも、育児で寝不足とかになりながら競技も続けているなんて……本当にすごいなって尊敬します」

 1歳になったばかりの娘が大きくなったら何をするんだろうと考えると、今から楽しみで仕方ない。

「サッカー選手ですか? それはどうかな(笑)。ただ、足はめちゃくちゃ太くて、体幹もしっかりしてるんですよ。教えてもいないのに転んだときに体をひねって受け身を取っているときもあったりして。本並さんは娘が立っているときに補助しながら身体を左右に振ってバランスを取らせてみたり、バランスボールに乗せて軽く手を離してみたり、早くも体幹トレーニングをさせています(笑)。スポーツはやらせたいけれど、夫婦ともども現役時代に大怪我を経験しているので……。でも娘がやりたいと言ったらとことん教えます(笑)。最終的には自分がやりたいものが見つかればそれでいいんじゃないかな」

成人する頃には本並さんは80歳に近い年齢に

 現在は2人目の子どもの妊活中だ。タイミングもあるが、年齢的なことを考えると、ゆっくりもしていられない。長女が成人したときに丸山さんは60歳、本並さんは80歳に近い年齢となっている。不安はないのだろうか?

「不安よりも楽しみですね。もちろん、しっかりと育てますけど、子どもは子どもで自分たちの人生を謳歌してほしいかな。先日関口宏さんにお会いしたんですが、すごくパワーに満ち溢れていて、年齢を伺ったら80歳だって。だから、本並さんも80歳になっても大丈夫なんじゃないかな。根拠はないですけど(笑)。

(1人目の)難産は一生忘れないけれど、分かっているからこそなんとか乗り越えられるかなと。あんな辛い思いをしたら二度と経験したくないという人もいるだろうけど、あのしんどさを耐えられたんだから、また耐えられるだろうというタイプ。育児も大変だけどあんなにかわいい子どもが生まれるのなら、もう1回頑張りたいなって。逆に、育児のノウハウを忘れないうちに早く産みたいです!」

(前編から続く)

文=石井宏美

photograph by みてね