「なんでヘンダーソン決勝行かれへんかったんや……」。M-1ラストイヤー、今大会こそと期待されたコンビ。敗者復活戦も2位、ファイナリストまで本当にあと1歩で最後のM-1が終わった。
そのヘンダーソンのNumberWebインタビュー。2人が明かす、号泣の舞台ウラ。【全3回の中編/前編、後編へ】

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“恐怖の数秒間”

――おそらく今大会で、ヘンダーソンほど寿命の縮まりそうな判定を経験したコンビはいないのではないでしょうか。ラストイヤーという立場で準決勝の決勝進出者の発表、敗者復活戦のAブロックでのジャッジ、そして敗者復活戦の最終的な勝者を決めるファイナルジャッジ。

中村フー いちばん怖かったのはAブロックのジャッジでしたね。ノックアウト方式の。負けたら、今度こそ、ほんま終わりじゃないですか。その結果が、あと数秒で出んねや……という。

――敗者復活戦は7組ずつ、A、B、Cの3ブロックに振り分けられ、ノックアウト方式でまずは各ブロックごとの勝者を決める。そして、残った3組の中から今度は5人の芸人審査員によって1組に絞られる方式でした。ヘンダーソンはAブロックのトリで、6番手で登場したママタルトとの決選投票になりました。

中村 ママタルトがめちゃめちゃウケてたんで、これを超えられるのかというのはありましたね。

子安裕樹 まあ、あそこは勝ててよかったな。ほんまに。

――投票率41%のママタルトをヘンダーソンが59%で上回り、まずはAブロックを突破しました。

中村 舞台を降りたタイミングでママタルトの2人が「がんばってください」ってハグしてくれたんですよ。あれにはグッときましたね。

子安 ええやつらやな、と。決勝進出者の発表のときもそうでしたけど、全体的に東京の方がおめでとうって言えるやつ多い気がしますね。

中村 大阪の方がひねくれてるよな(笑)。東京の人の方があったかい。

「いらんことすな、いらんことすな…」

――そして、いよいよ敗者復活戦のファイナルジャッジを迎えるわけですね。

子安 ただ、あそこまでが長かったんですよ。Bブロック、Cブロックの結果が出るまで2時間半ぐらい待ってましたから。僕は舞台袖で他のコンビのネタをずっと観てました。

中村 TVerで生配信されていたので、楽屋でもずっと観ている芸人がいましたね。僕は観る気力もなく、楽屋でずっとタバコを吸っていました。すごいなと思うんが、人のネタ観てむっちゃ笑ってる人とかおるんですよ。もう負けてる人とかもおったんですけど、なんでこんなに笑えるんやろ、って。でも、それでいいんかな。仲間への愛があるということですもんね。

――そうそう、カメラワークがアシストになっていたのではと話題になったシシガシラはCブロックの3組目に登場したんですよね。

子安 僕は袖でしっかり観てましたよ。

中村 僕はウケてるのを聞いて、うわっ、嫌やなと思って袖に行ったんを覚えてます。

――会場には大きなモニターがあって、脇田さんがボケたタイミングでうまいこと本人のハゲ頭がズームアップされていたんですよね。

中村 いらんことすな、いらんことすなと思ってましたよ。あんなにゆっくりズームしていったの、シシガシラのときだけでしょ。

子安 むちゃくちゃおもしろいカメラワークだったんでね。まあ、カメラマンさんのプロ意識といえばそうかもしれませんが。

――私はテレビ朝日(決勝会場)のプレスルームでテレビ観戦していたので、ウケの大小はそこまでわからなかったのですが、シシガシラのときはかなりウケていましたか。

中村 仕事でスーパーマラドーナの武智さんが来てたんですけど、僕ら終わってから「お前らあるぞ」と。ただ、「シシガシラが来たら怖いな」と言うてはって。

子安 こういう話をすると(Bブロック勝者の)ナイチンゲールダンスに「あのカメラワークがなければ行けてたみたいに言ってますけど、なんで僕らはないことにされてるんですか!」って言われる。いや、ナイチンゲールダンスもめっちゃウケてたんですよ。ただ、周りがそう言ってくれるから、僕らも同じテンションで言ってしまっているだけで。

「マジで泣いてしまいそうやった」

――ファイナルジャッジのとき、3組計6人の表情がゆっくり映し出されていましたけど、中村さんの表情からいちばん切迫感が伝わってきました。

中村 ダメだったら、もう、ほんまに終わりなんでね。

――結果的に最初の1票はヘンダーソンでしたが、残りの4票はすべてシシガシラでした。

中村 すぐには拍手はできなかったですね。ちょっと時間を置いて、ポンポンぐらいはしましたけど。そうしたら横で相方が、なんて言ったんだっけ?

子安 「(シシガシラ)がんばれーっ!」って。大声で叫んでましたね。

中村 腹立つわ。

――「ちくしょー!」という意味でもあるわけですよね。

子安 マジで泣いてしまいそうやったんで、大声でかき消しただけなんですけど。でも、あのときあいつら、1回も振り返らんかったな。なんやねん思うたわ(笑)。

――やはりこういう取材を受けるたびにあのときの気持ちが思い出されるものですか。

子安 よみがえりますね。

中村 よみがえって、やっぱ悔しいな、って。あんな悔しい思い、今まで味わったことないんでね。全部終わって後輩とかに「おつかれした」って言われたら、もう無理でした。また、バーッと泣いてしまって。その日に(大阪へ)帰るの嫌やったんで、夜、武智さんと飲みにいったんですけど、そんときにフースーヤの(田中)ショータイムから電話があったんです。彼らも敗者復活でシシガシラに負けてたので、「悔しいっすね……」って号泣してて。それ聞いて、また涙が出てきて。夜中3時くらいまで新宿らへんで飲み続けて。なんか、ずっと悔しい日でしたね。

――子安さんは敗者復活戦のあと、どうしたのですか。

子安 僕は後輩2人と一緒に帰りました。僕が3人分のグリーン代を払って。M-1で優勝したら、グリーンになるっていう話を聞いていて、行きは普通車、帰りはグリーンっていうのが夢やったんです。なんで、とりあえず自腹でやっとこうかなぐらいの感じで。

――完璧な漫才でしたもんね。一分の隙もない。

中村 全部、詰め込んだんで。海鮮丼と言ってくださる方もいました。

――中村さん、こみ上げて……。

中村 今、ちょっと、グッと。声、震え出しちゃいましたね。もう、しゃべらんとこ。

<続く>

(写真=山元茂樹)

文=中村計

photograph by Shigeki Yamamoto