今年のセンバツ一番の話題といえば、「飛ばないバット」である。

 打球がピッチャーを強襲するなどの事故防止を目的とし、センバツから正式に採用された新基準バットは、旧基準と比べ最大直径が67ミリ未満から64ミリ未満と細くなり、打球が当たる箇所の肉厚が約3ミリから4ミリ以上となった。日本高野連の検証によると、打球の初速が3.6%減少したことで、飛距離が5〜6メートル短くなったとされている。これが、世間で広まる「飛ばない」という評価の所以だ。

 新基準バットを初披露する舞台が甲子園。抱いた印象は、苦心か手応えか? 甲子園優勝経験のある名将から初出場の青年監督、プロ野球出身者まで。指揮官たちの率直な意見を訊いた。

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太さが3ミリ減っただけで…「芯を外すと飛ばない」

◆仲井宗基監督(青森・八戸学院光星高)

「やはり、しっかり捉えないと打球は飛びませんが、ミートしてもスイングが緩んだら意味がない。自分のスイングをすることが大事。『こういう野球をする』と決めつけず、いろんな形のゲームをできるように準備しています」

◆高橋徳監督(徳島・阿南光高)

「バットの芯で捉えれば飛びますが、オーバースイングをしても高校生は芯を外せば飛びません。太さが3ミリ縮小しただけでこんなにも違うのかと思いました」

◆東哲平監督(福井・敦賀気比高)

「打球の勢いが弱いな、と思いました。普通のゴロならエラーは少なくなりそうですが、内野の前に来る弱いゴロの処理は難しくなったんじゃないでしょうか」

◆川崎絢平監督(大分・明豊高)

「練習試合では長打が出ていましたが、甲子園レベルになると大きな影響が出ると思いました。ましてや初めて対戦するピッチャーとなると、バットの弱みが出るというか。今日の試合(敦賀気比高戦)だと、1巡目から2巡目にかけての対応。バッターが1打席目と同じ凡打をしていたので、今後はそのあたりに変化をつけてもらいたいです。

(守備面では)どうしても内野がエラーしそうなゴロにならない印象です。前のバットなら野手の目の前でも打球がまだスピンしていたのが、新基準に変わってそれが緩んでいるというか。バントも前より勢いがなくなっているように思います」

「ファウルが多くなった」「値段が高い」

◆吉田洸二監督(山梨・山梨学院高)

「打球が詰まると、それまでは内野と外野の間に落ちるフライになっていたのがゴロになりますよね。速いボールのほうが高反発を生むような印象はありましたけど、球速の遅い変化球だと本当に飛ばないなと思いました」

◆中村謙三監督(福岡・東海大福岡高)

「守りは、詰まらせて打ち取った打球でもいい具合で失速してしまうので、ポジションがどうしても前になります。それによって、ワンヒットで二塁ランナーの生還を防げるようになったとは思いますが、そのあたりの判断が難しいところもありますね。攻撃では、バットが細くなった影響でファウルは多くなったように感じます。ピッチャーは球数が多くなってしまうため、早く追い込まないと苦しくなるでしょうね」

◆西谷浩一監督(大阪・大阪桐蔭高)

「甲子園ともなればそんなに点を取れるわけではありませんから。飛ばない、飛ばないと言われているので、しっかりとバッティングの技術をつけていかなければいけません」

◆中井哲之監督(広島・広陵高)

「新基準のバットは木よりちょっと重いですね。うちだと3番と4番バッターは、バットの芯に当たれば飛びますけど、それ以外は『まだ』といったところです。高校を卒業した選手が金属から木製に変わると、慣れるまでに2年はかかると言われています。今の高校生は技術レベルが高くなっているし、情報も多いからいずれ対応してくるとは思いますけど、すぐではないでしょうね。それにしても、バットの値段が高い……(※旧基準より1万円ほど高い3万5000円前後)」

◆兜森崇朗監督(青森・青森山田高)

「以前までのバットを10だとすると、新基準のバットはその5、6割くらいの反発しかないように思いました。性能としては木に近いように感じます。金属でそこに近づけられる製造技術はすごいですよね」

◆小針崇宏監督(栃木・作新学院高)

「打球が上がったとしても、そこからふっと急に落ちてくるように思いますね。バットの芯でしっかり捉える技術がないと、そういう打球が多くなるんじゃないでしょうか」

「木のバットに近い」「守備位置にも影響が」

◆大角健二監督(兵庫・報徳学園高)

「上がった打球は飛ばないですが、ライナーは伸びる印象がありました。(守備では)今日のゲームでは特に変更はありませんでしたけど、相手(愛工大名電高)が追い込まれたらカットしてくるなどバッティングスタイルを変えてきたので、試合によってはバッテリーの配球面を考えていかないといけないと感じました。守備でのポジショニングも相手の打球傾向などを見て、その都度、判断していくようにします」

◆倉野光生監督(愛知・愛工大名電高)

「甲子園での他の試合を見て感じるのは、外野の位置がだいぶ前だということ。打球がほとんど飛ばなくなり、木に近いようになったと思います。選手は今までの金属みたいにバットをぶん回すのではなく、木製のようにしっかりボールを捉えるような振りにしたほうがいいでしょう。選手の技術向上に繋がるので、このままでいいと思います」

◆島田直也監督(茨城・常総学院高)

「『飛ばない』とよく言われていますが、打撃に関してはチームにセンター返しを意識させていますんで、飛ばないという印象は持ちませんでした。『木製バットに近くなった』とも言われていますが、上半身だけの力に頼ってしまうと飛ばないですよね。なので、下半身をしっかり使って打つ技術は必要になってくるかと思います。守備に関しては、打球が飛ばなくなってきたこともあるので、各バッターのスイングの速さなどを見極めてポジションを変えたり、対策はするようになりました」

「木製バットに近くなった――」

 そう答える監督が多かった。

 これまで強打を印象付けてきたチームが送りバントを駆使し、2ストライクまで追い込まれたバッターがファウルでカットするなど小技で対応する。もともと機動力を売りにしてきたチームは、エンドランやダブルスチールと脚を絡めた攻撃により磨きをかける。

 1回戦を終えてわずか2本というホームラン数が物語るように、単打が増え、フライによるロングヒットが減少した。

「野球が変わった」

 そういった見方はあるのかもしれないが、断定するのは早計である。監督たちが打ち出す、春の最適解を見届けようではないか。

<選手編を読む>

文=田口元義

photograph by Nanae Suzuki