Jリーグ開幕から快進撃を続けるFC町田ゼルビア。新加入ながら主将に任命されたロシアW杯日本代表のDF昌子源が、影響を受けた3人の“リーダー”について語る。W杯ベスト8をかけて対戦した強豪ベルギーに大逆転負けを喫した“ロストフの悲劇”で、先輩GKの心に刺さった“ある言葉”とはーー。<Number Webインタビュー全2回の後編/前編も公開中>

FC町田ゼルビアの主将・昌子源の流儀

 リーダーというものは、さりげなく模範的な行動を取る。

 FC町田ゼルビアの新キャプテン、昌子源がまさにそうだった。ケガ明けから初めてベンチ入りした3月9日、町田GIONスタジアムでの鹿島アントラーズ戦。試合前のウォーミングアップを終えると、審判交流プログラムでやってきたMLSの審判団に歩み寄っていく。挨拶にしては少々長い。身振り手振りを交えてコミュニケーションを取っていた。

 映像には映らないそのシーンを、彼はこう振り返った。

「まずは町田のキャプテンをやらせてもらっていると伝えて、今回ゲームキャプテンを務めるのがナンバー8の仙頭(啓矢)で、鹿島側はおそらく植田(直通)だと。なんせファイトする特徴を持つ両チームなんで(キャプテンと)うまくコミュニケーションを取ってあげてもらえれば。ちょっとエキサイトするところもあるかもしれませんので、うまくコントロールしていただきたい、みたいなことを言ったんです」

 誰もがやれることではない。

 昨季まで在籍した古巣にも配慮しつつ、チームの特徴が出しやすい状況を後押しした。昌子の出番は訪れず、3枚のイエローカードが出たゲームになったが、持ち味をより出し切った町田が1−0で勝利している。ただ“キャプテンだから”起こしたアクションではないという。

「Jリーグの情報をあまり持っていない審判団なんで、キャプテンじゃなくてもやっていたとは思います。これまでどのチームでも、日本代表でも、ほかにキャプテンがいるから控えめにしておこうっていう性格じゃないし、たとえベンチだろうが(チームのために)何かできることがあるんじゃないかなっていう気持ちはいつもあるんで」

 当然のことと言わんばかりに、彼は真っ直ぐな視線をこちらに向けた。

「ミツさんについていけば正しい道なんだなって」

 リーダー気質を携える昌子に、影響を与えてきた人物がいる。

 そのうちの一人が鹿島の黄金時代を築き、長らくチームを引っ張ってきた小笠原満男である。昌子も小笠原キャプテンのもとで多くのタイトルを手にしてきた。

「ミツさんはランニングにしても、ウォーミングアップにしても一番うしろ。グラウンドにも最後にあらわれるし、ミーティングもうしろも空いている席に座って聞いている感じなんです。キャプテンの振る舞いっぽくはない(笑)。でもいざ練習になれば、試合になれば誰よりもやる。相手のキーマンはこの選手だってなったら、真っ先にそこをつぶしにいく。チームが勝つためには、ミツさんについていけばそれが正しい道なんだなって思わせてくれる。正直、その背中についていきたくなるんですよ」

 小笠原がドンと構える鹿島で、勝つチームの勢いとは何かを学ばされたことがあった。7年ぶりとなるJ1制覇を果たした2016年シーズン。クラブワールドカップではアジア勢で初めて決勝に進出し、レアル・マドリードとの大一番も延長戦までもつれた。帰国後、天皇杯に臨んで元日の決勝では川崎フロンターレを下して頂点に立っている。

「勝って兜の緒を締めろってよく言うじゃないですか。でもあのときはチームの勢い自体、プラスにしか働いてない感じがあって、締めるどころかむしろ伸び伸びやらせてもらった。締めないアプローチだから、その勢いを止めなくていいというか。

 天皇杯の準決勝で(横浜F・)マリノスと戦って決勝はフロンターレ。年間の試合数も多くてシーズン最後で体に疲労が溜まった状態ではあったと思うんですけど、レアルとの戦いも注目されてノッていたところはあった。決勝やからって変に気持ちを入れなくて良かったし、チームが誰一人として勢いを感じていたから、川崎さんがどうこうじゃなくて、過信とかじゃなくて、絶対勝てるって思って臨んだ試合でもあったんです。結果、延長まで行っているんですけど、負けるとはまったく思わなかった」

 勢いを敢えて“馬なり”にすることで、加速させられた。チーム全体でドンと構えることができた。

小笠原とは正反対な長谷部のリーダーシップ

 昌子が同じようにその背中についていきたいと思わせてくれたキャプテンに、日本代表時代の長谷部誠がいる。練習、試合となったら誰よりもやる、キーマンを真っ先につぶしにいくといったところも同じボランチである小笠原との共通項だが、チームを引っ張っていくアプローチは違うという。

「ランニングもウォーミングアップも常に先頭ですから、ミツさんとは正反対ですよね。ハセさんで言わせてもらうなら、チームが良くない状況にあると思ったらすぐピリつかせてくれる。もう1回ここ集中しようよか、もう1回しっかりしようとか。自分も出場したロシアワールドカップもそうですけど、(本田)圭佑くん、(長友)佑都くん、(香川)慎司くんたちがいたあの個性派揃いのチームを、よく束ねていたと思いますよ。なにせ判断に迷いがないから、ついていきやすい。目の前に3本の道があるとしたら、パッと1本を選んでいくイメージ。どうしよう、こうしようっていうのがない。これはミツさんも同じなんですけど」

ハセさんの言葉に「シビれましたよ(笑)」

 ロシアワールドカップ、グループステージ第3戦のポーランド戦だった。0−1のビハインドながらこのままで推移すればフェアプレーポイント差でラウンド16に進めるという状況。西野朗監督は終盤、温存していた長谷部を投入して自陣でパス回しをして攻めずに試合を終えるべく実行させた。その戦い方には批判もあり、西野は選手たちの前で詫びている。

「そこでハセさんが“謝られる覚えはないです。勝ち上がるためなら何でもやります”って言ったんです。あのときはシビれましたよ(笑)。チームがそこでまた一つまとまった瞬間にもなりましたから」

 2大会ぶりにグループリーグを突破し、ラウンド16では優勝候補ベルギー代表を相手に2点リードしながらもあまりに衝撃的な負けは「ロストフの悲劇」として知られている。ベスト16の壁は超えられなかったものの、一つになって戦えたからもう一歩のところまで迫ることができた。大会前に監督交代があり、ゴタゴタを乗り越えることができたのは長谷部の存在も大きかった。迷いなき、躊躇なき言動で束ねたリーダーシップは昌子の心に突き刺さった。

昌子を支える“まだ10秒ある精神”

 そしてもう一人。こういう選手になりたいって心から思わせたくれた先輩がいる。

「このエピソードは初めて明かすのですが」と前置きして、心に大切に閉まっていたものを取り出してくれた。

 あのベルギー戦、後半アディショナルタイムにコーナーキックからカウンターを受け、ナセル・シャドリに勝負を決める3点目を奪われてしまう。昌子はピッチに崩れ落ち、あまりのショックに体を動かすことができなかった。そのときに足早に近づいてきたのが、GKの川島永嗣であった。

「永嗣さん、僕のことを起こすんですよ。無理やり手を引っ張って。そのときに言ってくれた言葉が忘れられなくて。『源、立て、あきらめんな。まだ終わってない。まだ10秒ある』って。終了間際のゴールで時間なんてほとんどないのに、あきらめんなって言ってくれたんです。そのときは気落ちしたままで『そうっすね』みたいに返したって記憶しているんですけど、後になって振り返ったら凄い言葉やったなって感じたんです」

 昌子は立った。傷つきながらもファイティングポーズを取り直して、非情のホイッスルを聞き遂げた。ワールドカップ以降、うまくいかないことがあろうとも、困難が直面しようとも“まだ10秒ある精神”は彼を支えている。

「ミツさん、ハセさん、エイジさん。もちろんほかの方もいるんですけど、この3人は特に自分のなかでこういうふうになりたいなって思わせてくれた人たち。町田ではキャリアを多く積んでいるほうなので、みなさんのいいところを取ってハイブリッドというわけじゃないけど、若い選手たちには自分なりに伝えていきたいなって思います」

 リーダーとしての使命に向き合っていく日々。受け継いできたものを次の世代へという意識も強い。それが選手たちのマインドを強くし、チーム自体、リーグ自体、そしてもっと広い観点に立てば日本サッカー全体の成長にもつながっていくはずである。

<前編から続く>

文=二宮寿朗

photograph by Shigeki Yamamoto