土地の産物を活用し、風土に合わせた調理法で作り、
伝えられてきた郷土料理

日本は南北に長く、森、山、川、海などの自然に恵まれ、地域によって気候が大きく異なるため全国各地にさまざまな郷土料理が存在する。

例えば、北海道の冬の定番料理「三平汁」や、夏にさっぱりいただく宮崎の「冷や汁」、雪国ならではの保存食文化から生まれた秋田の「ハタハタ寿司」など枚挙にいとまがない。

日本を代表する郷土料理「寿司」は1200年以上の歴史を持ち、最古の形は酢は使わず、魚を塩と米飯で発酵させたもので、発酵した魚のみを食した。

これらは「なれずし」と呼ばれ、奈良時代の高貴な人々の食べ物として定着した。各地にさまざまな魚を使ったなれずしが存在し、滋賀県の「鮒寿司」は代表的な一例である。

昨今、若者を中心に「和食離れ」も見られるが、先人たちの知恵が詰まった郷土料理は、後世に残したい日本の誇るべき文化だ。

■いかめし(北海道)

イカの胴体に、もち米やうるち米を詰め込んで炊き上げた「いかめし」は駅弁でもおなじみ。スーパーや通販でレトルトパックになったものも販売しており、1年を通して手軽に入手できる。

■ルイベ(北海道)

画像提供/石狩市

アイヌ民族発祥といわれる、サケやマスなどの魚を冷凍保存し、解凍しないまま刺身にして食べる郷土料理。口に入れたときの凍った食感と口の中で次第に溶けていく味わいが特徴。

■いちご煮(青森県)

画像提供/青森県

ウニとアワビを使った潮汁(魚介で出汁を取った塩味の汁)。八戸市周辺の漁師料理で、薄い乳白色の汁の中に浮かぶウニが朝もやの中に霞む野イチゴのように見えることからこの名が付いたという。

■ミズとホヤの水物(青森県)

画像提供/青森県

津軽地方の夏には欠かせない家庭料理で、ホヤ独特の少しクセのある香りとクニュっとした食感に、ミズの爽やかさとシャキシャキ感、すべてを上手くまとめる昆布出汁の味わいが相乗効果を呼び、非常に美味。

■鮎めし(栃木県)

画像提供/栃木県農業者懇談会

素焼きにしたアユと米を一緒に炊く鮎めしはアユ漁が盛んな那珂川や鬼怒川周辺に伝わる郷土料理。清流に育つアユは貴重な食材だったため、以前は祭りの日や農休日など特別な日に作られていた。

■なめろう(千葉県)

画像提供/千葉県

魚のたたきの一種で、主にアジに味噌、ねぎ、生姜のみじん切りなどを混ぜ、粘りが出るまでたたく。「皿をなめるほど旨い」ことから「なめろう」と名づけられたといわれる。

■さんが焼き(千葉県)

画像提供/千葉県

漁師は山へ行くとき「なめろう」をアワビの殻に入れて持って行き山小屋で蒸す、焼くなどして食べた。「〇〇の家」を「〇〇が」という方言があり「山の家で食べた」という意味の料理。

■くさや(東京都)

画像提供/伊豆大島ナビ

魚類の干物の一つで伊豆諸島でのみ作られる。アジ科の海水魚クサヤモロなどの魚を「くさや液」と呼ばれる魚醤に似た独特な匂いや風味をもつ発酵液に浸潤させた後、天日干しにする。

■がわ(静岡県)

画像提供/御前崎市

御前崎市に伝わる料理で、生のカツオ、きゅうり、梅干し、青しそなどを刻み味噌とともに水に入れる冷やし味噌汁。漁師がカツオ漁に出た際に船上で作ったのが始まりとされる。

■こんかいわし(石川県)

画像提供/能登町

イワシを米ぬか、麹、唐辛子などで漬け込んだもので、能登沖で大量に獲れたイワシを保存するために生まれた保存食。ぬか付きのまま焼いたり、ぬかを洗い落として薄切りにして食べたりする。

■アマゴ茶漬け(愛知県)

画像提供/愛知県食育消費流通課『あいちの郷土料理レシピ50選』

愛知県東部、奥三河に伝わる郷土料理。アマゴを甘露煮にし飯の上に乗せ、茶をかけて食べる。平安時代の書物『延喜式(えんぎしき)』などにも記載があり古くからごちそうだった。

■鮒寿司(滋賀県)

撮影/渡部健五

琵琶湖で獲れる子持ちのフナを塩漬けにし、飯と交互に重ね、数カ月から約2年間漬け込み、発酵させて作る。一般的にはフナのみを食べるが滋賀ではペースト状の飯ごと食べる人も。

■がっちょの唐揚げ(大阪府)

画像提供/大阪府環境農林水産部水産課

泉州地域に伝わる家庭料理。この地域では、ネズミゴチやハタタテヌメリなど大阪湾でよく獲れる体長10〜20cmほどの魚を、エサにがつがつと食らいつくことから「がっちょ」と呼んでいる。

■はもすき(兵庫県)

画像提供/南あわじ市

肉質が良くコクがある淡路島産のハモとタマネギを、寄せ鍋風の出汁で煮込んだ鍋料理で淡路島の名物。ハモは秋の産卵に向けて脂が乗る初夏以降が旬となるため今が食べ頃。

■鯛めん(広島県)

画像提供/尾道市

ゆでそうめんを大皿に盛り、その上に鯛の姿煮を乗せたハレの日の料理。木の芽やきゅうり、錦糸卵、甘辛く煮た椎茸などを添えることも。兵庫県や愛媛県などの瀬戸内地域でも食べられている。

■ぐべ汁(山口県)

画像提供/赤崎旅館(山口県萩市)

人口が1000人にも満たない小さな島・見島の家庭料理で、見島の宿の朝食で必ず提供される。「ぐべ」とは直径2〜3cmほどの「ヨメノサラ」という貝の仲間。

■スズキの奉書焼き(島根県)

画像提供/しまね観光ナビ

江戸時代から城下町として繁栄した松江市の名物料理で、スズキを奉書(楮を原料にする和紙)に包んで蒸し焼きにしたもの。祝宴などハレの日に食べられる。

■ひらら焼き(徳島県)

画像提供/三好市観光協会

徳島県三好市祖谷地域で食べられている郷土料理の一つで、平たい石を熱して、その上で魚や野菜を味噌とともに焼き食す。平らな石を「ひらら」と呼ぶことから、この名が付いた。

■法楽焼(愛媛県)

画像提供/今治市

塩やごま、豆類などを炒るための平らな「焙烙鍋(ほうろくなべ)」を使い、タイやイセエビ、サザエなどの魚介類を盛り、塩のみの味付けで蒸し焼きにする、シンプルかつ華やかで豪快な料理。

■きびなごのほおかぶり(高知県)

画像提供/高知県

米の代わりにおからを使い、背開きしたきびなごを酢で〆てから、おからずしを包む。見た目がほっかむりをした(手ぬぐいを被った)人の頭のように見えることからこの名が付いたとされる。

■あぶってかも(福岡県)

画像提供/福岡市

福岡市沿岸地域で食べられるスズメダイの塩焼き。皮やうろこの香ばしさや肝のほろ苦さが特徴。焼いて食べようという意味の「あぶって噛もう」や、あぶったら鴨のようなうま味がしたことが由来。

■しゃくの天ぷら(熊本県)

画像提供/荒尾市

熊本の夏の味覚、シャク(真ジャク)は正式には「穴じゃこ」といい、八代地域・荒尾地域などの干潟に深い巣穴を掘って生息する。揚げたてを好みで天つゆや塩、山椒などでいただく。

■きらすまめし(大分県)

画像提供/臼杵市

残り物の刺身や魚の中落ちにおからをまぶしてかさ増ししたもの。大分県臼杵(うすき)市の方言でおからを「きらす」、まぶすを「まめす」と言い、魚に「きらすをまめした」という意味。

■丸すし(大分県)

画像提供/髙橋水産

梅酢漬けしたアジに赤しそが巻かれた、大分県佐伯市の郷土料理。しそを使っているため、保存もきく。かつては祝いの席や祭りの際に食べられていた。現在は飲食店や民宿などで食べられる。

■つけあげ(鹿児島県)

画像提供/鹿児島県

魚のすり身に豆腐や鹿児島県の地酒を混ぜ、油で揚げたもの。主にアジ、サバ、トビウオが一般的だが上物としては、エソやハモ、グチなども使われる。 砂糖を入れて甘口に仕上げるのも特徴だ。

■ビンタ料理(鹿児島県)

画像提供/枕崎市

「ビンタ」は鹿児島弁で頭という意味で、漁業の町、鹿児島県枕崎市の名物。カツオの頭を丸ごと使い、塩や味噌で煮た豪快な料理。枕崎市への転入者などを歓迎するために振舞われる。

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