悩みの代表格ともいえる「先延ばしグセ」。できない言い訳ばかりの自分へ嫌気がさすことは、誰しも一度は経験があるかもしれません。

先延ばしをなくす方法を発信し続ける、メンタルコーチの大平孝信さんもかつては同じクセに苦しんでいた一人。20万部を突破した著書『やる気に頼らず「すぐやる人」になる37のコツ』(かんき出版)では、実体験をもとにした様々なヒントを紹介しています。そんな大平さんに、すぐできる先延ばしグセの改善策、本にはあまり書かれていないご自身の人生についてうかがいました。

取材・執筆:片平奈々子(PHPオンライン編集部)


「すぐやる人」になる思考法

――ずばり、先延ばしグセをやめて「すぐやる人」になるには何をしたら良いのでしょうか?

【大平】著書にも詳しく書いているのですが、「仮決め・仮行動」「10秒アクション」を取り入れましょう。これは私が受け持つセミナーや企業研修でも、皆口を揃えて効果があったと言います。

すぐに行動に起こせない人の多くは「ちゃんと決めてから動こう」とか「失敗したくない」という心理状態にあります。完璧主義になりすぎて、何も手に付けられないケースがほとんどです。これでは本当にもったいないです。

まずは仮で良いので、肩の力を抜いて何かしら行動をしてみる。質より"行動量"を優先しましょう。最初は思うようにいかなくても、何度も繰り返すうちにすぐ動く習慣が身についていきます。これが「仮決め・仮行動」です。

「10秒アクション」は言葉の通り、10秒間動くことです。とりあえず10秒動いてみることで脳の側坐核*が刺激され、ドーパミンが放出してやる気が出てくるというものです。

私が以前、東京マラソンに当選した際、練習を意気込んで週3日30分走ると決めました。でも、ハードルが高すぎてできませんでした。だから10秒アクションとして、前日にランニングシューズを玄関に置いておき、「朝起きたらシューズを履く」ことを実践してみました。

すると、靴を履いたら自然に足が外に向かいます。そのまま家のまわりを散歩して、歩いているうちに身体も温まってきて、終いには走ることができたんです。

「30分走ろう」と決めてもできませんでしたが、その前段階の「靴を履く」だけを意識してみたら目標だった30分走ることも難なく達成できたのです。

この「仮決め・仮行動」「10秒アクション」はセットで試していただくと良いと思います。

*側坐核:脳内の興奮や意欲をつかさどる部分


言い訳ばかりの自分から脱却するには

――言い訳ばかりして、先延ばしにすることもあると思います。これはどう対処すべきですか?

【大平】まずは自分がどんな言い訳をしているか気づくことです。世界三大言い訳は、「お金がない、時間がない、自信がない」と言ったりしますよね。自分自身がどんな言い訳で先延ばしにしているか振り返りましょう。

それが特定出来たら、次に言い訳を別の言葉に置き換えてみます。

私の長男は、理科に苦手意識があったようで、「俺は理科が苦手だから」というのが口癖になっていました。そこで、「理科が苦手なのではなく、勉強の仕方がわからないだけ」と言い換えるようアドバイスしたところ、理科の勉強を後まわしにすることがなくなり、テストの点数が伸びたのです。

言い訳や口ぐせは、何かをやらなくて良い免罪符になります。そんなブレーキに気づいたら、取り除くための"言い換え"をしましょう。言葉には大きな力があります。


人生を変える「大きな目標」

――ご著書の中で、「ぶっとんだ目標が人生を変える」とありました。これはどういった意味なのでしょうか。

【大平】先延ばしのストレスを減らすためなら、これまでお伝えした方法で十分効果が得られます。一方で、人生を劇的に変えるなら目標があった方が良いですね。それも少し無理そうだけど実現可能性がゼロではない大きな目標です。

「私はここに行きたい」と目的地が決まっている方が一歩踏み出しやすくなるためです。数年後、こんな自分になれたら、こんなことを達成したい...と目指すものが明確にあれば必要な情報、さらには協力者も出てくるでしょう。

逆に、目指す場所が何もないと、周りの意見や世間の情勢にただ振り回されるだけになってしまいます。何年経っても自分が本当にやりたいことができず、途方に暮れる結果になりかねません。

実現可能性や感情のブレーキにとらわれない、心底実現したい目標に向かって進むことができれば、決断や行動もスムーズになり人生が充実したものになります。


自身も“先延ばしグセ”に悩み苦しんだ過去

――大平さんもかつて先延ばしするタイプだったと仰っていました。

【大平】実は、前職の頃は私自身も先延ばしグセが酷い人間でした。税関係のシンクタンクに勤めていたのですが、スキルアップに必要な税の勉強が全然進まなかったんです。そんな当時は「まだ本気を出していないだけ」が口ぐせでした。

自分の進みたい方向も決められていなかったので、周りが良いと言った情報に飛びついては飽きての繰り返しで...。そのおかげで積み上げた実績が何もない状態でした。

ダメな自分を変えたくて一発逆転を狙ったりもしたのですが、力み過ぎてうまくいきませんでした。そんな自分のことを責めて、できない言い訳を並べて物事の先延ばしを続けていました。

――本の中で語られていることが、そのまま当てはまっていらっしゃったとは。そんな大平さんはどうして変われたのでしょうか?

【大平】きっかけは妻から「軸ナシ」と一喝されたことでした。そして今度こそ変わろうと決めた矢先に"アドラー心理学"と出合ったんです。

アドラー心理学は、過去の原因を追究するより、今あるものを活かして未来の可能性、目的を考えていく心理学です。これなら自分も取り入れて何かできるかもしれないと思い立って勉強を始めました。

アドラー心理学に則って先々の可能性について考えるようになると、いずれプロコーチとして独立して企業研修をしたい、本も出版してみたいなどと、自分が心の底からやりたいことに気づくこともできました。

明確に目標が見つかりその達成に向けて挑戦を続けていると、段々と企業のオファーをいただるようになったり、出版の企画も通過するようになりました。

――やはり本心で見つけた目標って大切なのですね。過去と現在のご自身はどれくらい違うのでしょうか。

【大平】もう、かなり違うと思います。以前の自分は話すことが苦手で、会議で一言も発言できなかったり、企画も何も出せなかったり、いつも自己嫌悪していました。ほとんど行動ができていないのに、一発逆転を狙う毎日でした。

ですが、心理学やコーチングをフル活用して自分の方向性を確立させたら、物事が上手く循環するようになったんです。話し下手だった私でも講師の経験を積んだことで、話すことも好きになりました。

――方向性一つ決めるだけで、それほど人生が変わるのですね。

【大平】思い通りいかない時期が10年ほど続いたんですが、その10年があるからこそ本が書けているとも思います。

ダメだった当時の自分に対して「こう考えればいいんだよ」「こうしてみたら」と、語りかけるように本に落とし込んでいきました。だから、今では諦めずにもがいた10年間に感謝しています。

もし、かつての私のように何もかもうまくいかず、もがき苦しんでいる方がいたら、まず思うようにできない自分を責めるのをやめてください。そして、自分が心の底から好きなことや大事にしたいことが、どんなことだったか思い出してみてください。

それに気づくことができたら、「私はこっちに行きたいんだ」と方向性を定める。肝心なのは大きく変わろうとぜず、小さな変化を積み上げることです。地味ですが、少しずつ先延ばしを減らせらば、必ずなりたい自分へと向かっていくことでしょう。