出世コースから外れ、大した仕事もせずに定時帰り...。人手不足や人件費の高騰が叫ばれる中で、多くの企業が「窓際族」の扱いに頭を悩ませている。若手から「働かないおじさん」とも揶揄されるベテランのビジネスマンたちは、何故生まれてしまうのか? 前川孝雄氏が解説する。

※本稿は、前川孝雄著「部下を活かすマネジメント"新作法"」(株式会社労務行政)より、内容を一部抜粋・編集したものです。


雇用保蔵者は推計400万人以上、くすぶり人材増殖中

「50代のベテラン社員が、なかなか思うように動いてくれません」「私の部下にも"働かないおじさん"がいて、悩んでいます」

私の会社の研修を受講する企業の人事担当者や管理職からよく聞く悩みだ。以下に代表的な本音を紹介しよう。

・ 研修では、「上司はまず性善説に立ち、部下の可能性を信じ、活躍支援と育成に努めるべきだ」と習う。上司の心得としてはもっともだとは思いつつも、現実には難しい

・ 自分のチームの年上部下は、終業時刻になると任せた仕事が途中でも、そそくさと帰ってしまう。その結果、いつも残された周囲の若手メンバーにしわ寄せが行く。上司の私がフォローに回らざるを得ないことも、しばしば。どうしていいものか、困っている...

訴えには切実なものがあり、年下上司が思い悩むのも無理はないところだ。

しかし、こうした実態は決して珍しいものではない。リクルートワークス研究所の推計によると、2025年には雇用保蔵者(会社に所属して給料はもらいながらも、ほとんど仕事らしい仕事をしていない社内失業者のこと)が415万人にも上り、全雇用者の8.2%に達するという。

1995年には186万人で全雇用者の3.9%に過ぎなかったため、数も比率も大幅に悪化する見込みだ(「2025年 働くを再発明する時代がやってくる」2015年6月)。こうした、"くすぶり人材"ともいえる一定の層が、徐々に増殖し続けているのだ。

その多くが中高年人材であり、人件費も高止まりがちな世代だけに経営的にも重荷。それが労働者のおよそ10人に1人にもなるということだから、企業各社にとっても、社会全体にとっても看過できない事態だ。


2-6-2の法則で、できない部下は出てしまうもの?

こうした「仕事を任せてもできない部下」は諦めるしかないのだろうか。企業によっては、中高年人材に対する退職勧奨やアウトプレースメント(再就職支援)を進めるケースも少なくない。諦めの典型的なパターンの1つといえるだろう。

昔から、出世コースから外れて職場の隅に追いやられ「窓際族」とも揶揄された、仕事のできない人材。「2-6-2の法則」で説明される場合もある。

どのような組織であっても成果創出の構成比は「上位層2割、中間層6割、下位層2割」に分かれるという。上位の2割は高い業績を上げる優れた人材で、組織をけん引する存在。中間の6割は平均的な人材で、そこそこの業績を出す層。そして、下位の2割は業績の低い人材で、とても活躍など期待できないというものだ。

「働きアリの法則」として説明される場合もある。2割はよく食料を集めてくる優れた働きもののアリ。6割は平凡な働き方のアリ。2割はサボってばかりの働かないアリ。

これは、どのアリの集団でも同じ比率で生じる現象で、たとえ2割の働かないアリを取り除いても、再び「2-6-2」の割合に戻り、2割のアリがサボり始めるというもの。

たとえ優秀な人材だけを集めても、その中ですら2-6-2の法則が生まれてしまう。ならば、現在の組織で下位2割のできない人材を働かせようと躍起になっても、徒労に終わってしまう。1割程度の働かないおじさんの存在は致し方ないということになる。任せてもできない人材は諦めるしかないという常識が立派に成り立つわけだ。

しかし、私は自身のマネジメント経験から異なる意見を持っている。一見仕事ができないと思われるメンバーでも、当事者になれる働く場が用意されて、やる気を奮い立たせれば、期待される成果を十分に達成できる可能性があると確信している。