いつも何かしらに悩み不安を抱えている人と、いつも明るく楽観的でいられる人の違いはどこにあるのでしょうか? 精神科医の和田秀樹さんは、両者の差は行動パターンの違いから生まれると語ります。本稿では、「悩みグセ」を解消するポイントを紹介します。

※本稿は、和田秀樹著『感情的にならない本』(PHP文庫)より、一部を抜粋・編集したものです。


「わたしってバカみたい」と気がつくとき

週末に友人と久しぶりに会う約束をした女性がいます。学生時代からの仲よしですからワクワクしているのですが、ちょうど大きな台風が近づいていたのが心配でした。

「買ったばかりのスーツを着てみたいけど、雨に濡らしたくないなあ」
「帰りの電車が動かなくなったらイヤだなあ」
「タクシーだって拾えないだろうし」

あれこれ考えると、楽しみなはずの待ち合わせがだんだん億劫になってきます。「台風さえ来なければいいのに」と、この女性は考えます。

「きっと彼女も迷っているだろうな。でも、誘ったのはわたしなんだからいまさらキャンセルできないし」
「でも彼女にも予定があるだろうから、キャンセルするなら早いほうがいいかな」
「だけど台風なんて気まぐれだから、キャンセルしたとたんに晴れたりするんだよなあ」

全然、答えが出ないのです。そこで、待ち合わせの相手に電話してみました。

「はい、○△です!」と元気な返事です。「土曜日、大丈夫かなあ。台風来るみたいなんだけど」というと、「知ってるよ」と朗らかな声です。「どうしようか?」と問いかけると「その日の様子で決めようよ」という返事。

この女性は拍子抜けすると同時に、「それもそうだね」と納得したそうです。電話をしたのは水曜日の夜。3日後の正確な天気、まして台風の動きなんてわかりっこないと気がついたからです。

そしてふと考えたそうです。

「わたしってバカみたいだ。彼女はなんにも気にしないで元気にやっていたのに、わたしは考えても始まらないことでクヨクヨしてたんだ」


「頭の中の不安」はいまのあなたと無関係!

あれこれ考え込むクセのある人は、自分の悩みや不安が「いまいちばん大きな問題」と受け止めます。この女性のように、楽しみな予定が台風とぶつかることを心配し始めると、「どうすればいいんだろう」と頭の中はそのことだけで占められてしまうのです。

「だっていろんな可能性があるから、考えても答えが出てこない」「考えても答えが出ないから、もっと考える」というのが悩みグセのある人の典型的なパターンです。

でも、「だから考えない」という方法もあるのです。そのことになかなか気がつかないのです。どうしてかというと、その人の中で「いまいちばん大きな問題」になってしまっているからです。

ところが、「そのとき決めようよ」と答える人は違います。こういう人は、「考えても答えが出ないから、考えない」というタイプです。

そして大事なのは、こういうタイプの人にとって「いまいちばん大きな問題」は目の前の仕事や作業だということです。自宅にいるときでしたら、「DVDはなにを観ようか」、「料理はなにをつくろうか」、「明日はどの服を着て行こうか」といったことです。

だから気に入ったDVDがなければレンタルショップに出かけます。献立を考えるために冷蔵庫の中身を点検したり、買い物に出かけたりします。衣装ケースを調べて明日のファッションを決めます。職場の仕事や作業は優先順位に従って一つずつ片づけていきます。少しもヒマじゃないのです。

つまり、動いたり考えたりすることで、答えが出ること、あるいは結果が出ることから片づけていきます。それが、いまの自分にとって優先しなければいけないことで、考えても答えの出ないことは、いまの自分にとって関係のないことだと知っているのです。


内向きになると「イヤな感情」から抜け出せない

自分の感情を明るく保つ技術といっても、とくべつなことではありません。

イヤな感情は放っておけばいいのです。

放っておくためには、べつのものに関心を向けることです。そのとき、まずこころがけてほしいのは「自分の気持ちと向き合わない」ということです。そんなものと向き合ってもイヤな感情が居座るだけです。

感情を明るく保っている人は、いつも外を向いています。散歩に出れば街角の様子や季節の移り変わり、人と会えばその人とのおしゃべり、美味しいものを食べているときはひたすら美味しい料理だけを見つめたり楽しんだりできるのです。

でも、それができるということは、気持ちがいつも外向きになっているからですね。

外出する、人と会う、美味しいものを食べるといった行動は、気持ちが外向きだから可能になります。内側を向いてしまったら、外にも出かけず人とも会わず、美味しいものを食べたいと思うこともないからです。

すると、「イヤな感情探し」を無意識にやってしまいます。心配なことや不安なこと、思い出したくないことをわざわざ「探し」てしまうのです。あるいはなんでもないことでも悪い結果を予想したり、それまでは気にしていなかったことまで気にするようになってきます。

たとえば金曜日に答えの出なかった仕事があったとします。週明けの相手の都合次第、状況次第で返事はどっちに転ぶかわかりません。美味しいものを食べているときはひたすら美味しい料理だけを見つめたり楽しんだりできるのです。