ペットを家族に迎える人は年々増えているといいます。仕事や学校から帰宅したときに嬉しそうに駆け寄ってくる愛犬、寒い冬に布団に入ってくる愛猫の存在に、毎日癒しを感じながら生活する人も少なくないのではないでしょうか。

実際にどのような癒し効果があるのか、国内外の研究結果を踏まえて愛玩動物飼養管理士の羽鳥友里恵さんが解説します。


ペットが人間に与える様々な効果

現在10人に1人はアトピー性皮膚炎を患っているといわれています。遺伝、皮膚バリアの障害、アレルギー反応、その他環境要因など様々な理由からアトピー性皮膚炎を引き起こす可能性があります。実際のケースをご紹介します。

30代男性のHさんは、娘の「オオカミと暮らしたい」という夢をかなえるため、ハスキーを家族に迎えました。実は娘はアトピー性皮膚炎で悩んでおり、顔や手足など見えるところに症状を発症していました。そんな娘と家族が少しでも笑顔になって欲しいという想いで、犬を家族に迎える決断したとのこと。

まるで親友のように仲良くなった娘とハスキー。少しすると娘のアトピー症状が緩和されていく様子に気がつきました。

Hさんは「アトピーは免疫細胞と大きく関係があるため、ペットと過ごすことで免疫が高まり、症状の緩和が見られたのではないかと思います。ペットが与える"癒しの力"で娘に笑顔が戻ったことは本当に喜ばしいです」と語りました。

実際に"ペットと触れ合うことで免疫を向上させる"根拠はいくつかの研究から示唆されています。一部の研究では、幼少期にペット(特に犬や猫)を飼うことが、アレルギー疾患の発症リスクを低減させる可能性があるとされています。

この現象は「ハイジーン仮説」(※1)と呼ばれ、ペットを飼うことが免疫系の正常な発達を助け、アレルギー反応を抑制する可能性があると言われています。

さらに、ペットが人間に与える癒し効果は多岐にわたります。

癒し効果①ストレス軽減
ペットと過ごす時間は、ストレスホルモンであるコルチゾールの減少につながります。ペットと触れ合うことで、リラクゼーション効果や安心感をもたらし、日常のストレスを軽減する助けになります。

癒し効果②心身の健康向上
ペットとの散歩や運動は、運動不足の問題を解決し、心臓の健康や体重管理に役立ちます。また、心理的な面でも幸福感を高め、うつ病や孤独感の軽減に寄与することがあります。

癒し効果③社会的なつながり強化
ペットを飼うことで、散歩中に他の飼い主との交流や、共通の話題を持つことが容易になります。新しいコミュニティーへの参加、新しい社会との関わりが作りやすくなります。

癒し効果④孤独感の軽減
一人暮らしの人や高齢者にとって、ペットは孤独感を軽減する心の支えとなります。ペットは常に一緒にいてくれる存在であり、愛情と忠誠心を提供してくれます。

東京都福祉健康局の東京都における犬及び猫の飼育実態調査によると、単独世帯(一人暮らし)または夫婦のみ世帯といった同居する子供のいない世帯が全体の 48.3%と(=約5割))であることを発表しました。

ペットの飼育理由として最も多いのは「生活に癒し・安らぎが欲しかったから(32%)」(※2)で、人々の中でペットの存在に癒し効果があるとの認識が強いことがわかります。

※1:1980年代後半イギリスのStrachan博士が提唱。
※2:2022年 全国犬猫飼育実態調査参照


ペットが与えるメンタルヘルス効果とは

昨今、若年層の「うつ病」や、高齢者の孤独死などの問題が深刻になっています。犬や猫などの愛玩動物の存在(※3)が与える「癒し」の力を活用することで、これらの問題を改善できるのではないでしょうか。

海外では、動物とのふれあいを通して、身体的、心理的、または社会的な健康の向上を促す「アニマルセラピー」という治療的なアプローチを導入しています。

特に精神的な健康問題(自閉症スペクトラム障害(ASD)、認知症、うつ病、不安症状、心的外傷後ストレス障害(PTSD)など)や日常的ストレス、リハビリテーション、社交性の向上などに対して効果があるとされています。

セラピー犬は患者に対して無条件の愛情と信頼を提供してくれます。言葉が通じないからこそ、人々を受け入れてくれる存在となるのです。これにより、患者は安心感を得て、感情面で支えを得ることができます。

また、動物のお世話を通じて責任感や自己効力感を向上も見込めるため、ペットと共存する社会はメンタルヘルスの改善にも繋がると言えるでしょう。

※3:飼育状況の有無に関わらず


「ペットと触れ合うこと」で幸福度が向上

さらにペットの癒し効果に関する科学的根拠ろ、2つの事例をもとに解説します。

①動物と触れあうことで人のストレスホルモンが軽減される(ワシントン州立大学 人間発達学准教授 パトリシア・ペンドリー氏)

研究の内容は、ランダムに抽出された249人の学生を4つのグループに分け、唾液中に含まれるストレスホルモン「コルチゾール」(※4)というホルモンの量を測定し、学生のストレスを定量的に測定しました。

Aグループは10分間、犬や猫といった動物たちと実際に触れ合いました。Bグループには別の学生たちが動物たちと遊ぶ様子を10分間見てもらい、Cグループはスライドショーで動物の画像を10分間見ます。Dグループは「もうすぐ動物たちと会えます」とだけ告げられ、実際に動物と触れ合ったり画像を見ることもなく10分間待機してもらうという実験です。

開始前、実験の10分後、25分後の唾液を採取し、コルチゾールレベルの変化を比較しました。その結果、Aグループのコルチゾールレベルの減少が最も高いことが分かりました。つまり、実際に動物に触れることで、ストレスホルモンが軽減されたということです。

②犬と見つめ合うことで幸せホルモンが分泌される(麻布大学)

実験では、一般家庭犬とその飼い主30組がそれぞれ30分間交流することで、交流の前後に飼い主と犬の尿を採取し、尿内のオキシトシンの濃度が上昇するかの計測を行いました。その結果、飼い主をよく見る犬とその飼い主のオキシトシン濃度の上昇がみられましたが、飼い主をあまり見ない犬とその飼い主は濃度の変化が見られないという結果となりました。

この実験から、犬の飼い主にむけた視線はアタッチメント(愛着)行動として、飼い主のオキシトシン(幸せホルモン)の分泌を促進するとともに、それによって促進した相互のやりとりは犬のオキシトシン分泌も促進することが分かりました。

つまり、ペットと見つめ合うだけで、幸せホルモンの分泌に繋がり、ストレスホルモンのコルチゾールの分泌を抑制する効果が認められたということです。
参照:ヒトとイヌの絆形成に視線とオキシトシンが関与
https://www.azabu-u.ac.jp/files/150417_press.pdf

このようにペットの存在が人間の生物的に与えるポジティブな影響があることがわかりました。健康経営や従業員のQOLを考える企業が動物がもたらす力を理解し、ペットに関する福利厚生を取り入れていくことはできないかなど、これからのペットと人の共存社会がどうあるべきなのかを考えていくことも大切です。

もちろん、ペットを家族に迎えることは責任が伴います。ペットの世話や日々の健康ケア、病気や怪我に対する費用、適切な教育と社会化などが重要です。ペットを家族に迎える前に、ライフスタイルや経済的物理的に共生できるかどうかを考慮する必要があります。

そうすることでペットとの良好な関係を構築し、お互いに健康で心豊かな生活を楽しむことができるのではないでしょうか。

※4:コルチゾールとは、ストレスによって放出される成分となり、ストレスレベルを測定する客観的な指標です。


【羽鳥友里恵】
愛玩動物飼養管理士・ペット防災危機管理士。博報堂での広告営業の仕事を経て、 2021年7月に「日本をペットフレンドリーな社会へとアップデートする」ことを ビジョンとして掲げた株式会社PETSPOTを創業。 ペットを飼っている人と飼っていない人が共存できる社会環境/意識向上に取り組む事業を展開。
また株式会社SARABiO温泉微生物研究所(https://www.saravio.jp/)にて、 ペットライフスタイルブランド「Docpal」や「BESTIES」をプロデュースし、 2022年4月同社の最高動物福祉責任者(CAO=チーフ・アニマルウェルフェア・オフィサー)に就任。