「3匹の子ブタ」のオオカミは悪者なのか? そんな「ちょっとちがう視点」で名作童話を読み解く児童書『10歳からの 考える力が育つ20の物語』が6万部のヒットを記録しています。多くの子どもたちやその親に読まれている背景には、「いろんな角度から物事を見る」というニーズがあるのではないでしょうか。

このたび続編の『10歳からの もっと考える力が育つ20の物語』(矢部太郎・絵/アスコム刊)を上梓した著者で放送作家の石原健次さんに、自身の子育て経験をふまえた「子どもにとって本当に必要な『考える力』」についてお聞きしました。

石原健次(放送作家)
1969年生まれ。兵庫県神戸市出身。『行列のできる相談所』、『ダウンタウンvsZ世代』(ともに日本テレビ)、『SMAP×SMAP』(フジテレビ)、『Ⅿ-1グランプリ』(朝日放送テレビ)などの構成に参加。また、『0号室の客』(フジテレビ)、『クロサワ映画』などでドラマや映画の脚本を担当。本書の第一弾『10歳からの 考える力が育つ20の物語』が初の著書となる。


「正義の反対は相手の正義」

――放送作家である石原さんが、なぜ「童話を別の視点で読み解く」というテーマで児童書を書こうと思ったのですか?

ある時、昔からお付き合いのある極楽とんぼの加藤浩次さんに、「朝の情報番組で難しいことは何ですか?」とお聞きしたんです。すると加藤さんは、何かニュースを伝えるときに、いろんな人の立場になって話すことが難しいと答えました。

そして、すべてのケースに当てはまるわけではないけれど、「正義の反対は相手の正義」なのだと言ったのです。それこそ、今の時代に必要な考え方ですよね。その言葉をどうにかしてみんなに伝えたい、そんな思いがきっかけとなりました。

――童話を題材にしたのは、みんなが知っているものだから?

それもありますし、童話って今の感覚で読むと、一方的なことがありませんか? わかりやすい悪が出てきて、大抵はこらしめられる。でも、現実はそこまで単純ではないことが多い。

ニュースにしても、最初の報道で「ひどいやつだなぁ」と思っても、続報が出ると「いや、じつはそうでもないかも?」と善悪がどんどん入れ替わったりしますし。ひとつの考え方にとらわれず、「いろんな角度から物事を見る」力を育てるために、童話は題材としてぴったりだと考えたんです。

――「童話探偵」という設定もユニークです。

子どもは飽きっぽいですから、とにかく面白くないと絶対に読んでくれません。探偵という職業自体が子どものあこがれですし、ストーリーやキャラクターなどで、読み進めてもらえる工夫を随所に凝らしました。

――この本を読んで、お子さんはどんな感想を仰っていましたか?

第一作目では「3匹の子ブタ」に対して、「オオカミが子ブタを襲ったのは、自分が生きるために必要なことだった」という読み解きをしました。「ひょっとしたら、群れにお腹を空かせた子どもを残していたのかもしれない」「子ブタからすれば恐ろしいオオカミだって、生きるために必死だった。

それは、我々人間が生きるために他の動物を食べるのと同じことなんだ」、と。そしたら子どもが、「でも、食べられちゃうのはやっぱりやだな」と言ったんですよね。

――オオカミの立場を理解したうえで、それでも食べられたくないと。

そう。それでいいと思うんです。大切なのは、オオカミにもオオカミの正義があること。そして、自分の身を守るためにオオカミを撃退した子ブタにもまた、子ブタの正義があったこと。相手を一方的に悪と決めつけるのではなく、互いに正義があることを理解することだと思うんです。それが、相手の立場を理解することにつながると思うんですよね。

――それはまさに、多様性の時代に欠かせない考え方だと思います。

一方的に相手を悪だと決めつけたら、絶対に許せなくなりますよね。でも、なぜそれをしたのか、という背景を想像することができれば、歩み寄りの余地があるかもしれない。「あいつはあいつで、理由があったんだな」と。