我が子を逆境に負けない子にするためには、幼いころからの言葉がけが重要です。「幸福に生きるための脳」を育てるコツを、医師の成田奈緒子さんが解説します。

※本稿は、成田奈緒子著『子育てを変えれば脳が変わる 』(PHP研究所)から、一部抜粋・編集したものです。


こころの脳は、幸福に生きるための脳

5歳までは、早寝早起きと食事を通して、からだの脳(姿勢の維持・睡眠・食欲・呼吸・情動・性欲などを司る脳)をしっかりつくる。

10歳までは、親も楽しみながら知識を吸収させ、おりこうさんの脳(知能・言語・知覚・情感・微細運動などを司る脳)をつくる。

その後―10歳ごろから、こころの脳の成長が始まります。

こころの脳のベースとなるのは、おりこうさんの脳に入っている知識や記憶。これらの十分な蓄積が、こころの脳の発達を促します。

こころの脳は18歳ごろまで成長し続けますが、中核期は10〜14歳。小学校高学年から、中学生にかけて急激に成長します。

では、ここで改めて、こころの脳の機能をおさらいしましょう。

こころの脳の位置は前頭葉および、からだの脳から伸びている神経回路。なかでも重要なのが、序章でお話しした「セロトニン神経」です。セロトニン神経が前頭葉まで「つながる」ことで、物事を良い方向に持っていく力が備わります。

こころの脳の働きによって、感情をコントロールして、状況を適切に見極め、最適な行動を取ることができるようになります。

たとえば幼い間は、「情動」のみに従って行動しますが、こころの脳が育ってくると前頭葉をつかって「情感」を働かせ、突発的な衝動や感情を抑えられるようになります。

次いで、論理的思考力。「一人で留守番しているときに停電になった」などの場面で、情動レベルでは「怖い」と感じても、「いや、ひとまずスマホのライトをつけよう。ブレーカーを見つけてスイッチを入れたら、また電気がつくかも」といった冷静なシミュレーションができます。

そして、想像力や思いやり。困っている人を助けたり、友人たちの意見をとりまとめたり、「両親が帰ってくる前にお風呂を沸かしておこう」と気を利かせたりすることもできるようになります。

さらには、逆境にあっても心折れずに前を向ける「レジリエンス」の力も。「考えようによっては悪い状況ではない」といった視点転換や、「こうしたら解決するかも」といったアイデア創出ができます。

このように、こころの脳は、不安を取り除いたり、問題解決をしたり、他者とのつながりを築いたりするときに働きます。つまるところ、本人を「幸福な生き方」に導く脳だと言えるでしょう。