Maki Shiraki Anton Bridge Kentaro Sugiyama

[東京 13日 ロイター] - 2024年の春季労使交渉(春闘)は13日、大手企業の多くが労働組合の要求に回答する集中回答日を迎えた。満額回答が相次ぎ、けん引役のトヨタ自動車は比較可能な1999年以降で最高水準となった。企業全体の最終的な賃上げ率は、4%を上回るとの見方が出ている。

<大企業はほぼ満額回答、「賃上げモメンタム維持」>

今年の春闘は、ホンダなどが13日を待たず早期に満額で回答、スズキが要求を超える10%以上を回答するなど昨年以上に賃上げ機運が高まっている。物価高で実質賃金のマイナスが続く中、前年水準をどこまで上回り、中小や非正規にも波及し経済の好循環につなげられるかが焦点となる。15日には連合が1次集計結果を発表し、全雇用者の約7割を占める中小企業の多くで交渉が本格化する。

トヨタの満額回答は4年連続。定期昇給分とベースアップ(ベア)に相当する賃金改善分を含む総額で1人当たり月7940円―2万8440円増額し、年間一時金(賞与)は7.6カ月分とした。同社の東崇徳総務・人事本部長は「物価上昇の影響をしっかりカバーし、その影響の大きい家族世帯は家族手当(の引き上げ)でサポートする。若手には処遇水準も見直していく」と述べた。同社の回答が関係先企業にも波及すると良いとの思いも語った。

日産自動車やジーエス・ユアサコーポレーションなども満額回答となった。

日本製鉄は組合要求の月3万円に対し、3万5000円で回答。増額率は11.8%。定期昇給なども含めるとプラス14.2%になる。防衛予算の増額で業績が好調な三菱重工業も満額回答。賃金改善は05年以降で過去最高の水準となり、一時金と合わせた年収増率は約8.3%と前年の約7.0%を上回った。

日立製作所やパナソニックホールディングスなど電機大手も、前年要求を6000円上回る1万3000円の満額で決着。日立は現在の要求方式となった1998年以降最大で11年連続となる。田中憲一執行役常務は会見で「賃上げのモメンタム(勢い)を維持できた」とし、「労働生産性を引き上げて収益性を高め、賃金で配分するということを続けていきたい」と述べた。

日本総研の山田久客員研究員は、最終的な賃上げ率は4%を上回る可能性があり、「4.2%から4.3%になってもおかしくはない」とみている。第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏も「最終的に、昨年を上回る4%超の賃上げ率を実現できる」と見込んでいる。

林芳正官房長官はこの日午前の会見で、「力強い賃上げの動きが中小企業に広がっていくことが重要」との認識を示し、夕方に行う政労使の意見交換で「賃上げの実現に向け、官民の連携を高めていきたい」と語った。

<中小のコスト転嫁>

連合が7日に公表した今年の春闘の要求集計(4日時点)によると、「平均賃金方式」で賃金引き上げを要求した傘下の3102組合の賃上げ率は加重平均で5.85%で、前年の要求集計の4.49%を上回った。1994年春闘の最終回答集計(5.40%)以来、30年ぶりに5%を超えた。

前年の賃上げ率は集中回答日から2日後に発表した1次集計が3.80%。7月に発表した最終集計は3.58%で、比較可能な2013年以降で最も高かった。

一方、厚生労働省のデータによれば、物価上昇分を除いた実質賃金は今年1月まで22カ月マイナスが続いている。特に中小・零細企業はコスト転嫁が思うように進まず、十分に賃上げができないところも少なくない。連合の最終集計によると、前年の春闘は従業員300人以上の企業が3.64%だったのに対し、300人未満の企業は3.23%だった。

日産の内田誠社長は会見で、従業員の貢献や物価上昇下での生活への影響など「総合的に判断して満額回答に至った」と述べる一方、公正取引委員会から下請法違反の勧告を受けたことについて陳謝した。一度決めた支払い代金から「割戻金」の名目で減額を強いてきた仕入先の厳しい状況は承知しているとした上で、今回の労使交渉とは「少し考え方を分けて進めている」という。

仕入先に対しては今後、販売台数の下方修正に伴う負担増の軽減、労務費の価格転嫁受け入れなどを視野に、信頼関係の再構築に向けて「真摯に対応していく」と語った。

デフレからの脱却を目指してきた政府は、賃上げが消費を促して再び賃金を押し上げる「経済の好循環」につなげたい考え。岸田政権は、所得減税などによって今夏には国民所得の伸びが物価上昇を上回る状態を目指している。金融政策の正常化を視野に入れる日銀も、今年の春闘を重要な判断材料にする意向を示している。

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