阪神が6日、神宮球場で行われたヤクルト戦に4−3で逆転勝ち、連勝で今季初のカード勝ち越しを決めて勝率を5割に戻した。ヒーローは2−2で迎えた7回に決勝2ランを放った佐藤輝明(25)だ。2試合連続の勝ち越し本塁打。佐藤に何が起きているのか。岡田彰布監督(66)が語っていた佐藤評とは?

 「もっとちょっと飛ぶかなと思っていたがギリギリ」

 2試合連続で敵地のヒーローインタビューに指名されたのは佐藤だった。
「最高です」の決まり文句の後に「もうちょっと飛ぶかなと思ったんですけど、ギリギリでした」と苦笑いした。
2−2で迎えた7回だった。この回、5番で先発出場した前川が5、6回と立ち直りを見せていたヤクルト先発の吉村からセンター前ヒットで出塁した。フルカウントから誘いのフォークを見極めた後のストレート。20歳の左打者が見せた非凡なバッティングを目の前で見、佐藤にも思うところがあったのかもしれない。
初球の真ん中低めにストレートを引っ張った。花冷えの神宮の上空に舞い上がった打球は、右中間スタンドの最前列に飛ぶ込む決勝の2号2ランとなった。
前日も延長10回に右中間に今季1号の決勝ホームランを放り込んでいる。打率は1割台。チャンスでのタメ意気が出るような凡退も目立つが、そのバットで2勝を引き寄せたのだから最高のチーム貢献である。
岡田監督はキャンプ、オープン戦を通じてほぼ佐藤について語っていない。
正確に言うと「語れなかった」と言った方がいい。岡田監督は、佐藤が昨年のハワイの優勝旅行を途中で切り上げて米シアトルの動作解析などを行うトレーニング施設「ドライブライン」に向かったことの報告を受けなかった。コーチ陣も含めてドジャースの大谷翔平も通っていることで知られるドライブラインで、何をどう修正してきたかの詳細な説明を受けていなかったため、指導しようにも、何もできなかったというのが、その理由だ。
だが、佐藤はグリップの位置を下げ、テイクバックの浅いフォームに修正してきた。実は、これは、岡田監督が一昨年の監督就任時に佐藤に求めたのと同じ打撃改造だった。岡田監督は「グリップの高い打者に名打者がおるか?」が持論。さらにテイクバックをあまり深くすると、内角攻めに対抗できないとの苦言を呈していた。佐藤の新打撃フォームは、ドライブライン経由で、その岡田理論に回帰したわけである。
ほとんどテイクバックを取らない佐藤のメジャー流の新打撃フォームにはメリットとデメリットがある。
「意外と相手バッテリーは内角を攻めにくくなるかもしれんぞ」
佐藤のウィークポイントは内角、高めのゾーンを球威のあるストレートで攻め込まれること。これまで岡田監督は「インハイを振るな」などのワンポイントアドバイスで佐藤の意識を改革し、その弱点への対応を手助けしてきた。岡田監督は、今回の新フォームには、その弱点を克服する可能性があると踏んでいたのだ。

 だが、打席の中での対応が必要でボール球を振ってカウント負けしてしまうと墓穴を掘る。実際、開幕カードの巨人戦では、キャッチャーが中腰になって、これまでと同じ弱点を攻めていた。岡田監督は、今季の打線のキーマンは、ポテンシャルが無限大の佐藤だと考えており、開幕前には、筆者に指揮官らしい独特の表現で、その可能性をこう表現していた。
「むちゃくちゃ打つか、ただの人で終わるか。どっちかやな」
まだ打撃内容は決してよくない。
タイミングの合わないスイングが多く狙い球も定まっていない。岡田監督は4日の横浜DeNA戦から佐藤を5番から6番に下げた。まだ5番に再昇格させる手応えはなく「ただの人で終わる」の危惧も残る。それを「いい状態だと思う」と佐藤が言っているのは、不思議ではあるが、一方で、2試合連続の決勝本塁打に「むちゃくちゃ打つか」の予兆が少し出てきていることも確かである。
2日の横浜DeNA戦では、タイムリーエラーで先発の村上の足を引っ張ったが、6番に降格した4日の第3戦では、三塁、本塁への積極的な走塁を見せて岡田監督がダブルリクエストを成功させた。戦う姿勢を見せていることを何より首脳陣は評価している。
ヤクルトの2試合ではブルペンの質と層の違いがもろに勝敗に直結した。岩崎ーゲラ、あるいはゲラー岩崎の8、9回の勝利方程式にも見通しが立った。だが、打線に得点力がなければブルペン勝負もできない。
岡田監督は神宮に来てから報道陣への試合後の対応をしていないそうだが、先発の完成度、6回、7回のリリーフ陣の整備、打線のつながり、もう1本欲しいタイムリーなどを含め「チーム状態はまだまだ。今は5割キープでいい」というのが本音だろう。
だが、2試合連続の決勝アーチで勢いに乗る佐藤の手応えは違っていた。
「(チーム状態は)だんだん上がってきたんじゃないかなと思います」と言い、「明日も勝ちます。応援よろしくお願いします」と神宮のレフトスタンドを埋めたファンに約束した。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)