鳥栖市・ふるさと再発見編

 県内の中高生が地域の現状や課題を学び、将来こうなってほしいという未来計画を描く「さが未来発見塾」。3月と4月は鳥栖市編を紹介します。塾生として活動するのは、鳥栖高校、鳥栖工業高校、鳥栖商業高校の1、2年生計13人。今なお人口増加を続ける九州の交通の要衝で、今年市制70周年の節目を迎えた鳥栖市の魅力を発見してもらいます。

地元学講座Ⅰ 佐賀新聞 鳥栖支社樋渡 光憲記者

時代を先取りするアイデアを

 鳥栖市の課題として、皆さんから通学路の話が出ました。「朝危ない」「凸凹が多い」「街路樹が邪魔になる」。これらは、車を運転する大人は気がつきません。これからの時代はお年寄りが増えるし、障害がある方への配慮も必要です。皆さんが声を上げることによって、助かる人が出てきます。自分たちが問題だと思ったことは投げかけることが大切です。

 鳥栖市は今でも人口が増えている大変珍しいまちです。子どもの割合も他の市町より高いですが、子育て中のお母さんからは「公園が少ない」「給食費が完全無償化されていない」など、「子育てで得することが少ない」という声をよく聞きます。鳥栖市は転入と転出が多いので、子育てに魅力的なまちになれば、例えば夫が転勤になっても、家族は鳥栖にとどまりたいとなるのではないでしょうか。

 鳥栖は便利でどこにでも行けるし、いろんな所から来やすい一方、渋滞という不便さもあります。線路がまちを東西に分断していることは、何十年も前から問題になっています。皆さんがアイデアを出す上で大切なのは、世の中の流れを把握し、先取りすることです。これまでの鳥栖は福岡に近く、車社会で高速道路があるから発展しました。今はドローンやAIの時代で、これからは空飛ぶ車だって可能になるかもしれません。今後どんな時代になるのかイメージを頭の片隅に置いておくと、いいアイデアが生まれると思います。

 人を生かすことも大事です。鳥栖に来ている外国の方はいっぱい勉強しているので、いずれはとてもお金持ちになるかもしれません。サガン鳥栖や久光スプリングスがあり、スポーツ選手もいっぱいいます。そんな人たちを生かすアイデアも考えてみてください。

地元学講座Ⅱ 基里OKファーム代表取締役上種 正博さん

農業でも鳥栖の物流は武器に

 昔、「農業3K」という言葉がありました。「きつい、汚い、稼げない」です。私はその言葉が嫌いです。日本の食料は農業が担っています。食料がなければ生きていけません。コロナやウクライナ情勢に食料が振り回されていますが、若い人たちには何が大事なのか考えてもらいたいと思います。昔の3Kを少しでも払拭し、農業を「おもしろく、かっこよく」「大きく、稼げる」ようにしていきたいと思っています。

 私の会社は設立して10年がたちました。稼げる農業にするため、自分たちで愛情込めてつくった野菜を自分たちで販売しています。キャベツは主にコンビニのカット野菜になり、タマネギも加工用になっています。うちの経営は値段を先に決める契約栽培です。モノが多い方が交渉で有利に働くので、キャベツならキャベツをつくる仲間を増やし、ロットを増やす協力体制を整えています。

 鳥栖は物流の拠点です。農業でも物流という鳥栖の魅力を武器にしない手はありません。うちには、福岡からキャベツを持ってきてくれる人や、本場の鹿児島からサツマイモを持ってきてくれる人がいます。足りないものは九州圏内から集めて仕入れ販売し、最終的には自社のカット工場や加工品をつくりたいと検討しています。

 私はもともと非農家です。就職氷河期の中、県農業大学校で勉強し、JAに入りました。農業が抱える問題を地域から解決しようと、後継者不足の基里地区で担い手になりました。田んぼも機械もお金もない、ないないづくしのスタートでしたが、10年目に売り上げ1億円を達成できました。稼げる農業、おもしろい農業を展開して地域に信頼される企業になり、農業をやりたい若い人が増えることが目標です。

ワークショップ

 ワークショップでは、鳥栖市の行政データや最近の新聞記事などを参考に、地域の魅力と課題を出し合いました。縦軸を「魅力」と「課題」、横軸を「自分ごと(自分たちに身近なもの)」と「ひとごと(身近でないもの)」で配置し、鳥栖市の現状を可視化しました(左図=主な意見を抜粋)。

 魅力としては、交通の便がいい、働く場が多い、病院や小学校が多いなど、生活環境の良さを挙げる声が多く聞かれました。サガン鳥栖や久光スプリングスをはじめ、全国レベルで活躍する高校の部活動もあり、スポーツが盛んなことを魅力に挙げる意見も目立ちました。

 一方の課題でも、「渋滞が多い」「歩道が狭い」「ミラーが少ない」など交通に関するものが多く挙がりました。図書館が少ない、学習スペースがないといった学生ならではの声もありました。

 こうした魅力や課題を踏まえて取材に臨み、未来計画に生かしていく方針を確認しました。

画像を拡大 鳥栖市の課題と魅力を書いた付箋を貼り付ける塾生=鳥栖市役所 取材

スポーツを生かしたまちづくりを

 まちづくりの現場に出向いて話を聞く「取材活動」では、鳥栖市に本拠地を置く二つのプロチームの拠点で、スポーツを生かしたまちづくりなどを学びました。

 バレーボール女子のV1・久光スプリングスの練習拠点・サロンパスアリーナでは、管理課長の大上光男さんの案内で、クラブの歴史や選手紹介のパネル、トレーニングルーム、メインアリーナなどを見学しました。一般利用できるトレーニングルームは、身長や体重など個人に合わせたトレーニングプログラムをAIが作成してくれること、衝撃吸収に優れた床材が敷かれたアリーナは、災害時に避難所として開放されることの説明を受けました。大上さんは、今季のサガン鳥栖の新体制発表会をアリーナで開いたことも紹介し、「サガン鳥栖と連携してスポーツの魅力を発信したい」と話しました。

 サッカー・J1サガン鳥栖の本拠地・駅前不動産スタジアムでは、看板選手として長年活躍した高橋義希さんから話を聞きました。高橋さんは現役引退後、スポーツ分野にとどまらず、学校訪問やあいさつ運動など地域とクラブの橋渡し役を務めています。高橋さんは「佐賀県にサガン鳥栖があって良かったと思えるように活動している」と強調し、人の温かさや子育てのしやすさが鳥栖市の魅力と語りました。

トレーニングルームを見学する生徒たち=鳥栖市のサロンパスアリーナ サガン鳥栖SROの高橋義希さんから話を聞く生徒たち=鳥栖市の駅前不動産スタジアム 塾生メンバー(敬称略) 【鳥栖高校】 鷲尾 賢人 里﨑 千桜 德安 珊瑚 石橋 美空 緒方 月菜 【鳥栖工業高校】 佐藤 冬真 松﨑 由起 隠塚 絆 堀田 真子 【鳥栖商業高校】 鶴野 穂香 藤井 真心 織田 小暖 坂本 優奈