これまで全国のデザインマンホール蓋をスルーしてきた、という話を以前書いた。そのことを私は深く反省し、以降外出するたびにマンホールを撮影し、マンホールカードを集めるように心がけるようになった。ようやく20枚ほど集まってホクホクしている一方で、新しいマンホールカードは次々と発行され、今や第19弾・941種まで増加している(2023年4月28日現在)。集めるスピードは全く追いつかない。 ところで下を向いて歩いているうち、マンホールとは異なる存在が目に入るようになった。それが消火栓蓋である。消火栓とは、火災の時に消火活動に用いる水を供給する設備であり、地下に設置されているものには鉄蓋が被せられている。この鉄蓋がマンホール蓋と同じような作りになっているため、一括りに「マンホール」と呼んでしまうのであるが、消火栓はマンホールのように作業員が出入りできるわけではない。 ところがこの消火栓蓋も最近、マンホール蓋と同様にさまざまなデザインが施されてきているのである。今回はこの消火栓蓋に焦点を当てていきたい。

消火栓蓋の傾向とは

まず形について。マンホール蓋はほぼ全てが丸型なのに対し、消火栓蓋は四角型と丸型とがある。おおむねどの自治体においても、設置年が古いものは四角型、新しいものは丸型となっているようだ。レトロなデザインの消火栓蓋を見たければ、四角型を中心に探すとよいだろう。

シンプルな文字と市章のみの消火栓蓋。レトロな雰囲気が漂う(所沢)。
シンプルな文字と市章のみの消火栓蓋。レトロな雰囲気が漂う(所沢)。

四角型であっても、花の模様が施されたものやキャラクターがデザインされた新しめの蓋も発見できるので、丸型との違いを比較してみたい。

「ハーモナイズドマーク」と名づけられた戸田市のロゴと、市の花であるサクラソウがあしらわれている。「ハーモナイズドマーク」の制定が平成5年なので、それ以降の設置ということか(戸田)。
「ハーモナイズドマーク」と名づけられた戸田市のロゴと、市の花であるサクラソウがあしらわれている。「ハーモナイズドマーク」の制定が平成5年なので、それ以降の設置ということか(戸田)。
だいぶ古びてはいるが、絵柄は消防車と消防士のかわいらしいデザイン(所沢)。
だいぶ古びてはいるが、絵柄は消防車と消防士のかわいらしいデザイン(所沢)。
調布市の花はサルスベリなので、なぜハナミズキがデザインされているのかは不明(調布)。
調布市の花はサルスベリなので、なぜハナミズキがデザインされているのかは不明(調布)。
同じデザインの丸蓋もある(吉祥寺)。
同じデザインの丸蓋もある(吉祥寺)。

丸型の消火栓蓋は、より一層バリエーションが豊かである。昔ながらのデザインのものもあれば、

神奈川県の木(イチョウ)、花(ヤマユリ)、鳥(カモメ)があしらわれている(大山)。
神奈川県の木(イチョウ)、花(ヤマユリ)、鳥(カモメ)があしらわれている(大山)。
同じデザインの色なしバージョン(藤沢)。
同じデザインの色なしバージョン(藤沢)。
川崎市の花であるツツジと、木であるツバキがあしらわれている(川崎)。
川崎市の花であるツツジと、木であるツバキがあしらわれている(川崎)。

さいたま市のように大胆なサッカーボール柄をデザインしているものもある。

遠くからでもかなり目立つので、消火栓蓋にはうってつけなデザイン(浦和)。
遠くからでもかなり目立つので、消火栓蓋にはうってつけなデザイン(浦和)。

消火栓は目立たなくてはいけない

そもそも消火栓蓋は、火災の時に目印となるように、またその上に車などを駐車しないように、周囲の地面が黄色くペイントされていることが多い。最近では更に目立つようにという意図からか、蓋そのものが黄色などの派手な色で塗装されている。黄色い背景に描かれるモチーフとして、圧倒的に多いのが「消防車」である。特に左斜め方向の構図が各地で見られるが、

スタンダードな斜め消防車デザイン(渋川)。
スタンダードな斜め消防車デザイン(渋川)。
渋川のものとデザインは同じように見えるが、背景の水玉の数など、細かな違いがある(熱海)。
渋川のものとデザインは同じように見えるが、背景の水玉の数など、細かな違いがある(熱海)。
斜め消防車+輪っかの背景の組合せ(前橋)。
斜め消防車+輪っかの背景の組合せ(前橋)。
真横からの消防車。車種自体も古い型のようである(小田原)。
真横からの消防車。車種自体も古い型のようである(小田原)。
友人が撮影してくれた香取市の消防車蓋。背景の星マークがかっこいい(佐原)。
友人が撮影してくれた香取市の消防車蓋。背景の星マークがかっこいい(佐原)。
こちらは背景が三角。「毎日気持ちは節水曜日」という標語も入る(昭島)。
こちらは背景が三角。「毎日気持ちは節水曜日」という標語も入る(昭島)。
正面からのアングルの消防車を、ぐるりとハナミズキが囲む(調布)。
正面からのアングルの消防車を、ぐるりとハナミズキが囲む(調布)。
こちらもツツジに囲まれた消防車。花と消防車の組合せは意外にマッチする(館林)。
こちらもツツジに囲まれた消防車。花と消防車の組合せは意外にマッチする(館林)。

消防車単体ばかりではなく、キャラクターが描かれる場合もある。消防車とともに登場するので、必然的に描かれるのは消防士が多くなる。

こちらは消防水利の一つ、貯水槽蓋。真剣な表情で消火にあたる消防士がデザインされている(渋川)。
こちらは消防水利の一つ、貯水槽蓋。真剣な表情で消火にあたる消防士がデザインされている(渋川)。
かわいらしい表情の消防士(長野)。
かわいらしい表情の消防士(長野)。
先に挙げた四角蓋と同じデザイン。当初「ゴーストバスターズ…?」と思ったが、恐らく「消火栓蓋の上は駐車禁止だよ」という顔なのだ(吉祥寺)。
先に挙げた四角蓋と同じデザイン。当初「ゴーストバスターズ…?」と思ったが、恐らく「消火栓蓋の上は駐車禁止だよ」という顔なのだ(吉祥寺)。

一方所沢市の消火栓蓋は、市のキャラクター「トコろん」が消防車のホースを持ち消火にあたるデザインだ。

消火栓蓋には珍しいピンクの背景(所沢)。
消火栓蓋には珍しいピンクの背景(所沢)。

今後もマンホール蓋と同様に、ご当地キャラが消火栓蓋に登場する機会が増えていきそうだ。

消火栓は上水道であるため、下水道広報プラットホームが発行するマンホールカードには含まれない。しかし、ここまでさまざまなデザインがあるのであれば、いずれ「消火栓蓋カード」も登場して欲しいように思う。街の人々に消火栓の存在を知らせるのにも役立つだろう。とはいえそれが実現した場合、また集めなければならないものが増えてしまうかと思うと、なんとも悩ましい。

イラスト・文・写真=オギリマサホ

オギリマサホ
イラストレータ―
1976年東京生まれ。シュールな人物画を中心に雑誌や書籍で活動する。趣味は特に目的を定めない街歩き。著書『斜め下からカープ論』(文春文庫)。