岡山ー出雲市駅間を走るJR山陰線・伯備線の特急やくもの新型車両273系が6日デビューした。42年ぶりの新型車両の導入に加え、国鉄時代から活躍する381系電車が引退することから、8日は歴代車両が並ぶ見学ツアーが開かれ、参加者のみが乗車できる専用列車も走った。全国の鉄道ファンでにぎわった数日間を振り返る。

 新型車両デビュー前日の5日は、2023年2月にリバイバル塗装で復刻した381系「スーパーやくも」編成の運行最終日だった。

 紫色の独特な塗装で復活直後はファンの間で話題となり、最終日が近づくにつれて沿線や駅は最後の雄姿を撮影するギャラリーでにぎわった。

 やくもより停車駅の少ない速達列車として1994年に運行を始めた直後は、米子から倉敷まで停車しない便も設定され、岡山ー出雲市駅間を最速2時間46分で結んだ。記者も何度か乗ったが、複線区間が続く岡山ー備中高梁駅間は特に速かった記憶があり、カーブで車体が急に傾き恐怖心を抱いた。
 
 新型車両の273系は、6日午前5時27分に出雲市駅を出発する「やくも4号」から営業運転を始めた。春を迎えた山陰・伯備線沿線にブロンズ色の真新しい車体が輝き、山陰の鉄道新時代の幕開けを象徴する一日となった。

 4両編成を基本とする273系だが、初日は一部列車が2編成連結した8両編成で運行した。JR西によると、8日時点で計6編成が後藤総合車両所出雲支所(出雲市東神西町)に配属しており、25日までは全15往復のうち6往復で運行。最終的には11編成44両が製造され、381系は置き換わる形で運用を終える。

 新型車両の運行開始に注目が集まったこの日、鉄道ファンの多くは、別の列車に熱い視線を注いでいた。

 出雲市で開いた歴代の特急やくも見学ツアーの参加者専用臨時列車だ。車両は特急やくもで使用され、ファンの根強い人気を持つクリームと赤を基調とした381系の国鉄色編成。6日は後藤総合車両所出雲支所からツアー始発駅の岡山駅まで回送運転が行われた。

 車両先頭部のヘッドマークは、見学ツアー開催を記念した特製仕様となったため、沿線は列車を撮影する「撮り鉄」が集結。時刻表に載っていない回送列車であるにもかかわらず、駅や撮影スポットは運行情報を把握したファンが多く詰めかけた。

 記者は桜が見頃を迎えた出雲市の斐川公園や、伯備線の上菅駅(鳥取県日野町)などで見送った。並行する道路では車で必死に追いかける撮り鉄の姿が見られた。国鉄色の人気恐るべしだ。

 7日は見学ツアー参加者を乗せた団体臨時列車が岡山から出雲市駅に向けて運転された。記者も出雲市斐川町の撮影地で待っていたが、予定時刻を過ぎてもなかなか来ない。すると周辺を巡回していた警察官が、通過を待っていたわれわれに対し「この辺りで線路への立ち入りがあった」と伝えた。JR西の運行情報をみると、山陰線の荘原ー直江駅間で発生したという。

 また、この立ち入り事案と直接関係しているかどうかは不明だが、記者が撮影していた踏切の近くでは、撮影者とみられる影が線路際で三脚を構えている姿を確認できた。

 結果的に出雲市駅には20分遅れの到着となり、他の定期列車にも遅れが生じた。詳細は不明だが、仮に撮り鉄が撮影目的で線路敷地内に入ったとすると、鉄道ファンに対する見方はさらに厳しくなる。良い写真を撮りたい気持ちは分かるが、列車を愛する思いがあるのであれば、運行を妨げる行為だけは絶対にしてはならない。

 8日は後藤総合車両所出雲支所での見学ツアーが開かれた。特急やくもの新型車両と、381系のリバイバルカラーを含む5編成が顔を合わせて並ぶ最初で最後の機会となり、参加者200人が夢中でシャッターを切った。

 車両運用の都合上、開催時間は午前6〜7時台となり、撮影場所から完全逆光となったのは惜しまれる点だった。ただ、展示車両が向かって右側から特急やくもとして運行を始めた順番に並べ、別の場所では5日限りで運行を終えた運転席窓の大きい「パノラマグリーン車」を連結した381系を展示するなど、細かい配慮がなされていた。

 午前5時から参加者を大型バス5台でJR出雲市駅から送迎し、一般客が会場周辺に押し寄せない対策として、同支所をまたぐ道路橋の通行を制限するなど、ツアー開催にあたって関係職員が尽力した様子が感じ取れた。

 ツアー参加代金は、出雲市内ホテルの宿泊費も含め大人が54800〜61800円と高価だったが、岐阜県関市から参加した会社員の男性は「ファンに特化した内容でとても楽しかった」と笑顔で話した。前日の専用列車内でのおもてなしを評価する声も多く、福岡県大野城市の会社員の男性は「移動時間もあっという間に過ぎ、国鉄車両の良さ、特急やくもの魅力を思う存分体感できた」と振り返った。

 リバイバル塗装の一部引退や、最初で最後となる歴代車両のお披露目で、かつてないにぎわいを見せたJR伯備・山陰線。特急やくもの全列車が新型車両に置き換わる6月16日までの2カ月は381系も活躍するため、新旧車両が定期列車で共演する。

 381系の運行最終日は大勢のファンの来訪が予想されるが、トラブルなく無事に走りきり、次世代を担う新型車両へバトンがつながるよう願っている。