コロナ禍によって自宅での調理時間が増えたことで、盛り上がりを見せたキッチン家電市場。ホットプレートや電気圧力鍋、スチームクッカーなど、調理の手間を省く魅力的な商品が市場に流通するきっかけを作った。しかし、そのブームは早くも終息の兆しを見せている。

ヤマダデンキの調理家電は2年で200億円が吹き飛ぶ


突然の需要の冷え込みに苦慮しているのが、新興・中堅の家電メーカーだ。

大手家電量販店のヤマダホールディングス、2023年3月期のキッチン家電カテゴリーの売上高は638億円だった。前期と比較して5.9%の減少だ。2022年3月期は10.8%も減少していた。2023年4-12月の同カテゴリーの売上高は横ばいで、回復する気配は見られない。


新宿のLABI ヤマダデンキ

キッチン家電が不調なのは何もヤマダデンキのことに限ったことではない。ビックカメラ2023年8月期のキッチン家電の売上高が、前期比3.1%減の314億円だった。グループ傘下にあるコジマは10.3%減少している。

ブームは終焉を迎えたとみてほぼ間違いないだろう。

キッチン家電は2000年代に入って4つの要素を軸に成長してきた。高級炊飯器に代表される素材の味を最大限に引き出す力、電気圧力鍋のような料理の手間を省く調理力、ノンフライヤーなどの余分な油をカットする健康促進力、そしてデザイン力だ。

各家電メーカーは、この4つを軸としたそれぞれのポジショニングを獲得していた。コロナ禍前から消費者を魅了する下地は整っていたのだ。そこに巣ごもりという、キッチン家電にとって絶好のチャンスが到来する。


コロナ禍がピークとなったバルミューダ


キッチン家電ブーム時代の寵児とも言える存在がバルミューダだ。コロナ禍の2020年12月に上場した会社だ。

上場後の2021年12月期に売上高が前期比46.0%増の183億7900万円、営業利益が同15.3%の15億1800万円で2桁増収営業増益を達成した。しかし、それがピークとなってしまう。

2022年12月期は辛くも赤字を逃れたが、2023年12月期は13億7500万円もの営業損失を計上した。売上高はピーク時の7割まで縮小している。


※「バルミューダ」決算短信より筆者作成



バルミューダは空調家電なども扱っている。しかし、売上の7割はキッチン家電が占めている。2021年12月期から2023年12月期までの売上推移を見ると、前述したヤマダデンキのキッチン家電と似通っていることがわかる。バルミューダが2024年12月期の売上予想を前期とほぼ横ばいとしているのも、ヤマダの2023年3月期第3四半期が前年と同水準だったことを考慮すると納得できるものだ。

この会社はインテリアショップに販売チャネルを設けたことからもわかる通り、デザイン性を最大のセールスポイントとしている。自社工場を持たないファブレスであることからも、デザイン力・企画力の会社であることがわかる。

キッチン家電が停滞する中、このビジネスモデルがどこまで市場を攻略できるかが再成長の最大のポイントとなる。


バルミューダフォンの悪夢が再び?


バルミューダは2月20日に「リベイクトースター」という新商品を発売した。価格は2万円台で、トースターとしては高額なもの。このトースターは、バルミューダらしいスタイリッシュな外観もさることながら、リベイクモードという新機能を追加している。

これは、市販の総菜パンなどの水分をキープしたまま温め、表面が焦げつかない絶妙な火加減で仕上げるものだ。しかし、同様の商品はツインバードがすでに販売している。2023年11月に取り扱いを開始した「匠ブランジェトースター」だ。カレーパンやクロワッサン、冷凍パンのリベイクができる。

発売から4か月で2万台、当初計画の4倍の販売を見込むヒット商品となった。

ツインバードも苦戦中の中堅家電メーカーで、2024年3-11月は2億9500万円の営業損失を出している。主力のキッチン家電は、3四半期累計での減収が3期連続で続いている。

「匠ブランジェトースター」は起死回生を狙う商品の一つだ。バルミューダはそれに追随したのだ。ただし、ツインバードは自社工場を持った老舗家電メーカーだ。機能性やアフターケアの面では、ものづくりを続けてきたツインバードに分があるのは明らかだ。


写真/shutterstock


バルミューダは業績悪化を機に大幅な人員削減を進めており、開発力が弱体化する懸念がある。もし、他社のヒット商品に気を取られて独自性を失い、本来の強みを発揮できない製品開発や市場開拓に邁進しては、自滅の道を歩むことにもなりかねない。

開発をすべて京セラに任せ、機能性において他社に劣っていたスマートフォンの大失敗がまさにそうだった。


電機圧力鍋以外に魅力的な商品を生み出せず


ピクセラの家電ブランドRe・Deはより深刻だ。2023年9月期、家電事業の売上高は前期比14.8%減の7億1500万円、3億6100万円のセグメント損失(前年同期は3億8100万円の損失)を出した。減収幅が大きく、赤字が全く縮小していない。


※「ピクセラ」決算短信より筆者作成



調理家電の売上高は前期比23.8%減の2億3000万円だった。冷蔵庫などの白物家電も前期比19.6%減の3億200万円と冴えない。Re・Deを含む白物家電は、2021年9月期の売上高が10億円を超えていた。今や半分程度となったのだ。

しかも、直近四半期の家電事業の売上高は、前年同期間比で4割減少。1億1000万円となっている。減収が止まらない。

Re・Deの人気商品の一つが電気圧力鍋だが、それに代わる画期的な商品を生み出せていない。

ピクセラはテレビチューナーの会社で、主力事業は斜陽産業のど真ん中にいる。家電は会社を立て直す希望の光とも見られていたが、需要の減退とともにその灯も消え入りそうな勢いだ。

取材・文/不破聡