東京・浅草のホテル経営者夫妻が次女や夫の姉に不凍液を飲ませて毒殺したとして警視庁に逮捕された事件で、夫の細谷健一容疑者(43)の鑑定留置理由開示手続きが4月9日、東京地裁であった。健一容疑者や代理人の柿原幹子弁護士は「医師の簡易鑑定もなく、いきなり起訴前鑑定の留置を決定したことは不当」などと訴えた。

丸坊主頭に銀縁眼鏡、黒のロングTシャツにグレーのスウェット姿

健一容疑者と妻の志保容疑者(37)は共謀して昨年3月中旬、次女の美輝ちゃん(当時4歳)に自宅で向精神薬オランザピンと不凍液に含まれるエチレングリコールを摂取させて殺害した疑いで、警視庁捜査1課浅草署捜査本部が今年2月に逮捕。

さらに捜査本部は3月6日、両容疑者が共謀して2018年4月ごろ、健一容疑者の姉の細谷美奈子さん(当時41歳)にエチレングリコールを摂取させ、同29日ごろに殺害した疑いで再逮捕した。

東京地検はこれを受け、両容疑者に刑事責任能力があるかどうかを判断するとして、精神疾患の有無を調べるための鑑定留置を請求、東京地裁が6月18日までの3ヶ月間の鑑定留置を決定していた。

東京地裁で9日午後に行われた鑑定留置理由開示公判では、健一容疑者は警察官2人に連れられて入廷。刈り上げたばかりと思しき丸坊主頭に銀縁眼鏡にマスクを着用していた。服装は、黒のロングTシャツにグレーのスウェット姿、茶色の簡素なサンダルを履いていた。

健一容疑者は傍聴席に座る記者らに視線を走らせ、弁護人側の席についた。

20人ほどの記者が傍聴席に陣取る中、健一容疑者の人定質問が始まった。女性判事の前に移動した健一容疑者はか細い声で氏名を名乗り、続いて問われた住所、職業に答えると再度、弁護人側の席に戻った。

 裁判官が事件概要と鑑定留置にいたった根拠を述べ、娘である美輝ちゃん、姉の美奈子さんにエチレングリコールを摂取させ死に至らしめたという部分に話が及んだ際も、健一容疑者は特段表情を変えることはなかった。

裁判官は鑑定留置を認めた要因として、これまでの証拠や関係者からの聞き取りなどから健一容疑者に精神障害の可能性があり、事件事実にどのような影響を及ぼしたかを知るうえで、責任能力の有無や程度を確認する必要があると述べた。

「上の子ども2人のことを一番心配しています」

これに対し、弁護側はまず健一容疑者が意見陳述に立った。不安げに「立ってですか座ってですか……」と小声で問う健一容疑者に、女性判事が「座ってでいいです」と促すと、座って口ごもりながら語り始めた。

「私は今まで精神科への通院歴や入院歴、精神薬などを受けた経験はありません。精神科で精神病と診断されたこともありません。2016年に一度だけ保健士から言われ妻と一緒に受診したことがありますが、妻は適応障害、不安障害と診断され、障がい者手帳を渡されましたが、私は特に診断も受けず薬を受けていません。

そのような中で簡易鑑定もなく、鑑定留置が決まりました。鑑定留置が決まってから3週間ですが、精神鑑定医の先生に診られたのは3月22日の一度で、その中でも先生から精神的に健康だと思われると言われています。3か月間という期間も疑問が残ります。鑑定留置によって会社の関係者の方々に迷惑をかけてしまったことを申し訳なく思っています」

続いて代理人がこう続けた。

「既往歴、入院歴もなく、そもそも鑑定留置が必要なのか疑問が残る。簡易鑑定も行われず鑑定留置が決定し、3ヶ月身体拘束が継続されている。弁護士としては本件鑑定留置に関しては取り消されるべき」

閉廷後に記者団の囲み取材に応じた柿原弁護士は、こう訴えた。

「通常、(子どもを)認可保育園に入園させるには就労していることが条件です。しかし、専業主婦の志保さんに精神的な病気があれば入園可能ということで、2016年に保健士さんの勧めで精神科を受診しました。

志保さんは不安障害、適応障害等の診断を受け、障がい者手帳の交付を受けましたが、この際、医師の診断を受けた健一さんには特に精神的な疾患はないと、診断書も出ませんでした」

柿原弁護士は、こうした背景を無視して事前の簡易鑑定や拘留中に医師の診察もなく、地検が3ヶ月の鑑定留置を求め、地裁がそれを認める決定を出したことを「不当」として、こう続けた。

「今回3月18日に鑑定留置の決定があったのち、鑑定医の診察、面談が3月22日に一度ありましたが、それ以降は何もない。そのようなスケジュールで3ヶ月という(鑑定留置の)期間が本当に最小限の期間なのか疑問に思います。

3月22日の鑑定医にも、『精神的には健康ですね』と健一さんは診断されたとおっしゃっています。最後に(健一さん)本人は、このような鑑定留置という長い身柄拘束においてよりいっそう会社関係、関係者の方にご迷惑をかけてとても申し訳ない、心苦しい思いです、と陳述しました」

また、ここ最近の健一容疑者の様子についてはこう語った。

「今は取り調べもストップしているので落ち着いて過ごしてはいます。上の子ども2人のことを一番心配しています。お子さんたちはまだ児童相談所の施設にいます。美輝ちゃん殺害に関しては、一貫して無実を主張していることは変わらないですね。お姉さん(の事件)に関しては、もし起訴されれば起訴後の公判で話すという弁護方針にしています」

逮捕されるまでは常に志保さんをかばうような言動、今は…

健一容疑者は、妻の志保容疑者について何か語っているのか。

「志保さんは2019年に放火をして2週間ぐらい勾留されて釈放されてるんですけど、そのとき以外、結婚してから離れたことがなかったので心理的影響はすごく大きかったと思います。

しかし、こうやって今は離れているので志保さんを少し客観視できてるのかなという印象は受けています。逮捕されるまでは常に志保さんをかばうような言動、対応で、私にも志保さんの悪いところを隠していた部分もありましたが、逮捕後しばらくしてからありのままを話すようになっています。今はいい意味で冷静になっています」

あたかも、事件発覚まで心身ともにコントロールされていた志保容疑者の呪縛を逃れ、健一容疑者は「自分を取り戻している」と柿原弁護士は言いたいかのようだ。

「(健一容疑者が一番心配しているのは)やっぱり子どものことですね。自分がこれから長く勾留が続くということになれば、誰も育てる人がいないので施設から学校にいくということになるのですが、本当にそこでちゃんと面倒を見てもらえるのかとかそういったことを心配しています。

接見禁止もあって直接手紙を出すこともできないので、子どもたちが今どんな思いでいるのかなど、ほとんど子どものことを心配しております」

かつて児童相談所の保護下にあった美輝ちゃんを細谷夫婦に「取り戻す」重責を担った柿原弁護士は、この日も健一容疑者に献身的に尽くしているように映った。
4歳で毒殺された女児の無念について、両親は何を思うのか。多くの疑念が今なお残されている。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班