東京都中央区の日本橋高島屋で開催していた「大黄金展」の会場から約1000万円の純金製の茶碗が盗まれる事件があり、警視庁捜査3課は13日、江東区の職業不詳、堀江大(まさる)容疑者(32)を窃盗容疑で逮捕した。怪盗ルパンを彷彿とさせる大胆な手口に注目が集まったが、発生2日後に逮捕されたのは、父親と2人で想像を絶するほど貧しい生活をしていた青年だった。堀江容疑者は「間違いありません。盗んだ当日に180万円で売りました」と容疑を認めているという。

父親と家賃6万8000円の集合住宅で暮らしていた

調べによると堀江容疑者は4月11日午前11時40ごろ、同百貨店本館8階で開催中の「大黄金展」展示・即売会場でアクリル製のショーケースの中に保管されていた純金の茶碗を盗んだ疑い。金工作家の石川光一さんの手による24金製の抹茶茶碗で、販売価格は1040万6000円だった。

社会部デスクが解説する。

「現場には警備員が配置されていたものの、ショーケースは施錠されておらず、近くにいた販売スタッフが別の客に対応して背を向けている間に持ち去ったとみられます。会場には当時、客が全部で20人近くいたようです。

従業員らが茶碗がなくなっているのに気づいたのは犯行から約20分後で、午後0時16分に110番通報をしています。展示品が高価なのに警備がお粗末すぎと批判されても仕方ありませんね。警視庁が防犯カメラを分析したところ、メガネをかけた若い男がリュックサックに茶碗を入れて持ち去り、高島屋を出てから地下鉄東西線に乗って逃走したことがわかった。

13日に捜査員が防犯カメラの映像によく似た男を発見して追跡、任意同行を求めたところ犯行を自供した。しかし、堀江容疑者が180万円で売却したという江東区内の古物商店には純金茶碗はすでになく、警視庁が行方を追っています」

一見、大胆で鮮やかなプロの手口と思いきや、堀江容疑者は犯行前後や逮捕当日も同じ交通系ICカードで地下鉄に乗車し、特に変装もせず防犯カメラに映りまくり、あっさり捕まった。周到な計画性を感じさせない、シロート感丸出しの犯行だ。

本人のSNSのプロフィールや書き込みなどを見ると、北海道旭川市の出身で、埼玉県を経て江東区に転居、父親と家賃6万8000円の集合住宅に2人で暮らしているらしい。

父親が激白「大学も行きたがっていたけど金がなくて」

取材班が自宅を訪ねると、父親がちょうど出てくるところだった。当初は困惑気味だったが、近くの公園のベンチに腰を下ろすと、とつとつと妻や息子、自身のことを語り始めた。

堀江容疑者は一人っ子で、妻は精神疾患で長いこと入院しているという。堀江容疑者が定時制高校を卒業した後に上京し、父は3~4年前に息子を追うように北海道を出て合流したものの、2人とも病弱で仕事も長続きせず、生活保護を受けて暮らしてきたようだ。 

「息子が東京に出てきたもんで、私も。息子はコンビニの店員や本屋、警備会社とかいろいろやったけど、朝早いし夜も遅いから長続きしなかった。何に使ってるか本人が言わないからわからないけど、借金もあるらしい。最後に聞いたときは150万円ぐらい、ローンがあるとか言ってた。息子は、勉強はできるんです。読書も好きだった。大学も行きたがってたんだけど、そんな金ないから」
 

父親は1000万円の純金茶碗は自宅で目にしたのだろうか。

「いや、私は見てないです。そんなの。(逮捕されるようなことは)初めて。そんなことする子じゃないんです。私からしたら、なんでそんな高いもん、簡単に(ショーケースが)開くようにしてたのかって。一千万円もするのに、そんな『はい、持って行っていいよ』みたいな準備するの、おかしいですよって本当なら言いたいですよ。

結局、手ぇ出した人が一番悪いんだけど。でも、一万円札が落ちてるのも拾ったらダメですよ、というみたいなもんです。だって、お金に困った人を10人歩かせて、その前に一万円札置いたら9人は拾うと思いますよ」

「贅沢は公園をブラブラして花をみることくらい」

独特な表現をする父親だが、それだけ生活が苦しかったのだろう。普段から、外食などはもってのほかだったという。

「なるべく金かからないようにするには自炊しかないですよ。私がつくってました。1日2食の方が多いですね。昼は大体飛ばして。バナナ1本くらいにして。お金のためです、こっち(東京)は物価が高いから。ちょっと買ったら千円、二千円すぐ飛んじゃうんで。朝はみそ汁つくって、ふりかけでご飯食べて。昼はもしお腹すいたらバナナ。

私は食べない方がいいんですけど。あいつは自分でカップ麺買ってきたりして、お腹がすいた時は食っていました。最低限のお金しかもらえないんです。もうそれ以上は一切出ていない。一円たりとも出ていない。そりゃそうですよ。みなさんの税金でね、私らそれで生かされてんだから。それで十分。

贅沢するといえば、2人で歩いて、まあ公園ぶらぶらしたり。まあ、そんなもんです。今だったら花がいっぱい咲いているからね。『ああ、東京にはこんな花があるんだな』とか。それが私は幸せなんですね。2人で歩けるのが」

確かに、堀江容疑者の犯行後の行動は、父親の説明をなぞるようだ。1000万円を超える値札がついた純金茶碗を“たった”180万円で売り飛ばしたのも、父親に打ち明けた借金の額に近い。本が好きで、かつては向学心にも燃えていた青年に魔が差したとしたら、どんな背景があったのだろう。父親の独白は後半に続く。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班