閉塞しきった日本の政治を、たった一人で変えた男の記録。前明石市長・泉房穂にジャーナリスト・鮫島浩がするどく切り込んだ『政治はケンカだ! 明石市長の12年』(講談社)よりマスコミに関する議論をお届けする。

マスコミ報道に対してモノ申す!


――(聞き手:鮫島浩、以下略):泉さんのツイッターを見ていると、とにかく色んな方面にお怒りで。ツイッターでも闘い続けている印象が非常に強いのですが、とりわけ辛辣なのは新聞やテレビといったマスコミに対して。もともとNHKにいらしたこともあって、やはり、マスコミ報道に対してはモノ申したい気持ちが強いのでしょうか。


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泉 期待の裏返しなんですけどね。大学を卒業してから、NHKに入社しディレクターになりましたので、昨今のマスコミの報じ方に対しては、どうも辛口になってしまいます。

私がNHKに入る時、最後まで迷ったのが朝日新聞。実は、就職試験を受けていたんです。結局、私は福祉の現場をお茶の間に伝えたかったので、映像メディアのほうが適しているかなと判断して、NHKを選びました。

その後、テレビ朝日に移ってますので、NHKとテレビ朝日という二つのテレビ関係で仕事をしたこともあり、マスコミに対しては思い入れが強い。マスコミの可能性を信じてその世界に入ったわけですし、そこはいまも変わっていません。マスコミが持っている大きな影響力には期待を寄せています。だからこそ、「本来の役割を果たしてますか?」と言わずにはいられないことが多々あって……。自分自身や明石市が関わってくる件に関しては、ツイッターで噛みついてしまうわけです。

「どっち向いて報道しとんや!?」という憤り、悲しみ、「もったいないなぁ」という嘆き。そういった思いが混ざりあって、昨今のマスコミに対しては、かなりキツいことを言っている。でも、ベースにあるのは期待感です。



――いまから新聞、テレビ、ネット、雑誌(出版)とメディアごとに議論していきたいと思うのですが、やっぱりそれぞれに特色があって長所・短所があるから、明石市の取り上げ方もメディアによって全然違うんじゃないですか?

泉 明石市長をやっていると面白いもんで、論調が完全に分かれるんです。明石市を好意的に報じてくれる、というか応援してもらえるのは、ほとんどがネットメディア。雑誌メディアも、一定の分量を割いて明石市の取り組みや私の思い・ビジョンを掘り下げてくれます。

問題は新聞とテレビです。この2つはやたら明石市を敵視して、批判的な報道ばかり。こと新聞に至っては、残念なことに、古い頭のままで明石市を見るから。私からすると「いつの時代の発想で、明石市を分析なさるんですか?」と思ってしまうことが多い。

特に大手新聞の、政治や解説記事を書く方。論説や社説も同様だけど、ものすごく凝り固まった古くさい思い込みをいまだにお持ちで……。

――私もつい最近まで、頭の古い新聞社にいたので、気持ちはよくわかります(笑)。


自称エリートたちが引き起こす「負の連鎖」


――新聞記者が記者を辞めたあとに就きたい、一番憧れの職業を知ってますか? みんな大学教授になりたいんです。記者を辞めて大学教授になるのが、一番のステータスだと思ってるの。だけど、ステータスを求めて新聞記者をやっていることが、そもそも大間違い。そういう記者が庶民目線で権力者を追及できるはずがない。
泉さんの「10歳から明石市長になりたい」のように、強い思いを持って働いている人が新聞業界にほとんどいない。官僚や外交官、政治家、弁護士、学者。どれになってもよかったけれど、試験の成績が足りなくて新聞社に入ったという人たちが、いまの会社の中枢にいる。それが新聞社の大問題だと私は思います。


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泉 いっぱい言いたいことがあるんですが、結論からいうと、財務省の官僚がいちばん害悪なんですよ。作業能力がいちばん高い人が財務省に行く。すると、厚労省とか他の役所の人間は財務省に引け目を感じてしまっている。記者もそうだという話ですけど、それこそ、どこも引け目だらけなんです。

私に言わせてもらえば、財務省の上のほうの人間はそんなに賢くもないし、全く政治がわかってない。わかっていない人がわかったフリをして進めるから、おかしなことがボコボコ起きる。彼らは、「自分たちがいちばん頭が良いんだから、自分たちの判断がいちばん正しい。その自分たちが考えるに、これ以上は増税しないと無理です」と言いますよね。でも、それ単なる思い込みですから。

にもかかわらず、厚労省は財務省に引け目を感じてケンカを売らない。だから厚労省は税金ではなく保険制度で何とかしようとする。介護保険もこども保険もそう。何でもかんでも保険を作る。それにまとわりついている社会保障系の学者、ジャーナリストは厚労省の言い分を垂れ流す。「こども予算を作るためには、こども保険が要る!」とか言ってね。

そんなものまったく要りませんよ。保険を作るヒマがあったら「財務省と掛け合って財源確保しろよ」という話なんだけど、彼らは財務省にビビってるから言えない。財務省に掛け合うことなく金を作るためには、保険しかない。

繰り返しになりますが、財務省には「金握っとんのやから、やりくりしたらええやないか」と言いたいし、厚労省には「保険増やしても税金は下がらないんだから、国民負担増えるだけやん」と言いたい。

財務省と厚労省が、馬鹿の一つ覚えで、競うように税と保険を取りまくったから、5割近くまで国民負担が上がっているのに、国民に全然恩恵が戻ってきてないでしょ? 本当に間違ってるんですよ。だけど、間違っていることを新聞記者は報道しない。記者もわかったフリして、垂れ流すだけ。



――わかったフリの連鎖は、財務省から始まり、ズルズル降りてきているというのは非常に興味深い見方だし、その通りだと思います。


部数が減ると国に媚びる最悪の経営陣


――新聞社でもう一つ大きいのは経営レベルの致命的な問題です。ご存知のように、いま新聞は発行部数が大幅に減ってどこも経営がピンチに陥っている。購読者は高齢者しかいなくなり、広告の単価も激減しています。
かつて、朝日新聞の一面広告は3000万円と言われましたが、いまは数百万まで単価が落ちている。それでも誰も出してくれない。そこで、弱りきった新聞を何が支えているかというと、政府広告、自治体広告です。
経営が傾いた結果、税金ビジネスと言いますか、電力会社なんかも含めて公的な団体・機関への依存度が上がってしまったのです。その結果、当然、広告料を払ってくれる団体を批判しにくくなる。経営的にも「なるべく政府や自治体とことを構えるな」と。

泉 そうそう。


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――明石市を例にとると、地元新聞は明石市に新聞をいっぱい買ってもらって、コマーシャルも出してくれる限りは応援するけれど、そうでなくなった瞬間に牙を剥く。現場だけじゃなく経営を担っている上層部も腐っているというのが、新聞の現状です。市長をやっていると、これ感じません?

泉 それはもう、明らかにそうなってますよ。明石市長になったときにビックリしましたが、自治体と地元紙の癒着は酷いもんです。「知る権利」の観点から、新聞に軽減税率8%が適用されること自体、ダメとは言いません。でも、なぜ定期購読の新聞だけやねん。駅売りの場合は10%だし、出版社が出す雑誌や書籍も10%でしょ。

国民の知る権利に奉仕してると主張するなら、メディア全体が8%で共同戦線を張って、一緒に闘えよ、と思う。なんで自分たちだけ得してんねん。それこそ、大手新聞社が政府と手を繋いでるだけですやん。

自分たちが優遇されていることもあって、新聞が消費税増税を批判できなくなった。これは大問題だと思います。

メディアたるもの、魂だけは失ってはいけないと思うのですが、残念ながら魂を失いかけているように見える。体質はいつまでも古いままで、紙面の中身はどんどん悪くなっているように感じる。


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――中にいるとよくわかるのですが、これまでテレビと新聞は情報を発信する権利を独占してきましたよね。それによって、やたら高い社員の給料を維持してきた。

彼らにとって、自分たちが独占してきた権利が奪われてしまうから、インターネットは脅威なんです。さらに、今まで情報を独占して威張ってきたから、インターネットとかITとか、新しい技術を学ぶ謙虚さも足りない。だから乗り遅れちゃったんです。

ネットに対して嫌悪感があるから、ネットメディアが泉さんを持ち上げると、新聞は逆に「ネットで褒められるような人間は大したことない」と、インターネットの価値を低く見ることで自分たちを上げようとする。そういう心理構造になってしまっている。

泉 新聞がやたら私や明石市を攻撃するのは、そういう事情もあるのでしょうね。

写真/MAKIKO


『政治はケンカだ! 明石市長の12年』(講談社)

泉房穂 鮫島浩

2023年5月1日

1980円

272ページ

ISBN: 978-4065318997

こころ優しき社会は闘争の先にこそ実現する!
閉塞しきった日本の政治を、たった一人で変えた男の記録

「冷たい社会を優しい社会に変える」ーー
10歳にして決意し、47歳で市長になった。
議会、政党、宗教団体、市職員、マスコミ…
利権まみれの敵に囲まれる四面楚歌のなかで
独り「ケンカ」を挑み市民の圧倒的支持を得た。
明石市長を卒業した翌日に刊行する本書は、
圧倒的多数の庶民とともに立ち上がる、
新たな政治闘争宣言である。