2024年3月28日(木)、くしくも一周忌となるその日に、坂本龍一が人生の最後に手がけた舞台作品が日本初公演となる。「TIME」という作品名が示すように「時間」がテーマとなる本作に込めた思いとは。

パフォーマンスとインスタレーションの境目なく存在するような舞台芸術を作ろうと考え、『TIME』というタイトルを掲げ、あえて時間の否定に挑戦してみました。

(2023年新潮社刊『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』より抜粋)

坂本龍一

坂本龍一が生前最後に手がけたシアターピース

2023年は、数多くのアーティストの訃報が我々の耳に届いた。

大橋純子、もんたよしのり、高橋幸宏ら1970〜80年代に活躍したベテランに加え、KAN、BUCK―TICKの櫻井敦司、X -JAPANのHEATH、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのチバユウスケといった、1990年代に頭角を表した、まだまだ若いといえるアーティストまで。
なかでも3月28日、日本の音楽シーンに大きな足跡を残した紛れもないレジェンド、坂本龍一の訃報は、多くの人々に衝撃を与えた。“教授”と呼ばれた坂本が生み出した数々の音楽と重ねて、自身の青春や人生を思い起こし、深い悲しみとノスタルジーにとらわれた人も多かったろう。

その1年後の命日にあたる、今年3月28日より、坂本龍一が人生の最後に手がけたシアターピース「TIME」が開幕する。

「TIME」は、1999年に約4万枚が即完売した公演「LIFE a ryuichi sakamoto opera 1999」に続き、坂本が全曲を書き下ろした作品で、コンセプトと創作にあたって、アーティストグループ・ダムタイプの高谷史郎を迎えた。

2017年から約4年の製作期間を経た本作は、2021年、坂本がこの年のアソシエイト・アーティストを務めた世界最大級の舞台芸術の祭典「ホランド・フェスティバル」(オランダ・アムステルダム)で世界初演され、高評価を得ている。

暗闇の中、雨音だけが響く客席空間に足を踏み入れれば、水鏡のように舞台上に揺らぐ水面と、精緻な映像を写しだすスクリーンに目を奪われる。
「こんな夢を見た」の語りで始まる夏目漱石の「夢十夜」(第一夜)、「邯鄲」、「胡蝶の夢」といった一連の物語と溶け合うテキストとともに紡がれる本作を包括するテーマは「時間」だ。

ダンサーの田中泯と石原淋、笙奏者の宮田まゆみらによる圧巻のパフォーマンスとサウンド、インスタレーションとヴィジュアルアートのすべてが、光と水が交錯し幻出するいくつもの「夢」とともに、劇場空間で融合する。

衣裳デザインにソニア・パーク、音響FOHエンジニアにZAKら、錚々たる著名クリエイターを迎えたシアターピースはまさに唯一無二の時間と空間を与えてくれることだろう。

「すべてが奇跡のようであり夢のようであり…」

冒頭の坂本龍一のコメントに加えて、本作のパートナーともいえる高谷史郎のコメントをお届けする。

坂本龍一さんと長い時間をかけて創作に取り組んだ『TIME』がようやく日本で上演の運びとなりました。奇しくも東京公演の初日は一周忌。坂本さんの訃報を聞いた時、この偶然に慟哭し言葉を失いました。2021年コロナ禍のアムステルダムでの初演は、田中泯さん、宮田まゆみさん、そしてチーム全員が一丸となって坂本さんと共に成し遂げた奇跡の初演でした。私は幸運にもこれまで数多く坂本さんと作品を制作させていただき、その過程で多くのことを学びました。『TIME』のテーマである「時間」についても様々な角度から多くのことを語り合いました。坂本さんが思索を重ね情熱を持って作り上げた『TIME』。他の作品と同様に『TIME』も坂本さんのアイディアで埋め尽くされています。そのシンプルな構造の中に何重にも様々な思想が織り込まれていて、坂本さんがプロットされたより深い意味を、今後も作品を上演していくたびごとに、私自身、理解を深めていくのだと感じています。終盤、舞台に響く藤田六郎兵衛さんの笛の音は、六郎兵衛さん生前最後となってしまった演奏を、渡邊守章先生演出の舞台公演の際に急遽記録させていただいた音源であり、坂本さんの強い思いでこのシーンが生まれました。すべてが奇跡のようであり夢のようであり、それは「時間」の中に、存在します。

高谷史郎

取材・文/集英社オンライン編集部

舞台
『TIME』
2024年3月28日(木) – 4月14日(日) 東京・新国立劇場 (中劇場)
2024年4月27日(土) – 4月28日(日) 京都・ロームシアター京都 (メインホール)


音楽 + コンセプト:坂本龍一
ヴィジュアルデザイン + コンセプト:高谷史郎

〈出演〉
田中 泯/ダンサー
宮田まゆみ/笙奏者
石原 淋/ダンサー

公式HP: https://stage.parco.jp/web/play/time/
特別協賛:シャボン玉石けん株式会社

〈東京公演〉主催: (株)パルコ、朝日新聞社、集英社-T JAPAN 後援: J-WAVE、TOKYO FM、interfm
〈京都公演〉主催: サンライズプロモーション大阪、(株)パルコ、朝日新聞社、集英社-T JAPAN 共催: ロームシアター京都(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)