トーク番組と一口にいっても各番組を細かく見れば、MCと出演者による会話の回しかたはそれぞれ似て非なるもの。では女性グループトーク番組を牽引する『トークィーンズ』と『上田と女が吠える夜』の場合はどうか? テレビ番組に関する記事を多数執筆するライターの前川ヤスタカが、出演者のかぶりもクリアする両トーク番組の「戦術」トレンドを分析する。

『トークィーンズ』と『上田と女が吠える夜』が
「似ている」といわれる理由

1対1の会話というのは、よくキャッチボールに喩えられる。
受ける相手のことを考えて適切なボールを投げなさい、しっかりと相手のボールを正面からキャッチしなさい、そんなふうに会話を成立させましょう、と。

その対比でいえば、集団での会話はさながらサッカーだろうか。
場の空気を察しながら、みんなが力を合わせて会話のパスをつないでいくには、それはそれでコツやテクニックが必要となる。

テレビのトーク番組など、まさにそうだ。『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系列)のように、明石家さんまがパスを出すものの、すぐにそのパスを戻させ、結局最後はさんまが一人でドリブルしてゴールを決めてしまうみたいな番組もあるが、多くの場合はチームワークでトークのゴールを目指していく。

今回は、2022年4月、ほぼ同時期にレギュラー放送が始まった『トークィーンズ』(フジテレビ系列)と『上田と女が吠える夜』(日本テレビ系列)の二大女性集団トーク番組について考えてみたい。

両者とも女性タレントが大勢出てくるトーク番組で、出演者も複数人かぶっていることから「似ている」といわれがちである。トーク内容も比較的女性ならではのテーマが多く、番組開始当初のネットニュースを検索しても、区別がつかないといった評が目立つ。

しかし、そのような表面的な類似点にとらわれず、「戦術」や「個々の出演者の役割」の観点から見てみると、その違いがかなり見えてくる。

トーク形式でMCと出演者のフォーメーションも変わってくる

『トークィーンズ』は毎回一人の男性ゲストを招き、そのゲストをぐるりと囲んだ女性出演者が問い詰める形であるのに対し、『上田と女』はMCである上田晋也に対して女性出演者がテーマに沿った自らのエピソードを話す形式で、そもそもトークの目指す方向が大きく異なる。

また『トークィーンズ』の女性出演者は毎回基本変わらないが、『上田と女』はレギュラー以外の女性タレントもたくさん出演する。その結果、出演者のフォーメーションも変わってくる。

『トークィーンズ』において、ゲスト男性はど真ん中に座る。対する女性陣は、MC指原莉乃をゲスト横の最前線、その逆サイドにいとうあさこ、ゲスト裏には若槻千夏、3時のヒロインを配置する。

これらをさらに囲む形で池田美優、藤田ニコル、生見愛瑠、アンミカ、ファーストサマーウイカ、フワちゃん、野々村友紀子といったメンツがゲスト遠めの位置に陣取る。

ここまで四方八方からゲストを取り囲むフォーメーションは過去の番組でもあまりない。強いていえば『堂本兄弟』(フジテレビ系列)フォーメーションとでもいおうか。

『上田と女』では向かって左にMC上田晋也、右に女性たちという布陣である。

毎回男性ゲストが1名来るが、配置されるのは上田側。女性陣の最前列左端には大久保佳代子が陣取り、複数いるゲスト女性タレントを囲む形で前列の右端にいとうあさこ、後列左側に若槻千夏、ファーストサマーウイカのレギュラー陣が配置される(回により出演するレギュラーは違うが、概ねこのような配置である)。

これは日本テレビ番組に多い伝統の『恋のから騒ぎ』(日本テレビ系列)フォーメーションである。

役割が明確な『トークィーンズ』に対し、
自由な『上田と女が吠える夜』

それぞれの出演者、とくにレギュラー陣に求められる動きも異なる。

『トークィーンズ』の場合、女性出演者は毎回基本ほぼ同じメンバーなので、ゲストに対する大まかな攻めの形はでき上がっている。

毎回、事前取材をするメンバーが一人おり、VTR出演しつつパネラー席からそのゲストを掘り下げる。それをきっかけにメインMCである指原莉乃と、いとうあさこがトークの組み立てを行うのが恒例である。

『トークィーンズ』がこの二人を中心としたフォーメーションなのは明白で、(今はなくなってしまったが)番組開始当初は二人だけが振り返るタイトル映像があった。

残りのメンバーはいってみればガヤポジションで、役割もある程度固定化している。ゲストへの鋭いツッコミは、ゲストの真後ろにいる若槻千夏や3時のヒロイン福田が主に担う。

前列のアンミカは基本ディフェンス役としてポジティブにトークを締める役割だが、時折思い切って放った発言が明後日の方向に行ってしまうこともある。

後列右端に陣取る生見愛瑠は、ゲストに向かっていくというよりは、リアクションとして自らのことを話す場面が多い。レギュラーの中ではいじられポジションで、攻め一辺倒になりがちな番組に変化をつけられる貴重な存在である。

またゲストによってフォーメーションを柔軟に変えることもある。

小籔千豊がゲストの際は、事務所後輩の3時のヒロインでは小籔に言いまかされてしまうと判断。その位置に先輩である野々村友紀子を急遽配置する臨機応変さを見せた。

『上田と女』では、後ろ盾として常に上田晋也がいるという安心感もあり、女性たちは基本自由にエピソードトークができる。

一方で、毎回毛色の違う女性ゲストが複数来るため、女性レギュラー陣はそのカバーに回る場面も多くなる。

若槻千夏、ファーストサマーウイカ、いとうあさこ
三者三様の個人トーク戦術

若槻千夏は『トークィーンズ』では後方で強いプレッシャーをかける役割である。近時の放送でも、おバカキャラのTravis Japanの面々が自作のポエムを甘噛みすると凄まじいスピードで「はいダメー」と一刀両断。後方位置からガッツリとゲストを削る役割が彼女には期待されている。

『上田と女』ではもう少しカバー範囲が広く、ときにはディフェンス、ときにはオフェンスと縦横無尽に顔を出す。「我慢できないモヤモヤ」を吐き出す回にもかかわらず、ゲストの愚痴が弱いと判断すれば、すぐに「こうされる方がもっと嫌ですよね」とトークを広げる。

かと思えば、大御所女優にありがちな「若さを保つ秘訣の質問に何もしてないと言いはるくだり」を「全カットでお願いします」とバッサリ。守りでも攻めでも存在感を見せる。

ファーストサマーウイカは『トークィーンズ』では関西弁と標準語をゲストにより使い分け、ときには悪者になることを厭わず献身的なトークを見せるが『上田と女』ではそれ以上にゲストへのカバーリングのよさが目立つ。ゲストへの「可愛い!」「すごーい」「まじで?」などのリアクションにおいては、誰よりも彼女の声が大きい。

上田もそんなウイカに全幅の信頼を寄せており、トークをもう少し広げたいなという場面では「ファッサマもそういうことある?」「ファッサマはどうなの?」など彼女に振ることが多い。

いとうあさこも双方の番組に出ているが役割は若干異なる。『トークィーンズ』では全体的に年齢層が若い中、お母さん的役割が求められがちであり、男性ゲストだけでなく女性陣にも「しょうがないわねえ」的な包容力トークが多い。一方『上田と女』では先輩の大久保佳代子がいることもあり、安心して突っ込んだエピソードトークをしている。

「引き出しが多ければ需要がある」を物語る若槻千夏の復活

サッカーでチームごとに戦術があるように、集団トークも番組が変われば求められるものは変わってくる。そして、臨機応変に動ける優秀な芸能人はいろいろなところから声がかかる。

一度表舞台を去ったはずの若槻千夏はその能力の高さで何事もなかったかのようにカムバックして多くの番組に順応している。

数多あるトーク番組も、個々の出演者の技術や、番組の色に応じたフォーメーションなど、細部に注目していくとまた違った楽しみ方がある。

『トークィーンズ』と『上田と女が吠える夜』は、手練れの女性芸能人たちがのびのびと違った持ち味を出していておもしろい。両番組が表面上似ているからこそ、これからもおたがいを意識し切磋琢磨していくことを期待する。

文/前川ヤスタカ イラスト/Rica 編集協力/萩原圭太