「失敗は成功の母」と言われる。
失敗をしない人はいないし、成功した人は必ず膨大な数の失敗をしている。となると、成功するかどうかを決定づけるのは、「いかに失敗と向き合うか」となるだろう。

スマートフォン一つあれば買い物も通信もエンタメもカバーできて、飛行機に乗れば世界中どこにでもいける、何世紀か前までは不治の病だった病気が、今では治療できる。私たちが当たり前に享受している現代社会の生活も、数々の失敗を乗り越えた末に発展してきたものだ。人類は失敗と向き合い続けたからこそ、ここまで発展できたのである。

◾️人は失敗を認めたがらず、ミスから目を逸す生き物

『失敗の科学』(マシュー・サイド著、有枝春訳)は私たちが失敗と向き合うための示唆として、私たち人間が本質的にもつ心理と性質を指摘する。

まず、私たちは「自分自身」から失敗を隠しがちだ。つまり、失敗を自分で認めたくない心理を持っている。仲のいい友達とのゴルフでさえ、スコアが思わしくないと不機嫌になったりするのが人間なのだ。

自分に対してでさえそうなのだから、同僚や上司に対して失敗を認めるのはさらに難しいのは言うまでもない。何かミスをやらかして、自尊心や職業意識が脅かされると、私たちはつい頑なになってしまうし、ミスを認めるのを苦痛だと感じる。しかし、言うまでもなくその心理こそが失敗から学ぶことを妨げるどころか、ミスや失敗を隠蔽してしまうことにつながるのだ。

◾️スケープゴートを作って逃げる人々

特に経験を積んで高い地位に上り詰めた人ほどこの傾向は強いのかもしれない。彼らは時に自分の失敗を認める代わりに、「スケープゴート」を作り、責任転嫁する。自分ではなく、この人間が悪い、とスケープゴートを厳しく糾弾する。

そればかりか、失敗を恐れるあまり、曖昧なゴールを設定することもある。たとえ達成できなくても、誰にも非難を受けないような、漠然としたゴールである。人はかくも自分の面目が潰れるのを恐れる生き物なのだ。極論すれば、人は大なり小なり皆失敗から学ぶどころか、失敗から目を逸らし、忘れようとする生き物なのである。

こうした人の性質を踏まえた上で、組織や企業はいかに失敗から学ぶ風土を作っていくか。というのも、個人から見たら失敗は「目を背けたい現実」だが、組織から見たらそれは成功するためのデータの山なのである。

本書では失敗をどう捉え、どう糧にしていくかについて、航空業界と医療業界の事例を比較して考えていく。年間何十億人もの人を輸送しているにもかかわらず、事故がほとんどない航空業界と、私たちが思っているよりもずっとミスが起きている医療業界では、ミスや失敗の捉え方が大きく異なるからである。

両者から何を学ぶか。そして自分が所属している組織はどちらのタイプなのか。一個人として読んでも組織人として読んでも学ぶところの多い一冊だ。

(新刊JP編集部)