悔やんでも悔やみ切れない。祈るような気持ちで仲間の戦いを別室から見届けた。頼むから勝ってくれ――。CB西尾隆矢(C大阪)にとって、残りの約75分間は誰よりも長く感じただろう。

「本当に、頭が上がらないという言葉と、本当に感謝しかない。勝利は本当にみんなのおかげ」

 4月16日、パリ五輪のアジア最終予選を兼ねるU-23アジアカップのグループステージ初戦で、日本は中国と対戦。開始8分に幸先よくMF松木玖生(FC東京)のゴールで先制に成功する。

 流れを掴み、ゴールラッシュが期待できそうな展開だったが、まさかの出来事が試合に水を刺した。

「本当にやってはいけない行動だった」

 西尾が反省の弁を述べる。前半15分を過ぎた頃にアクシデント。CKの際に攻撃参加していた西尾は、自陣に戻る際に、背中にぶつかってきた相手を左腕で振り払おうとする。これが肘打ちするような恰好となり、相手が倒れる。VARが介入し、オンフィールドレビューの末、西尾にはレッドカードが提示された。
【動画】西尾隆矢がまさかの一発レッド
「僕はそこに関してはもう弁明はしないというか、もう何を言っても言い訳になってしまう。あまりそこに関してのコメントは控えたいですけど、本当にまずは相手選手に大きな怪我がなく、プレーに支障がなくて(良かった)。(肘打ちは)本当に駄目なんですけど、不幸中の幸いというか、僕が怪我をさせてしまわなかったので、まだ良かった。ただ、プレーを見てもらった通りのことで、自分から本当に謝罪するしかない」

 言葉を選びながら当時の状況を振り返った西尾。自身の一発退場がチームに与えた影響は小さくなく、10人になってからの戦いは我慢の連続だった。なんとか耐え凌ぎ、松木のゴールを守り切って勝点3をゲット。安堵したのは想像に容易いが、試合後は真っ先に頭を下げたという。
 
 大岩剛監督には「軽率な行動で申し訳ありません」と謝罪。「次に切り替えて、今からまた行動をしていければいいな」と背中を押されたという。そして、仲間たちの存在が自分の心を救ううえで大きな意味を持った。

「重い感じで謝っていたから、わーって感じで明るく振る舞いました」とMF山本理仁(シント=トロイデン)が笑顔で振り返った通り、西尾が謝罪した瞬間に、全員が笑いに変えようと努めてくれたようだ。

 仲間たちの普段と変わらない振る舞いがあったからこそ、気持ちをスムーズに切り替えられたのは確か。中国戦の翌日は出場機会がなかった選手を中心に13人での練習となったが、誰よりも明るい表情で仲間を盛り上げようとする西尾の姿があった。

「僕自身は短期決戦の中でやってしまったけど、みんなが言ってくれたのは『もう本当に切り替えるしかない』ということ。仕方ないじゃないですけど、本当に僕自身はもう引きずってはならない。忘れるわけにはいかないけど、やっぱりチームはチームですし、自分がそういう(暗い)雰囲気を練習に持ち込むのは絶対にやってはいけない」

 現時点でまだ裁定が下っていないが、数試合の出場停止が見込まれる。いつ戻れるか分からないが、ピッチ外でチームに貢献する方法はいくらでもある。

「しっかりチームをサポートしながら、チームの勝利、優勝という目標に向けて、また一から頑張っていきたい」という言葉に嘘偽りはない。いつもはチームを支える立場にある男だが、今回ばかりは仲間に救われた。

 誰よりも責任を感じているディフェンスリーダーは、想いを新たに日本のために戦い続ける。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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