内田嶺衣奈×海老原優香 フィギュアスケート対談 前編(全3回)

 フィギュアスケート中継を担当するフジテレビの内田嶺衣奈アナウンサーと海老原優香アナウンサーのふたりが対談。

 内田アナは長いフィギュアスケートの取材歴があり、重層的にライブ感のある話があふれ出す。一方、海老原アナはフィギュアスケート担当1年目だけに、フレッシュではつらつとした言葉の響き。ふたりの話が織り交ざることで、フィギュアの魅力も自ずと浮かび上がり......。

 前編では、フィギュアスケートの現場の今と、競技をけん引する宇野昌磨選手について語ってもらった。


フィギュアスケートを語り合ったフジテレビの内田嶺衣奈アナ(左)と海老原優香アナ

【一緒に気持ちを乗せられる魅力】

ーーフィギュアスケート中継を担当されて現場に立っているわけですが、その楽しさや難しさとは?

内田嶺衣奈(以下、内田) 海老原アナはもともと「フィギュアスケートが好き」「(担当を)長く続けていきたい」と言ってくれているので、うれしいです!

海老原優香(以下、海老原) 内田さんに相当教えてもらいました。以前は、クリスマスの頃に(全日本選手権を)見て「きれい」「美しい」って印象でしたが、フィギュア班に入って、想像していた以上にフィギュアスケートの世界は奥深いと知りました。

 だから、競技の勉強は思っていたよりも大変でした。大会のスケジュールも朝から夜まで。フィギュア班は、一人ひとりのストーリーを大切にしているので、選手への配慮の細やかさは、これまでとは違う面がありました。

内田 体力勝負のところがあって、朝から夜まで取材して、ヘロヘロの時に中継で本番が来るんですよね(笑)。だから気持ちの面も重要で、特殊なところはあります。ただ、選手がすばらしい演技をしたあとのうれし涙や最高の笑顔を見た時、よかったって全部満たされるんです。あれが見られるから、すごく好きになったんだなって。選手のリアクションに、涙することもあります。ドラマを追いかけ、一緒になって気持ちを乗せて見られる競技であることが魅力ですね。

海老原 私は今シーズンの全日本からフィギュア班として取材をすることになって、現場で取材した経験が浅いのでテレビで見ている方の感覚に近いんですが......。中継対応の時、鍵山優真選手たち上位3人がグリーンルームで他の選手の演技を見ながら、「すげぇ」って少年のような表情になっていたんです。

 自分の順位が危うくなるのに、すごい演技を見たいし、仲間が一番いい演技を発揮してほしいっていう、心の底から応援しているのが伝わってきました。入れ替わりで順位が変わって、みんなそろって「今回の全日本は今までで一番じゃない!?」と言っていて、心が温まる場面を見られました。そういう姿を見て、お互いが鼓舞されている一面もあるんだな、と。すごくフィギュアスケートらしい一面を見て、自分もほっこりしました。

【目撃した宇野昌磨の強さと変化】

ーー今シーズンは、宇野昌磨選手が全日本で6度目の王者になりました。おふたりが見た彼の強さの秘密とは?

内田 私は初めて取材させてもらったスケーターが、宇野選手でした。たしか9シーズン前、ジュニアからシニアに上がるころ取材して、変化を見てきたと思っている選手ですね。そんな宇野選手の強さは、本番に至る過程のところ、「これまでの練習の積み上げに後悔がない」と言いきれるところかなと思います。

 結果がどうあれ、そこまでの自分の歩みに後悔がないから、"もう、それでいい"っていうスタンスをとれるんだと思います。そこまで言いきれる選手ってなかなかいないんじゃないかなって。宇野選手の経験や性格もあると思うんですが、後悔のない練習を積めて、そこに確固たる自信を持っているところが強さなんじゃないかと。

海老原 宇野選手は今シーズン、「自己満足」をテーマに掲げていて。だからこそ後悔がない日々を送ってきて、「どんな結果も受け止められる」ともおっしゃっていました。ステファン・ランビエルコーチの存在がモチベーションになっていて、「ステファンが喜んでくれるから、頑張れるんだ」と。そういうところで、自分でもっと表現を磨きたいというのが魅力であり、強さで。それは自己探求欲って言うんですかね。

ーー宇野選手は今シーズンのフリー『Timelapse』に象徴されるように、最高難度の曲で表現の成長をしていました。彼の自己探求、挑戦心はすさまじいです。

内田 フィギュアスケーターは、今までのイメージを変えたいって、次のシーズンに挑む選手が多い印象です。何かしら自分の引き出しを増やしていけるプログラムで、挑戦する部分が組み込まれているものをやって、スケーターとしてオールマイティになっていきたいというふうになると思うんですが、宇野選手はまさにそういう選手。

 これまでも宇野選手は、樋口美穂子先生に教わってプログラムをつくっていた時のイメージから、そこを離れてひとりで挑んだシーズン、すごくアップテンポの曲をやったり、それからステファンコーチと組んで王道的な曲をやったり、いろいろ挑戦している印象です。ただ、本人は難しすぎてできないとはならないし、何より、ステファンコーチが求めるものをプログラムとして体現したいという純粋な気持ちでフィギュアスケートと向き合っている印象があります。

海老原 宇野選手は、誰かと比較するのではなく、自分と対峙した時、過去の自分よりもこういうことができている自分でありたいという目線で取り組んでいるように映ります。何を一番に求めるのか......もちろん、競技は誰かと競うんですけど、自分のなかで、これを達成したいという目標があって、あくまで自分自身との戦いに重きを置いている選手ですよね。「自己満足」というテーマも、そういう意味で発言しているんじゃないかと思いました。

内田 宇野選手は、いつもお話を聞くたび、想定していない答えが返ってくるので、インタビューしていて楽しい選手です! 宇野選手ならではの世界観というか、そこに嘘がなくて。最近、こういう目線を持つようになったんだと思ったのは、これまでは自分にフォーカスした発言が多かったのが、「大会を盛り上げる一員でありたい」「お客さんが応援してくれる、ワクワクしてくれる大会をつくり上げたいから、そのパーツとしていい演技をしたい」というふうに変りました。

 フィギュア界全体を見ている発言で、試合の盛り上がりやフィギュアスケート人気に意識がいっているんだろうなって。スケーター歴が長くなってきたベテランだからこその、発言の変化なのかなと感じています。

中編<鍵山優真復活の舞台裏 内田嶺衣奈アナと海老原優香アナがフィギュアスケートを語らう>を読む

後編<坂本花織は「オーラがある」「強さを感じる」 内田嶺衣奈アナと海老原優香アナがなりたいスケーターは?>を読む

【プロフィール】
内田嶺衣奈 うちだ・れいな 
1990年、東京都生まれ。上智大学卒業後、2013年フジテレビに入社。現在はフィギュアスケート中継のほか、『プライムオンラインTODAY』(BSフジ)メインキャスターなどを担当。趣味は料理と旅行、特技はフランス語。

海老原優香 えびはら・ゆか 
1994年、東京都生まれ。学習院大学卒業後、2017年フジテレビに入社。2023年からフィギュアスケート中継を担当。『Live News α』金曜メインキャスターなども務める。趣味はゴルフで、番組でついたあだ名は「ブンブン丸」。

著者:小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki