昨年秋に開催されたラグビーワールドカップ後のシーズンとあって、世界中のスター選手が集結した「NTTジャパンラグビー・リーグワン2023-2024」。今シーズンはディビジョン1に所属する12チームのうち6チームで平均観客数が10,000人を超え、リーグ全体でも100万人を超える見込みだ。


ボーデン・バレットのトヨタヴェルブリッツ入りは衝撃的だった photo by Saito Kenji

 昨年12月から始まったレギュラーシーズンは5月4日〜6日に最終節を迎え、プレーオフに進出する上位4チームが決定した。

 プレーオフトーナメントに顔を揃えたのは、16連勝で首位通過した埼玉パナソニックワイルドナイツを筆頭に、リーグワン初優勝を目指す2位の東芝ブレイブルーパス東京、3位の東京サントリーサンゴリアス、4位の横浜キヤノンイーグルス。5月18日・19日に準決勝が行なわれ、5月26日に今シーズンのチャンピオンが決まる。

 まずはプレーオフ進出4チームに所属する外国人選手の今シーズンを振り返ろう。

 ワイルドナイツは今季、新たな大物外国人の加入はなかったが、すでに所属しているスター選手は今季も躍動した。ワールドカップで南アフリカの優勝に大きく寄与したCTBダミアン・デアレンデ、病気でワールドカップ出場を見送った元南アフリカ代表LOルード・デヤハー、そしてオーストラリア代表の愛称「サイクロン」WTBマリカ・コロインベテ。この3人は今季も変わらずワイルドナイツのスタイルにフィットしていた。

※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)

 一方、昨季5位から今季2位に躍進したブレイブルーパスには、ワールドカップ準優勝の「オールブラックス」ニュージーランド代表からふたりの大物外国人が入団し、大きな話題を呼んだ。

 クルセイダーズでスーパーラグビー7連覇を達成して「優勝請負人」と称えられ、オールブラックス56キャップを誇る世界有数の司令塔SOリッチー・モウンガと、突破力が武器の33キャップFLシャノン・フリゼルだ。ふたりはともにニュージーランド協会と契約せず、オールブラックスに選ばれる可能性を断ってブレイブルーパスと複数年契約を結んで来日した。

【プレーオフでXファクターとなる外国人は?】

 ワールドカップ終了後からリーグワン開幕までは1カ月あまり。時間はそれほどなかったが、ニュージーランド出身のトッド・ブラックアダーHCや日本代表FLリーチ マイケルのサポートもあり、すぐチームに馴染んだと言えよう。

 シーズン中に父が急逝して3試合休んだモウンガは、出場した13試合すべてに先発して145得点(4トライ/49G/9PG)を記録。フリゼルは15試合に先発して9トライを挙げた。カウンターアタックやキックが魅力のモウンガとフリゼルのふたりがブレイブルーパス優勝のカギを握っているのは間違いない。

 レギュラーシーズン3位のサンゴリアスには、「ポケット・ロケット」の愛称で知られる南アフリカ代表WTB/FBチェスリン・コルビ、オールブラックスの元キャプテンFLサム・ケイン、そしてアルゼンチン代表104キャップを誇るベテランSOニコラス・サンチェスの3人が加入した。

 こちらもビッグネームの加入で大きな期待が寄せられたが、コルビとケインはともにケガに泣き、それぞれ9試合と4試合の出場のみ。12月末に入団したサンチェスも4試合の出場にとどまり、チームに大きな違いを生み出したとは言いがたい。

 ただ逆に、大物外国人に頼らずとも3シーズン連続プレーオフに出場しているサンゴリアスの実力は本物であることも証明された。コルビはプレーオフでの復帰も予想されており、リーグワン初優勝を目指すサンゴリアスの「Xファクター」となる可能性も十分にあろう。

 2シーズン連続してトップ4に入った4位のイーグルスには、オーストラリア代表だったLOマシュー・フィリップが入団した。15試合に先発してチームの欠かせぬ「セットプレーの要」となっている。

 一方、昨季入団した南アフリカ代表SHファフ・デクラークはケガのために登録抹消となり、プレーオフに出場することはできない。ただ、かつてサントリーを頂点に導いた沢木敬介監督のもと、チーム力が上がっていることを示したシーズンとなった。

【大旋風を巻き起こすかと期待されたが...】

 続いて、プレーオフに進出できなかったチームの外国人選手も見ていきたい。まずはプレーオフ圏内の4位以内に入れず6位に終わった昨季王者クボタスピアーズ船橋・東京ベイ。

 今季は空中戦に強いウェールズ代表FBリアム・ウィリアムズと、オールブラックスのベテランHOデイン・コールズのふたりが入団。ただ、ウィリアムズはわずか出場6試合にとどまり、コールズも10試合の出場で退団。チームを上昇気流に乗せることはできなかった。

 5位のコベルコ神戸スティーラーズには、過去に在籍したことのある2014年の世界最優秀選手LOブロディ・レタリックと、2023年の世界最優秀選手FLアーディー・サベアの超大物オールブラックスが加わった。しかし、抜きん出た力を結果に結びつけることができず、惜しくもプレーオフ進出を逃した。

 代表を引退して入団したレタリックは共同キャプテンを務めて16試合すべてに出場し、サベアも15試合に出場して8トライを記録。ただ、サベアは前半戦こそ7トライを挙げてチームに寄与したが、後半戦は1トライとやや精彩を欠いた。サベアはニュージーランド協会と契約したまま他国リーグで特例としてプレーできる「サバティカル」での来日であり、今シーズンかぎりで退団する。

 トヨタヴェルブリッツにもこのオフ、超大物外国人選手が加入した。SHアーロン・スミスとSOボーデン・バレットのオールブラックスで100キャップを越えるハーフ団が揃って入団。リーグワンで大きな旋風を巻き起こすかと期待された。

 しかし、このふたりの実力をもってしてもプレーオフ進出はならなかった。勝ち負けを繰り返して7位に終わり、2016年・2017年の世界最優秀選手賞に選ばれたバレットは今シーズンかぎりで退団する。

 ワールドカップでトンガ代表として活躍したベテランCTBチャールズ・ピウタウは静岡ブルーレヴズに加入した。ランの切れ味と得意のオフロードパスで見せ場を作り、5トライを挙げてチームの勝利に貢献。しかし、チームは3シーズン連続の8位にとどまった。

【世界のスター選手の力だけでは勝てないリーグ】

 3シーズン前はサンゴリアス、そして今季はヴェルブリッツでプレーしたバレットは、日本ラグビーの進化をこう語る。

「(リーグワンは)本当にレベルが向上していて、競争が激しくなっている。3年前にサンゴリアスでプレーした時は3〜4つのトップチームで争っていたが、今は少なく見積もっても8チームくらいになっている。インターナショナル選手が増えたことでリーグワンのリーグの質が上がり、それが日本人選手のレベルアップにもつながっているのではないでしょうか」

 トップリーグからリーグワンに変わり、日本ラグビーのレベルが年々上がっていることは間違いない。有力な外国人選手がひとりやふたり入団しても、それだけで上位に進出することは難しくなっている。

 日本を去るバレットは、最後にこう言葉を残した。

「(トップ4に入るためには)一貫性と選手層の厚みが必要です。トップのチームはパフォーマンスに一貫性があって、それを継続できるレベルの選手が揃っている。そして長い時間をかけてメンバーがコンビネーションを作り上げていくことで、最終的に目標を達成している」

 世界のスター選手の力を借りつつも、それだけでは勝てない。日本ラグビーの未来を創る「リーグワン」は、個々の日本人選手はもちろんのこと、コーチ陣やスタッフも含めたチームの総合力が問われるレベルまで高まっている。

著者:斉藤健仁●取材・文 text by Saito Kenji