共同親権を選ぶとシングルマザー世帯の貧困が進むケースも…と懸念の声が上がっている(写真はイメージです)


 離婚後の共同親権を選べるようにする民法などの改正案を巡り、共同親権を選ぶと、離婚後も父母の収入の合算により、所得制限のある公的な手当や支援が受けられなくなる可能性があります。識者から「シングルマザー世帯の貧困化が進むケースもありうる」と懸念の声が上がっています。

共同親権とは

親権とは、子の世話や教育、どこで暮らすかの決定、財産の管理などを行う親の権利・義務のことです。これを父と母の両方が負うのが共同親権です。親権を持つひとり親は現在、単独で子育ての判断ができますが、共同親権では元配偶者との協議が必要な場面が生じます。


衆院スピード可決「問題があるのに…」

 改正案は、4月12日の衆院法務委員会で一部修正された上、16日の衆院本会議で可決されました。スピード審議に、離婚問題や女性の権利に詳しい太田啓子弁護士は「当事者のニーズからは程遠い。明らかな問題があるのに、放置されたままの法制化は無責任です」と憤ります。

 複数の問題点の中でも、太田弁護士が特に心配しているのが、年収の低いシングルマザー世帯が、高校無償化の制度などで対象外となるケースが出るのではないかという点です。

高校無償化とは

 国公私立問わず、高校などに通う所得要件などを満たす世帯(年収目安は約910万円未満の世帯)の生徒に、国が授業料を支援する「高等学校等就学支援金」制度。公立は年約12万円、私立は年約12万〜30万円が支給される。都道府県が私立の生徒向けに、独自の上乗せ制度も設けており、上乗せが充実している東京都は本年度から所得制限も撤廃した。


 委員会の質疑で、文部科学省の担当者は「保護者の定義は法律上、子に対して親権を行う者。共同親権を選択した場合には、親権者が2名となることから、親権者2名分の所得で判定を行うことになる」と答弁しました。

児童扶養手当の受給権を争う可能性も

 親権者が2人の場合であっても、一方がDVや児童虐待などにより就学に必要な経費の負担を求めることが難しい場合は、親権者1人で判定するとしましたが、太田弁護士は「わかりやすいDV事案でなくても、『相手が希望するならもめたくないから』と理解不足のまま共同親権を選んで離婚するケースが出るでしょう」と指摘します。東京都のように所得制限のない自治体でない限り、シングルマザー家庭の貧困が進む事案も起こり得るとして、「しっかりとしたフォローが必要ではないでしょうか」と話します。

 厚生労働省の調査によると2021年度で、母子世帯の離婚した父親からの養育費の受給状況は28.1%。太田弁護士によると、「養育費の取り決めで粘っても低い養育費しかもらえないなら、早く離婚して(ひとり親向けの)児童扶養手当を受給した方がいい」と、養育費を決めず「とにかく離婚したい」という母親も一定数いるといい、「共同親権を選び、監護者を決めない場合では特に、父母どちらに受給権があるのかで争いになるでしょう」と心配しています。