妊娠・出産、そして子育てが始まると夫婦だけが多かった生活に、祖父母との関わりが増えてくることがあります。お祝い事のたびに集まったり、子育ての相談にのってもらったり、赤ちゃんや子どもを預かってもらったりなどということもあるでしょう。
そんなときにばあば・じいじが子育てしていたころの情報と、現在の情報が違っていてとまどうことはありませんか?小児科医・白井沙良子先生は、年度初めなど新しい生活が始まったりしたころに、そのような相談をよく受けると言います。連載「ママ小児科医さよこ先生の診療ノート」の5回目は、ばあば・じいじ時代と、現在とで変化した子育ての常識・非常識についての情報です。

授乳は「3時間おき」に根拠なし!卒乳も無理のないスタイル

「出産したときに教えてもらったはずなのに、授乳のことって、結局よくわかりません・・・(0歳)」
「ミルク缶の表示量よりも少ない量しか飲んでないけど、大丈夫なの?って祖母に言われて・・・ちゃんとたりてるのかなって心配になります。(0歳)」

母乳は「3時間おき」にあげなければいけない、という科学的な根拠はありません(※1)。 「欲しがるときに、欲しがるだけあげる」が原則です。生後3〜4カ月くらいまでは、赤ちゃんの体重はぐんぐん増え、多いと1日50gほど体重が増える場合も。それだけ栄養が必要なのですね。
ミルクも同様です。ミルク缶の月齢表示は「お子さんが1日に飲むミルクの総量」の目安にしてください。表示の量よりも少なくても、体重が増えていれば問題ありません。逆にたくさん飲みすぎていないか心配という場合は、ミルク缶の表示を大幅に超えないように心がけてみましょう。

また「母乳がたりないから、赤ちゃんが泣く」というのを裏づける医学的な証拠もありません。授乳以外でも、おむつをかえてほしい、眠い、などのいろんな理由で赤ちゃんは泣きますよね。とくに生後2カ月ごろは「泣きのピーク」ともよばれます。1日で合計5〜6時間泣いていても、異常なことではありません(※2)。

なお「1歳になると母乳に栄養がなくなる」という話を聞いたことがあるかもしれません。これもまた、医学的な根拠はありません。むしろ世界保健機関(WHO)では、2歳以後も母乳をあげることを推奨しています(※3)。これは1歳を過ぎても、母乳にはさまざまな免疫物質などが含まれており、赤ちゃんをウイルスなどから守ってくれるというメリットがあるからです。

とはいえ1歳前後では、保護者が復職するにあたって、断乳を検討する場合もあるでしょう。医学的に絶対に正しい断乳・卒乳の方法はありませんが、「完全に断乳する・しない」と考えるのではなく「部分的に卒乳する」という考えもできるといいでしょう。慣らし保育の間に少しずつ断乳していく、夜間だけ授乳を続ける、週末や休日は子どもの思うままに授乳してあげるなど、ライフスタイルや親子の意向に合わせて、柔軟に対応できるといいでしょう。

ベビーフードは防災にも大活躍。アレルギーは恐れすぎないのが正解!

「ベビーフードや幼児食レトルトを、祖父母の前で使うのは気がひけて・・・問題ないですよね?(1歳)」
「小さいころ、私が卵アレルギーだったので、おばあちゃんが心配しちゃって。卵をあげるのは、遅らせたほうがいいですか?(0歳)」

市販のベビーフードや幼児食のレトルトを控える必要は、医学的にはありません。大手メーカーのものであれば、管理栄養士が、月齢・年齢相当の塩分やカロリーを基準に管理していることがほとんどのため、まず栄養面で安心です。さらに密閉され長期保存もできるので、防災アイテムとしても使えます。普段から食べ慣れたベビーフードを、防災バッグに入れておくといいでしょう。

またとくに身内で食物アレルギーをもっている人がいると「新しい食材をあげて、アレルギーの症状が出たらどうしよう」と不安になりますよね。結論から言えば「(もしアレルギーの家族がいたとしても)あえて特定の食品を避ける・遅らせることは、推奨されていない」というのが、最新の医学的な見解です。

まず妊娠中や授乳中のお母さんが「赤ちゃんの卵アレルギーが心配だから、卵を食べないようにする」ことは推奨されていません。特定の食べ物を避けても、子どもの食物アレルギーやアトピー性皮膚炎を防げるわけではありません。むしろ妊娠中に摂取するほうが、アレルギーの発症を防げる可能性があることが、研究(※4)で示されています。
 
さらに離乳食についても、たとえば卵はむしろ早めに食べ始めたほうが、卵アレルギーになりにくいのでは、という研究結果(※5)が報告されています。また卵に限らず、魚や甲殻類など、早期からさまざまな食材を与えることが、食物アレルギーの予防になりうることが報告されています。
このように、アレルギーの心配があるからといって、食べ始める時期を遅らせる必要はなく、むしろ通常通りの時期に食べ始めたほうがいいだろう、というのがここ最近の研究結果の主流です。もちろん実際に食べてみた後に、皮膚の赤みや嘔吐などの症状があれば、小児科医に相談してください。

なお「むし歯になる可能性があるから、離乳食は、口うつしでは与えない」というのは、認識している人も多いかもしれません。スプーンなどの食器も、子ども用のものは、大人と共用しないのがベターです。また「果汁を積極的に与える(スプーンに慣れるため)」というのも、今は推奨されていません。果糖・カロリーの摂取により、栄養となるごはんの摂取量が減る可能性があるからです。

風邪のときも、基本的には、普段どおりの授乳スタイルでOK!

「胃腸炎のときは、ミルクを薄めなきゃ!って言われたんですけど・・・どれくらい薄めたらいいんでしょうか?(0歳)」

病気のときの授乳のポイントも、気になりますよね。とくに生後6カ月を過ぎると、母体からもらった抗体(ウイルスとたたかうための免疫物質)が少なくなってくるため、胃腸炎などのウイルス感染症(いわゆる風邪)にかかりやすくなります。

たとえば胃腸炎のときは、授乳の量を減らしたり、ミルクを薄めたりするように以前は推奨されていました。ただし現在は、通常どおりの量やミルクの濃さで授乳して問題ないとされています。

たしかに一度吐いた直後は、また飲んでも吐いてしまいやすいです。よって吐いてから約1〜2時間は何も飲まず、おなかを休めることが大事です。ただしその後は、飲めるときに少しでも、栄養を体に入れることが大切です。吐きそうで心配という場合は、1回あたりの授乳の時間を短くしたり、ミルクの1回量を減らしたりするのはいいでしょう。

以前の「ミルクを薄くする」というのは、ミルクの浸透圧によって下痢がひどくなるかもしれない、という懸念があったからかもしれません。しかしミルクが濃いから下痢がひどくなる、というよりは、そもそも胃腸炎のウイルスのせいで下痢が出る、というのが医学的な考え方です。栄養の観点からも、通常どおりの濃さで調乳することが、現在は推奨されています(※6)。

ワクチンは、健康のためのプレゼント。同時接種も問題なし!

「こんなにいっぱい注射打ってかわいそうねぇって言われて・・・、前はこんなにワクチンの種類が無かったですか?(1歳)」

風邪というと、ワクチン(予防接種)についても、ここ数十年で子どもが受けるワクチンの種類がかなり増えました。以前は定期接種(無料で接種できるワクチン)ではなかったヒブワクチンや肺炎球菌ワクチンなども、定期接種となりました。結果として多くの子どもが接種でき、子どもの髄膜炎や脳炎など、命にかかわる病気が大幅に減少しました。

生後2カ月から一度に3本や4本も注射を打たれる姿は、痛々しいと思われるかもしれません。でも病気にかかったり、重大な合併症を起こしたりしないためのプレゼントとして、みんなで前向きに応援してあげたいものです。なお同時接種によって、それぞれのワクチンの副反応が増えたり、逆に効果が薄れたりすることはない、と日本小児科学会も発表しています(※7)。なお海外ではさらに多くのワクチンが定期接種として登録され、接種した赤ちゃんが重大な病気から守られています(※8)。

うつぶせ寝・抱っこの考え方も、時代により変化

以前は、寝るときにうつぶせにすると、頭の形がよくなると言われて推奨されていました。しかし現在は「寝るときはあお向けに」が原則です。「うつぶせ寝は、乳幼児突然死症候群のリスクを高める」という研究結果が数多く報告されたからです(※9)。

一方で寝返りするようになると、うつぶせで寝るのを好む子どもも出てきます。毎回あお向けにするのは現実的ではないため、「寝返り返り」ができるようになれば、うつぶせ寝は許容しうるという声明を、米国小児科学会は出しています(※10)。
まだ一方向にしか寝返りができないような子どもも、ママやパパが見ていない間に、寝返り返りをする可能性もあります。寝返りのレベルがどの程度であっても、とにかく安全な睡眠環境を整えることが大事です。小児科オンラインジャーナルのこちらの記事(※11)も参考にしてください。

また「抱っこしすぎると、抱きぐせがつく。甘やかさないほうがいい」などと言われた時期もありました。しかし現在では、むしろ適切に抱っこをしっかりしてあげるのが大事という考えが主流になっています。
抱っこしすぎて自立が遅れる、という医学的な根拠はありません。子どもが育つ上で欠かせない「自己肯定感」を育むため、また親子間での愛着形成のために、抱っこは必要なのですね。

文・監修/白井沙良子先生 構成/たまひよONLINE編集部

そのほか、祖父母との認識の違いで気をつけておきたい点が、長野県佐久医師会による「教えて!ドクター」(※12)にまとまっています。協働して子育てできるように、双方心がけておきたいものです。

※1 NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会、母乳育児Q&A、3.授乳間隔について
※2 Dev Med Child Neurol. 1990 Apr;32(4):356-62.
※3 NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会、母乳育児Q&A、15.カンガルーケアと完全母乳で赤ちゃんが危ないって本当?
※4 Evid Based Child Health. 2014 Jun;9(2):447-83.
※5 国立成育医療研究センター, 離乳期早期の鶏卵摂取は鶏卵アレルギー発症を予防することを発見
※6 日本小児救急医学会, エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017 第Ⅰ部小児急性胃腸炎診療ガイドライン
※7 日本小児科学会、日本小児科学会の予防接種の同時接種に対する考え方、2020年(改訂版)
※8 Know-VPD!, 日本vs世界のワクチン事情2『日本の常識は世界の非常識 日本vs世界のワクチン事情 - Know VPD! (know-vpd.jp)
※9 厚生労働省, 11月は「乳幼児突然死症候群(SIDS)」の対策強化月間です
※10 Pediatrics. 2022 Jul 1;150(1):e2022057990
※11 バウンサーで寝るのはNG?!意外と知らないSIDS(乳幼児突然死症候群)のポイント – 小児科オンラインジャーナル (syounika.jp)
※12 祖父母に伝える子どものホームケア -2021-new-祖父母 ok 3 (oshiete-dr.net)


監修者
白井沙良子 先生
PROFILE:慶應義塾大学医学部卒業後、総合病院に勤務。現在は小児科オンラインにて医療相談に携わりながら、小児科医として勤務中。まんが『はたらく細胞BABY』医療監修。5才と3才の男の子のママ。